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【マーケ】4.動画広告が指名検索数を大きく伸ばす:顧客の検索行動を決める、動画広告の活かし方

4-1.動画広告の重要性と伸び

動画広告市場の急成長

2022年の動画広告市場は昨対比で約133%成長し、5601億円に達した。

特に、スマートフォン向け動画広告の需要が大きく、昨対比で132.7%増加して4621億円となり、市場全体の83%を占めた。

さらに、インターネットに接続された「コネクテッドTV」向け動画広告の需要も急増し、昨対比157%の成長を記録した。

こうした成長の背景には、動画配信環境の整備が挙げられる。

テレビリモコンにNetflixやYouTubeなどのボタンが備わり、スマホやPCを通じて動画コンテンツが視聴できる環境が整ったことが大きい。

また、通信環境の改善や端末の高性能化により、動画視聴が身近になり、動画広告の市場拡大を後押ししている。

現代の消費者に合うクリエイティブの必要性

商品の違いが視覚的に分かりにくくなった現代では、静止画だけで訴求するのは限界がある。

消費者が商品の本当の強みを理解するためには、動画を用いた商品訴求が必要である。

例えば、静止画では伝えきれない商品使用シーンを動画で見せることで、商品価値を視覚的に伝えることができる。

一方、テレビCMの制作には以前は数千万円規模の費用が必要だったが、現在はYouTubeやTikTok向けの動画であれば、スマホ1台で制作し無料で配信できるようになった。

