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「ヤミィ/Knight A【騎士A】」をラッパーが採点してみたwww #4

 まぁ、アイドルラップなんですけど。
 それにしても他のなんちゃってラップとは一線を画すかもしれない予感の前兆を垣間見せてくれた期待値の高まるかもしれない楽曲だったので、取り上げさせていただきました。
 これまでダッサいネタばっかりのMCバトル (笑) や、同じく浅いJ-POPもどきにダッサい韻を金箔の如くすこ~し乗せたアイドルラップばかり聴かされ、それらをラップだと洗脳された同情すべき猿達にとっては、その洗脳を解き、本物のラップとはなんぞやということを考えるきっかけになり得る、とても価値のある楽曲だと、私は睨んでいます。

 まぁ、ダサいラップへのヘイトはこの辺にしておいて、当該楽曲「ヤミィ」を、日本語ラップの視点で聴くとどういうところが良いのか。ところどころ可能性を感じさせる押韻は何故聴き心地が良いのかを分析していきたいと思います。

それじゃ、やっていきましょうか。


「ヤミィ/Knight A【騎士A】」


【MV】ヤミィ/Knight A【騎士A】

ill.bell & DYES IWASAKI - ヤミィ [Self Cover]


・「再生数/両性愛/何が大切?/ハイセンス」


→ 再生数、両性愛 (バイセックス) の押韻はこの歌い手?グループ?の個性が出ていてとても良い。どちらも自身のリアルに基づいた言葉選びになっていて、曲の冒頭に持ってくるに相応しい押韻。
それだけに後半の韻が蛇足。「再/両/ハイ」と「何」は厳密には違う音であり、前者は二重母音、後者はヒアトゥスとなる。

 これは活字だけで韻を踏み、音にしてこなかったラッパーによく見られ、音を揃えるために二重母音として省略された母音をあからさまに発音することで音を揃える手法が存在する。一音一音強調して発音する、いわゆるラッパーっぽい発声の由来の1つにこれがあると思われる。
 と思ったけどここは「大切」だけで踏んでるのか。じゃあ問題ねぇわ。

 「ハイセンス」に関して、撥音の「ン」が考慮されておらず、このフレーズのオチにするには踏み外し感が強いため気持ち悪い。というよりも、それまでの「両性愛/大切」の並びが気持ち悪い。

「再生数/両性愛/大切/ハイセンス」
「aie(e)u(u)/aie()uu/aieu/aie()u」

 (u)は無声化されているので、「両性愛」のスは字余り、にも係わらず「大切」はeの後の1モーラ (拍) がが足りておらず字足らず、この時点で「両性愛」と「大切」は2音違う為、心地よい韻とは言い難い。今更「再生数」と「ハイセンス」で踏んでも取り返しのつかない韻の乱れが存在するのである。

・「届かんピストン/称アーティスト」


→ 厳密には「どかんピスト」との韻であるが、アイドルラップにしては面白い韻の踏み方をしているのでとても好印象。しかもこれをオチに持ってきているのが良いですね。

・「自慰行為/味濃い/(ね)ちっこい/実行委員/しっとり/(ガ)チ恋/ビットコイン/(ば)ちこり/ピンポイント/執行人/keep goin'」


→ う~ん……韻が多いから聴き心地は良いけど、韻に踏まれててダサさが目立つ、って感じですかね。良い韻と悪い韻に分けてみます。

〇良「自慰行為/味濃い/(ね)ちっこい/しっとり/執行人」
✕悪「実行委員/(ガ)チ恋/ビットコイン/(ば)ちこり/ピンポイント/keep goin'」

 「実行委員」は委員を無理矢理改変して「いん」と発音しており、度が過ぎる変形の為、日本語ラップ的にNG。
 「ガチ恋」のチの強調は理由がないため同様にNG。「ちっこい/しっとり」は撥音というきっかけがあり、それを基に「自慰行為」の「慰」とモーラを揃えているためOK。
 「ピンポイント」、ピンまではOKだが、「行為」と「ポイント」で踏むとトが余り、語尾の踏み外しは最もリズムを崩すためNG。かといって「ピンポイン」のように発音しても言葉も元のリズムを無視しているのでNG。
 そもそも、「ばちこりかますピンポイント/keep goin'」がバトルライム過ぎてダサい。
 即興のフリしてお出しするのが丁度いいくらいのクオリティの韻を音源で堂々と歌われても「あぁ勘違い中二病キッズかな?」としかならない。興奮しません。やり直し。
 それに比べ、「自慰行為/味濃い/(ね)ちっこい/しっとり/執行人」はとても良いですね。「味濃い」に至っては、濃いのkoのkを強調することで一拍を強調し、音を揃えているのがとても芸術点が高い。
 日常生活で「味濃い」と言う時、「味、濃い~」って言いますよね?この読点とkの子音を利用、つまり元の言葉のリズムを利用した韻の踏み方はとても素晴らしいです。
 「ガチ恋」がNGなのは「私マジでガチ、恋っすわ~」みたいな使い方はしないからです。

