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【本】走る哲学

 陸上選手の為末大さんの本です。ハードル選手として日本代表に選ばれた方です。トップアスリートだから、という訳ではなく自分のやりたい事に取り組んでいくときの信念や考え方を分かりやすい言葉で教えてくれています。周りを見すぎて自分が分からなくなっている方や、これから自分の人生をどう進めていけばいいのか、陸上に全く興味のない方こそ、先入観なしで為末さんの言葉が素直に自分に入ってくると思います。

去年、東京大学の柳川範之先生と話をしていた時に、サンクコストという言葉を教えてもらった。日本語では埋没費用といって、僕も聞いた事があったけど、説明してもらってなるほどなあと思った。

 辞め時が分からなくなる時によく考えてほしい言葉です。今までかけてきた時間やお金などが事業をたとえ辞めたとしても、返ってこない時の費用のことをいいます。いままで何億と投資してきて、今なおリターンがなく、この先もリターンは期待できない時。素直にその投資を止めてしまえばいいのですが、人間や組織は「いや、きっと来年はリターンがあるはず。ここで止めたら、この一年が無駄になっていまう!」と思って、ズルズルと止めらないまま損失を重ねていきます。埋没費用を小さくするためには、もうそこで辞めるしかないのです

 日常生活では、交際相手と長く付き合っている時に起こりえます。相手のことをあまり良くなく思っていても何年も付き合ってると、時間もお金も出してきたから、ここで交際を止めてしまっては、過去の自分を裏切ってしまう!!とか思い込んでしまう。そして結婚し、仲が悪くなり、離婚・・・。さっさと別れておけば良かった、と後の祭り。ビジネスやスポーツに限らず、埋没費用は自分の今までの行為を裏切るような気がしてドンドン増えていきがちです

日本社会の苦しさは、やめる事がそもそも前提に置かれていない社会の仕組みにあると思う。みんな同じだから、一人やめるのは怖い。逃げるな耐えろと教育されて、いざ社会に出てからさあ自己責任でどうぞと言われても無理だと思う。耐え方は習っても辞め方は習わない。

 そして辞め時が分からず、埋没費用は増えていく・・・。やめる事を推奨している社会はそうないでしょう。しかし、やめる事を考えの1つに含んでいない社会はあります。やめかたが分からなのではなく、そもそも「やめる」ことが考えの1つにないので、苦しい環境も耐えるしかなくなります。新卒で入った会社を半年で辞める。バイトを1週間で辞める。部活を1ヶ月で転部する。他人は「アイツは意気地なしだ」と批判する。なにがいけないのですか?批判している方はきっと「ホントは自分もそうしたいのに!ズルい!悔しい、キィィィィィィィィ!!」って思っているのでしょう。「一人やめる」ではなく、「真っ先に脱出に成功した!」と思うのが正しいのかもしれません。

 自分はどうしたいのか?自分で自分を見つめるのは難しいです。今の自分のやり方が正しく見えてしまうバイアスがかかります。環境が苦しすぎると他の方法を考える余裕すらないくらい、追い詰められます。「あれ?これはおかしい。かも・・・」と思ったならば、周りに相談しましょう、ではダメです!そんなことしても「いや。あってるよ。みんなそうやっているから。」と返されてしまいます。「ヤバイ!周りはまだ気がついていない!」と思って「真っ先に脱出」です。

どんな世の中にしたい?こう子どもに聞いてみる。実はほとんどの人は職業に夢をおいていない。花を売って人の笑顔が見たいんです。花屋は手段、目的は人を笑顔にする事。もし花屋になれなかったとしてもケーキを売って人を笑顔にする。仕事は違っても世界観は実現できる。

 この本で最もグサッときました。なんでその仕事に就いたのか。なぜ、その仕事を選んだのか。給料がいいから。福利厚生がいいから。親がやっているから。車が好きだから。旅行が好きだから。などなど。ですが、それって後付けかもしれないと感じました。たいていの人はそもそも世界観を考えていない。例えば、とあるサラリーマンがなぜその仕事に就いたのか、の問いには。給料がいい→なぜ?→お金がほしい→なぜ?→家族の生活を支える。ならば、目的は家族生活を安定して持続させることあるわけで、手段はお金を得るためにサラリーマンをする限りではないはずです。家族と触れあえる時間を増やすために家で自営業を営む。正社員は辞めるけど、家のすぐ近くでアルバイトして最低限のお金をもらいながら過ごす。極端な話に持っていくと、生活費は両親から貰って、自分は家にいる。自分はなぜ今の仕事を選んだのか?と考えると今の仕事を正当化するように考えが定まっていくのでダメです。自分はどんな世の中にしたいのか、自分は何を実現していきたいのか、を考えた方がいいですね。私が実現したい世界観は何でしょうか。考えたことなんてなかったかもしれない、と思いました。



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