制作コストの低下と動画化の進行

動画制作のコストが大幅に下がった結果、プロ仕様の機材がなくても動画制作が可能となり、「動画化」が進んでいる。

しかし、スマホで安価に作った動画をただ流せば良いというわけではない。

テレビCMでは平均して1000〜5000万円の制作費がかかり、クオリティの高い広告が視聴者に影響を与えている。

過度に制作費を抑えると、商品自体が安価でチープだと受け取られるリスクもある。

チープ感を狙った場合、逆に目立つ可能性もあるが、その効果には注意が必要である。

視聴者の視点を考慮したクリエイティブ

視聴者は、あらゆる動画広告を無意識に比較して視聴している。

自社の動画が他の動画と並んで流れる状況を想定し、どのように目立たせ、受け入れられるかを相対的に判断する必要がある。

他の動画との違いを意識し、効果的なクリエイティブを考えることが、成功の鍵となる。

視聴者の視聴環境を想像する

視聴者は、テレビを見ながらスマホを同時に使用する「ながら視聴」のように、異なるメディアにまたがってコンテンツを楽しむことが増えた。

また、視聴者層や時間帯によって、見られる動画の種類も異なる。

そのため、1つの動画広告をすべてのメディアに同じ内容で流すことは効果的ではない。

本来は、テレビCM用、YouTube用、TikTok用といったように、各メディアごとに動画を作り分けるべきである。

例えば、駅のデジタルサイネージに流れる広告も、ターゲットに合わせた内容にする必要がある。

視聴者の視聴態度やターゲットを意識したクリエイティブが重要である。

タレント起用の必然性

タレントを起用する場合、その効果には必然性が求められる。

タレントは認知度やイメージを高めるためのアイコンとして利用される。

特に、まだ企業や商品が認知されていない段階では、タレントを起用することで認知スピードが速くなることが期待できる。

しかし、タレントを使わない方が効果が上がる場合もあるため、あらかじめタレントありきで企画を進めるのは避けるべきである。

ターゲットの設定や商品の魅力を十分に検討し、必要であればタレントを起用するという判断をすべきである。

また、競合他社がタレントを使っている場合、自社だけが使わないと相対的に弱く見える可能性もある。

ただし、タレントを使わないことで逆に目立つケースもあるため、戦略には必然性を持たせることが重要である。

動画の情報量と伝達手段としての優位性

動画は、文字情報よりも圧倒的に多くの情報を短時間で伝えることができる。

例えば、顔の表情や音楽、声のトーンなどが組み合わさることで、視覚と聴覚に訴える情報伝達が可能となる。

Forrester Researchの調査によれば、1分間の動画は180万語に相当する情報量を持っているとされる。

そのため、短い時間で多くの情報を伝える手段として、動画広告が非常に有効である。

現在、チラシなどの紙媒体も機能しているが、ターゲットに細分化して届ける伝達手段としては、動画がより効果的になっている。

今後は、動画を使ったコミュニケーションがスタンダードになり、広告においてもまずは動画を検討する時代が到来している。

4-2.「一言で自社サービスを紹介する」考え方で整理する

シウマイ弁当を目指す動画広告

15秒の動画広告で伝えられることは、一つだけである。

この短い時間で視聴者に多くの情報を詰め込もうとすると、何が強みで、何のサービスなのかが分からなくなる。

例えば、エレベーターの短い乗車時間でビジネスを説明する「エレベーターピッチ」という考え方がある。

動画広告も同様に、15秒や30秒という短時間で視聴者に伝えるべきメッセージを一言に絞り込む必要がある。

まずは、頭の中で15秒間を計って自己紹介をしてみる。

伝えたいことが一つしかないことが実感できるだろう。

「ラクスルで成功したマーケティングノウハウを詰め込んだ『成長と効率化を同時に実現する』テレビCMサービスがノバセル」など、情報を詰め込みすぎると、視聴者に伝わりにくくなる。

動画広告の効果を最大限に引き出すには、伝えたいことを一つに絞ることが大切である。

30秒の動画ならば、伝えられるメッセージはせいぜい二つまでが限界である。

シウマイ弁当型のメッセージ

「幕の内弁当タイプ」のメッセージでは、様々な要素が詰め込まれ、視聴者に何が伝えたいのかが分からなくなってしまう。

たくさんの選択肢が詰め込まれている幕の内弁当は美味しいが、どこのメーカーかは思い出せないことが多い。

一方、シウマイ弁当のように特徴が絞られたメッセージであれば、視聴者の記憶に残りやすい。

ラクスルのマーケティングでも、「チラシ印刷ができます」というシンプルなメッセージが、「チラシもカタログも名刺も印刷できます」という幕の内弁当型よりも高い効果を上げた。

重要なのは「誰に」「何を」伝えたいのかを一言でまとめること。

自社商品の特徴やサービスの魅力を、一言で表現する能力が求められる。

例えば、「売ったり買ったりするならメルカリ」、「クーポン付きのニュースアプリはスマートニュース」というように、機能による差別化を一言で伝えることが、効果的なコンセプトである。

一点豪華主義による記憶の定着

「一点豪華主義」を徹底することで、視聴者の記憶に定着させ、検索行動を促すことができる。

マーケティング戦略においては、ロイヤルカスタマーや訴求したい便益を基に、伝えるべきメッセージを一点に絞り込むことが重要である。

視聴者が自社の商品やサービスを思い出し、検索する可能性が高まるのは、想起される選択肢の上位3つ以内に入る場合である。

例えば、「バイト探しはIndeed」、「家を探すならSUUMO」、「プロポーズされたらゼクシィ」といった、強い動詞とサービス名を組み合わせたクリエイティブは、視聴者の頭に強く残る。