・「自宅隔離/企画パクリ」


→ 「再生数/両性愛」と同様、YouTuberである背景が効いた素晴らしい韻。

・「日月火ー土/育成パート/一斉稼働/二次元アート/短ぇスカート/」「いいスター』と/そっくりスタント/即リスタート/」


→ 語感を合わせつつ韻をシフトしていくやり方、とても良いですね。語頭は踏み外しがちですが、語尾がほぼ「ua(a)o」で踏めているので前半部分を自然にシフトさせられている。
 まぁ厳密に踏んでるのは「二次元アート/短ぇスカート」「そっくりスタント/即リスタート」の2つだけなので、この韻を思いついてから派生させたライムって感じしますが、綺麗にハマっているので文句無しです。
 短いを短ぇと変形させるのは個人的には好きじゃないんですが、歌っているキャラが日常的に短ぇ~とかやべぇ~とか言うのならば問題ないでしょう。キャラクターのアピールにもなりますしね。


・「尊み強い/とうとう3つ用意」


→ 推し文化?になるんですかね、推し文化でよく見られるジャーゴンと、裏垢を作って高評価を嵩増しする悪しき慣習をワードとして取り入れつつ、ほぼ同音踏みとなっているのが素晴らしいですね。
 (この押韻方法は、ラップの界隈においてはよく子音踏みと呼ばれるが、子音のみを揃えるものと峻別するため、私は同音踏みと呼んでいます。)


・「等価交換/と、多幸感/10日後か/と、書こうか」


→ こちらも同様にお手本のような綺麗な韻だと思います。
 読点を用いて二重母音部分を処理しているのが美しいですね。
 全体的にtとk等、子音を破裂音で揃えているため、更に音の響きが近いものとなっています。
 あと破裂音はキャッチ―ですからね。ヤンキーがbの子音を、赤ん坊がm,pの子音を好むようにラッパーはtやkの子音を好む傾向があると思っています。
(例:ヤンキー「"ぶ"っ殺す、"ボ"ケ、"バ"カ」 赤ん坊「まんま、パパ」 ラッパ-「一攫千金!? ちっちゃく前進!? 氷河時代だ評価しないか」)


・その他


→ 押し並べてカスですね。
 2,3文字しか踏めてない1組だけの脚韻をどや顔で出したり、1つの母音を細かく配置してる箇所も歌い手がそれを理解してないせいで韻を殺してたり、サビは同じ語彙重ねて誤魔化してるのが目立つし、そもそもただの喋りのパートが多かったりゆたぼんの件の頭韻も3文字くらいしか合ってないから響きが全然似てないし、全体的にアイドルラップの域を出ないなと感じました。
 とはいえ、上述したような目を見張る押韻が稀に見られたので、誤魔化しとセリフだけでラッパー気取ってるアイドル (笑) に比べれば100倍マシですね。


【総括】


 今回取り上げたのは、日本語ラップとして採点するに足る箇所のみです。それ以外は論外です。
 ただ、アイドルラップをラップだと思ってる猿を人間に戻すための入り口としてはかなり整えられた綺麗なラップだと思います。そういう意味で存在意義があるかなとは思っており、評価しています。
が、それを帳消しにするくらいダサい箇所が隠しきれてないのでグルメは喜ばないジャンクフードの域を出ないという感じですね。
 何より、MV制作陣と歌い手が韻のグルーブを理解してないのが良くない。まぁだからアイドルラップなんですけど。ここさえ改善されればもっと輝いていたリリックなだけに、非常に残念ですね。

 というわけで、今回の日本語ラップ至極ポイントは15点とさせていただきます。

 ラップパート、メロディパート、ポエトリーパートをあからさまに分けていた「水槽 - POLYHEDRON」と違い、「ヤミィ」はおそらく全編ラップのつもりで制作していると思うので、全体を採点対象にした結果この点数になりました。

 今回取り上げた部分のリリックだけを対象に採点するなら55点くらいはありそうですが、その他が足を引っ張りまくって15点です。もっと低くてもいいくらいです。

 ただこのラップを書いた人、最近ラップを書き始めたばかりだとは思うのですが、既にラッパーとしては凡人くらいの才能がありそうなので、綺麗な日本語や生きた日本語を学んで更に素晴らしいラップを書いてくれたらいいなと思っています。
 この記事を見て私宛てにビーフを書いてくれたりしたら喜んで返します。まともなラップであれば誹謗中傷すら合法になりますからね。

 それでは、ここまでお付き合いいただき有難うございました。
 計画的に記事を書くことが出来ず、毎度書き殴りの講評を投稿してしまって申し訳ないです。こういうところが読みにくい!みたいな感想あれば是非お伝えください。可能な限り修正します。

 それじゃ、この記事が面白かったら感想なり共有なり異議なりフォローなりなんなりかんなりしてください。
 それじゃあ、また今度。

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