資金力がない場合は、「看護師の転職なら」「目黒で家を探すなら」のように、より細分化したアプローチをするのが効果的である。

このように、一点に絞り込んだメッセージを伝えることで、視聴者の記憶に残り、選ばれる可能性が高くなる。

ランチェスター戦略による一点突破

ランチを選ぶときに、ラーメン屋・カレー屋・定食屋が思い浮かぶのと同様に、視聴者の選択肢の中に入らなければ検討の土俵にも上がれない。

そのため、まずは「個人的に食べたいランチランキングの3位」を目指し、範囲を絞り込むことが効果的である。

後発で資金力がない場合でも、局地戦で一点突破する「ランチェスター戦略」を用いることで、視聴者の記憶に定着させることができる。

4-3.一言でクリエイティブジャンプさせるポジションの取り方

クリエイティブジャンプの効果

動画広告において、視聴者に「どう覚えてもらいたいか」というコンセプトを一言で整理した後、次に行うべきはクリエイティブの制作である。

ストレートな自己紹介のような表現では、メッセージが視聴者に届かない場合が多い。

「クリエイティブジャンプ」とは、ストレートに表現するのではなく、飛躍した表現で伝えたい内容を伝える手法である。

例えば、家事を積極的に行う人を自己紹介するときに、「私は家事に積極的です」と言っても視聴者には伝わりづらい。

そこで、第三者が一生懸命家事をしている姿を見ているストーリーを通して、そのメッセージを伝えることで、説得力が増す。

これは「クリエイティブジャンプ」によって伝えたい内容をより効果的に伝える一例である。

成功したクリエイティブジャンプの事例

経済メディア「NewsPicks」の広告展開では、元々のコンセプトは「NewsPicksは良質なオリジナル動画コンテンツを持つ経済メディア」というものであった。

しかし、このコンセプトをストレートに伝えたところ、反響は薄かった。

そこで、「事実、日本だけが30年間、給料が上がっていません」とクリエイティブを飛躍させることで、視聴者に強い印象を与えた。

結果として、視聴者に刺さる広告となり、効果が高まった。

このように、伝えたいコンセプトは変えずに表現を工夫することが「クリエイティブジャンプ」の成功例である。

ジャンプしていない例とその効果

一方で、社名を連呼するような広告は、クリエイティブジャンプしているとは言えない。

BtoB企業の場合、企業名を覚えてもらうことで営業活動にプラスの影響を与えることはあるが、一般的には社名を覚えてもらうだけでは効果が薄い。

ただし、商品力が圧倒的に強い場合には、ストレートな自己紹介型の広告でも成功することがある。

例えば、ダイソンの「吸引力の変わらない、ただ一つの掃除機」というキャッチフレーズは、商品そのものの力が強いため、クリエイティブジャンプを必要としない。

しかし、こうした圧倒的な商品力を持つことは稀であり、多くの場合、クリエイティブジャンプが必要となる。

広告主が手綱を握る責任

クリエイティブジャンプは重要な手法であるが、クリエイターに完全に任せると、企業の意図が反映されない広告になる危険がある。

広告制作においては、企業側が常に手綱を握り続け、自社の商品やサービスが主役となっているかを判断する責任がある。

面白さや会議の場の雰囲気に流されて判断を誤ると、広告の本来の目的から逸れてしまう。

広告主である企業側がしっかりとクリエイティブをハンドリングし、自分たちの商品やサービスが効果的に伝わるかを常に確認することが重要である。

広告代理店の選び方

広告代理店に依頼する際に、まず重要なのは「自社の事業をどれだけ理解してくれるか」である。

クリエイティブと商品の魅力を融合させることがますます重要になってきている現代において、単に表現が上手いだけのクリエイターでは成功しない。

多くの広告主が代理店を選ぶ際、事業理解を重視している理由はここにある。

また、クリエイターと直接話す機会を作ることも大事である。

営業担当を介すことで、伝言ゲームのようになり、意図がうまく伝わらなくなることがあるため、できるだけクリエイター本人と直接対話することを推奨する。

一見大手の広告代理店が実績豊富に見えても、自社の事業を深く理解してくれるとは限らない。

実績があまり目立たない企業や個人であっても、事業を丁寧に理解してくれる相手を選ぶことが成功への近道である。

オリエンテーションの重要性

マーケティング戦略を広告代理店に説明する際のオリエンテーションは、プロジェクトの成否を左右する重要なステップである。

「当社の製品は他社製品と違いがあまりないので、インパクトのあるクリエイティブをお願いします」といった依頼は、プロジェクトを丸投げしているようなものである。

このような依頼方法では、クリエイティブの方向性が広告主の意図と大きくズレてしまう可能性が高い。

オリエンでは、製品のコンセプト、マーケティング戦略、調査結果などを細かく伝え、明確な狙いを持たせることが必要である。

クリエイティブの修正と打ち合わせ

クリエイティブ提案が出された際、もし内容が自社の意図するものと異なれば、すぐに修正を行い、何度も打ち合わせを重ねることでズレをなくす。

重要なのは、クリエイターに丸投げせず、自社がプロジェクトの手綱をしっかり握り続けることである。

これにより、コンセプトに沿ったクリエイティブを作り上げ、プロジェクトが成功へと導かれる。

4-4.感情が動くクリエイティブになるよう顧客理解を深める

「商品が欲しいと思う感情」を捉える重要性

動画広告やテレビCMが視聴者に感動を与えたとしても、その結果商品が欲しいと思われなければ、その広告は失敗である。

「商品やサービスが欲しいと感じ、購買意向が喚起され、検索行動に結びつく」──この流れを意識しながら、対象顧客の感情を動かすクリエイティブを設計することが重要である。

感情は「知ってもらう」「欲しいと思ってもらう」「今すぐ欲しいと思ってもらう」の3段階に分けることができる。

ファッション商品であれば「かっこいい」という感情、BtoB企業であれば「信頼できる」という安心感が購買意向につながる。

どの感情が購買意向に結びつくのかを分析し、その感情を喚起するクリエイティブを作ることで、購買意向を高めることができる。

感情を喚起させるクリエイティブの重要性

「購買意向を喚起させること」がゴールであり、そのためには顧客の感情を理解し、それをクリエイティブに反映させなければならない。

しかし、よくある誤解として「かっこいい広告を作りたい」という要望が先行し、顧客の購買意向に結びつかないことがある。

ブランディング広告も、顧客を引き込む戦略がなければ失敗に終わる。

「かっこいいイメージに寄せたい」という願望だけで進めるのではなく、顧客がそのイメージを求めているかどうかを理解した上で進めることが正しい戦略である。

認知と購買意向のギャップ

商品やサービスの認知があるにもかかわらず検索されない場合、そのサービスが十分に理解されていない可能性が高い。

テレビCMが面白くても、何のサービスなのか分からなければ、購買行動には結びつかない。

特に中小企業においては、無意味にイメージを広めるのではなく、購買行動を促進することに集中すべきである。

インパクトだけでは意味がない

大手企業のテレビCMを真似してブランディング広告を行っても、成功するとは限らない。

例えば日清食品のように、すでに認知度が高く、商品の味が広く知られている企業の場合、「面白いCM」を作ることが効果的である。

しかし、認知がない企業が同様のアプローチを行っても、注目されずに終わってしまうことが多い。

インパクトのあるCMだけでは購買意向につながらない場合もあり、商品が売れないケースも非常によく見られる。

常に「誰に」「何を」伝えるのかを意識し、プロモーション動画が狙った感情のスイッチを動かし、それが購買意向に結びつくかを確認することが重要である。

「今すぐ」か「あとでもいい」の判断

商品やサービスによって、今すぐ欲しいと思わせるか、あとでもいいと感じさせるかが異なる。

例えば「チラシ印刷ならラクスル」のようなサービスは、すぐに必要ではないため、頭の中に印象を残すことが重要である。

一方で、お天気アプリのように、日常的にすぐに情報を得たいと感じる商品やサービスでは、「今すぐダウンロードして」と訴求し、その場で欲しいと思わせるメッセージが効果的である。

BtoB商材の場合、その場では必要とされなくても、特定の状況が訪れたときに思い出してもらえるようにすることが狙いとなる。

このように、商品やサービスによって顧客が抱く感情には「今すぐ」と「あとでもいい」の違いがある。

「その場型」と「あとでもいい型」

アプリのように「その場で欲しい」と思わせる必要がある商品やサービスは、即時的な感情に訴えることが重要である。

一方、BtoB商材や長期的に必要とされるサービスは、今すぐではなく、特定のタイミングで思い出してもらうことを狙う「あとでもいい型」のアプローチが適している。

この二つの違いを理解し、顧客の感情のグラデーションに合わせたアプローチを展開することが、購買に結びつく動画広告を作るための鍵となる。

刺さる動画広告の展開

購買に至る感情には幅があり、その幅を理解することが成功への近道である。

顧客が商品を欲しいと思うタイミングに合った訴求を行うことで、動画広告がより効果的に刺さり、購買意向を引き出すことができる。

商品やサービスに応じて「今すぐ」か「あとでもいい」の感情を見極め、それに合わせたクリエイティブを展開することが重要である。

4-5.伝えるべきことを決める

メッセージは1つか2つか、戦略次第

動画広告やテレビCMの制作において、まず対象顧客に伝えるべきコンセプトを決め、次にクリエイティブ制作とメディア選定に入る。

最も伝えたいことが決まっていれば、どのメディアを選んでも問題ない。

マーケティング戦略とコンセプトが先行し、これによって「30秒ほどの枠でないと伝わらない」と判断することができる。

15秒と30秒の動画は、まったく別の枠として考えるべきであり、15秒の延長が30秒ではない。

15秒動画では1つのメッセージを伝えることに集中し、30秒動画では2つ程度のメッセージが伝えられる。

最初は15秒動画に挑戦する企業が多く、短尺のメディアが増加している現状に合わせ、今後もクリエイティブの短尺化が進むと予想される。

ラクスルが導き出した「伝えたいこと」

ラクスルは、過去に「サービスに選ばれる理由がなかった」ことが売上が伸び悩んだ原因だった。

そのため、まず選ばれる理由を作り出すため、サービスを「分かりやすくする」ことを目標にした。

例えば「ワンコイン名刺といえばラクスル」という訴求を行い、売上と検索数が伸びたが、成長が一時止まった。

その後、顧客調査を行い、顧客のインサイトを深掘りして「安い」「簡単」といったポイントを改めて広告で訴求した結果、指名検索されるようになり、売上が順調に伸びた。

顧客理解を基にしたマーケティング戦略

ラクスルは、顧客調査を通じて顧客の使用方法やニーズを理解し、それをプロモーションに反映させた。

その結果、16倍もの差があったトップ企業の検索数を抜き、売上も順調に増加。

顧客獲得単価が下がり、指名検索による高い購買率が売上に寄与した。

このように、マーケティングは「作ったものを売る」ことよりも、「売れるものを作る」ことである。

指名検索されるように顧客理解を深め、競合との差別化を図ることが基本戦略となる。

顧客理解の重要性

マーケティングの4Pの前に、まず顧客理解が必要である。

次の3つの問いに答えられるかが、顧客理解の指標となる:

  1. 商品・サービスが顧客に選ばれる理由を理解しているか?

  2. 狙える市場規模やターゲットを理解しているか?

  3. 顧客起点で競合を正しく設定しているか?

売れ続ける状態とは、プロダクト、価格、ブランドのバランスが取れ、競合との差別化が図られていることである。

オリジナルのポジションを目指す

好感度が売上に直結しないという事実を理解することが重要である。

例えば、バラエティタレントの出川哲朗さんは、かつて「嫌いな男」としてワーストの評価を受けていたが、ニーズは存在し続け、近年ではテレビCM出演本数ランキングで1位になるほど再評価されている。

ここでのポイントは「好感度を上げるのではなく、オリジナルのポジションを取り、差別化を図る」ことが重要という点である。

商品やサービスも、好かれることや好感度の向上が目的ではなく、他にない独自の価値を提供し続けることで検索される状態を目指すべきである。

「◯◯のカテゴリーといえば△△の商品・サービス」と顧客の頭に想起されるような状態が理想であり、比較されて選ばれるのではなく、「その商品にしかない価値があるからこそ指名され、検索される状態」を目指す。

競合は顧客が決める

競合他社を決めるのは自社ではなく、顧客である。

顧客・自社・競合の3C分析において、自社都合で競合を設定してしまうと顧客理解が誤ったものになり、結果として検索されない。

かつての「テレビ機能戦争」では、メーカーが自社の競合を従来の他メーカーと設定し、ボタン1つ2つの差別化で競っていたが、実際にはスマホや「テレビを見なくなること」が本当の競合であった。

競合は顧客の頭の中にあるため、顧客の視点で競合を設定し、深い顧客理解に基づいた戦略が必要である。

重要顧客に焦点を当てる

「イタコになる」という言葉があるように、対象顧客の感情や視点を自分に憑依させて深く理解することが大切である。

特に、売上の80%を占める20%のロイヤルカスタマーに焦点を当て、その人たちの意見を分析することが重要だ。

ターゲットでない人に向けたメッセージは雑音に過ぎず、迷惑行為となる可能性がある。

あなたの商品を求めている顧客を見極め、その顧客が喜ぶクリエイティブを作り、届けることが鍵となる。

顧客視点での3C分析

3C分析は、以下の3つのバランスを取って行うべきである:

  • 自社の強み

  • 顧客が求めるニーズ

  • 競合がされたら嫌なこと

これらを見極めた上で、「なぜ」「誰に」「インサイト」「何を」「バリュー」「コンセプト」といったフレームワークを活用し、戦略を立てることが大切である。

企業の「なぜ」とパーパスの重要性

企業のマーケティング活動の根幹には「なぜ」があり、この「なぜ」がすべての活動に紐付いている必要がある。

企業の存在意義、すなわちパーパスが、近年では差別化の重要な要素となっている。

「あなたの会社はなぜ存在しているのか」「どの未来を向いていて、誰の何を解決したいのか」といった質問に答えられることが、企業の強みを生み出す。

単に製品の良さだけを訴求するのではなく、企業が存在する理由、その企業がなぜ選ばれるべきなのかを明確にすることが、指名検索を促すマーケティングフレームワークの基盤である。

例えば、ラクスルの「なぜ」は「印刷の仕組みを変える」である。

この「なぜ」を軸に、企業活動や広告展開のすべてが成り立っている。

重要な対象顧客とインサイトの導出

次に大切なのは、もっとも重要な対象顧客に焦点を当て、表面的な建前ではなく、その裏にある本音のインサイトを引き出すことである。

インサイトとは、顧客が表に出さない本音や潜在的なニーズを指す。

例えば、ラクスルの場合、重要な対象顧客は「集客印刷を必要とする中小企業」、インサイトは「無駄な時間やコストをかけたくない」というものである。

これに基づいて、「何を提供するのか」を明確にし、それを顧客にとっての**バリュー(価値)**に置き換える。

ラクスルの場合、「何を」は「チラシ印刷が安い・24時間営業」であり、バリューは「本来の業務に集中できる」ことである。

独自性とコンセプトの確立

自社の「推したいポイント」を顧客にとってどんな価値があるかをしっかりと考えることが重要である。

ここまで考えを進めることで、他社にはない独自性を一言で表現するコンセプトが生まれる。

例えば、ラクスルのコンセプトは「自分でやるをラクに刷る」である。

このように、企業の存在理由と顧客に提供する価値を明確にした上で、他社との差別化を図ることが、成功するマーケティングの要となる。

ユースケースのストーリー作成

ここでは、具体的なユースケースを作り出し、どんなお客様が、どのようなシーンで、誰が登場し、サービスをどのタイミングで使うのかを考えます。

このプロセスは、自社の商品やサービスがどのように利用されるのかを具体的にイメージし、伝えたいメッセージを視覚化するために重要です。

ストーリー例:中小企業のオーナーがチラシ印刷サービスを利用する場合

お客様
地方の小さな飲食店を経営する30代のオーナー、田中さん。お店の集客に悩んでいる。

シーン
田中さんは、新しいメニューのプロモーションをするためにチラシを作成することを考えているが、業務の忙しさから時間がなく、印刷会社に直接出向く余裕もない。印刷費用を抑えつつ、迅速に対応してくれるサービスを探している。

登場人物
田中さん(飲食店のオーナー)とその従業員。印刷業者に相談した経験が少ないため、不安を抱えている。

使ってもらうタイミング
田中さんは夜中に店舗の閉店後、仕事を片付けた後にオンラインで印刷の注文ができるサービスを探している。調べているうちに、ラクスルの「チラシ印刷が安い・24時間注文可能」というサービスを見つけ、店舗用のチラシをスマホから簡単に注文する。

注文を完了し、翌週には安くて高品質なチラシが届き、田中さんは満足。これにより、プロモーションが成功し、集客も上向いた。田中さんは、今後の販促にもラクスルを利用しようと決めた。

クリエイティブ制作への展開

このストーリーをもとに、次はクリエイティブを面白く、感情を動かす要素を加えます。

例えば、田中さんの忙しい日常や、深夜でも利用できるラクスルの便利さを強調し、視聴者が「このサービスを使いたい!」と思うような演出を考えます。

映像で、田中さんが仕事を終え、スマホで簡単に注文しているシーンを挿入することで、ラクスルの「手軽さ」「速さ」を視覚的に訴求できます。

最後に、プロジェクトの手綱を握りつつ、このストーリーをどう面白くクリエイティブジャンプさせるかを考え、メッセージを完成させていきます。

4-6.目的に合わせたメディアの使い分け

ファネルの現在位置を把握する

マーケティング戦略では、まずファネルの狙いたい段階と年齢層を決め、その後に適したメディアを選定する。

ファネルは主に「アッパーファネル(認知)」「ミドルファネル(購買意向)」「ローワーファネル(購買直前)」に分かれ、それぞれのフェーズで最適なメディアや手法が異なる。

  • アッパーファネル(認知):テレビCMやYouTubeなどの「プッシュ型」施策が有効。

  • ミドルファネル(興味・関心層):SNSやバナー広告、LINE広告など「プル型」のコミュニケーションが適している。

  • ローワーファネル(購買直前):リスティング広告やリマーケティング広告など「フォローアップ型」「獲得型」手法が中心。

まず、自社がどのファネル位置にいるのかを把握し、次にメディア選定とクリエイティブ制作に進む。

ファネルの位置に基づくメディアとクリエイティブの選定

  1. 認知獲得を狙う場合は、テレビCMやYouTubeを使い、認知型のクリエイティブを制作。

  2. 購買促進を目指す場合は、リスティング広告や運用型のクリエイティブを利用し、効果を計測して次の施策に反映。

  3. 購買獲得を目的とする場合は、獲得型のクリエイティブで、リマーケティング広告などを活用する。

メディアが細分化しているため、ファネルの位置とターゲット年齢層に合ったメディア選定が必要。

指名検索でファネルの現在位置を知る方法

ファネルのどこに課題があるかを把握するために、認知、サービス理解、次回の購買意向、検索数、購買数を定量調査で計測することが理想的。

ただし、すべてを計測するのが難しい場合でも、指名検索のデータを使えばファネルの課題を発見できる。

  • 指名検索数が少ない場合:ファネルの上部(認知)が不足している。

  • 指名検索数が多いが購買に結びつかない場合:ローワーファネル(購買促進)に注力が必要。

  • 競合他社との比較でも、どのファネルに課題があるかが見えてくる。

検索数を指標化することで、競合との比較が客観的にでき、打ち手に対する反響も即座に確認できる。

検索を意識したクリエイティブ制作が重要なポイントとなる。

4-7.各チャネルの強みを活かし、ターゲットや目的に応じて使い分ける

予算ありきでメディアを考えない

メディア選定やコンセプト設計を進める際、予算を最優先に考えるのは誤りである。

例えば、「100万円からテレビCM」といったサービスに飛びつくのはリスクが高い。

予算が限られている場合、まずはローワーファネル(購買・コンバージョン率の改善)に注力する方が効果的である。

すでに購買意向のある顧客に対し、購買確率を上げる施策を行うことで、費用対効果が高まる。

ローワーファネルの施策が限界に達したら、次にミドルファネル(購買意向層)、最終的にはアッパーファネル(認知)へと予算を拡張する。

認知目的でテレビCMを打つ場合、同じクリエイティブをYouTubeに流用することは可能だが、メディアごとの目的に応じてクリエイティブを変えなければ効果が見込めない。

メディアの使い分け

メディアは目的に応じて使い分ける必要があり、「テレビはアッパーファネル」「YouTubeはミドルファネル」などの単純な分け方ではなく、目的に応じて活用すべきである。

例えば、同じ30代向けでも、認知を目的とする場合はテレビCMやYouTube配信、サービス理解を目的とする場合は詳細な説明動画や企業インタビューをYouTubeで配信するなど、目的に応じたメディア選定が必要。

テレビとスマホの視聴態度の違い

テレビとスマホでは視聴態度が異なり、それぞれに合ったクリエイティブが求められる。

  • テレビ視聴:大画面で固定されているため、広告が習慣化しており、注意を引きつけるクリエイティブが重要。

  • スマホ視聴:オンデマンドで好きな動画を視聴するため、広告が唐突に挿入され、スキップされることが多い。スキップさせないように、視聴者を引き込むクリエイティブが求められる。

テレビCMと指名検索の関係

ラクスルはBtoB向けのチラシ印刷サービスを扱う企業で、最初はWebマーケティングを中心に展開していた。

しかし、顕在層の限界に達し、成長を続けるためには認知の拡大が必要となった。

その結果、テレビCMを含めた様々なプロモーションを組み合わせて実施し、どの施策が効果的かを検証した。

たとえば、テレビCMが放送された地域と放送されなかった地域での検索数や効果を比較し、テレビCMが指名検索に有効であることを確認した。

このように、メディアの効果を検証し、適切な施策を選定することが重要である。

小さい範囲から試す効果

BtoBサービスにおいて、テレビCMは効果測定が難しいという懸念が当初ありました。

そこで、まずは小さなエリアで試してみることにしました。富山県と石川県という、人口や県民性が似ているエリアを選び、制作費500万円、放映費500万円の合計1000万円の予算でテレビCMを実施しました。

クリエイティブの差をテスト

2つの異なるクリエイティブを作成し、「価格の安さを訴求したテレビCM」と「顧客満足度の高さを訴求したテレビCM」を両県で放送。

結果、明らかに効果に差が出ました。

  • 価格訴求型:指名検索数が伸び、サイトへの流入と売上も増加。

  • 顧客満足度訴求型:指名検索数と売上の伸びは価格訴求型ほどではなかった。

結果として、石川県と富山県の売上が対前月比で3~4倍伸びたことから、テレビCMの効果が確認されました。

テレビCMの効果とエリア拡大

富山県と石川県の成功を受け、次は関東圏にエリアを拡大して同じクリエイティブを放映。

関東圏でも同様に検索行動と売上の増加が見られ、中小企業の社長がチラシ印刷を考えた際に、ラクスルが頭に浮かぶ確率が上がったことが確認されました。

この結果から、BtoBサービスでもテレビCMが有効であるという確信を得ました。

すべての手法を試す重要性

ただし、テレビCMだけが最善の手段ではなく、デジタルマーケティングとの相性も非常に良かったため、どの広告が最も効果的かは試してみなければわからないという結論に至りました。

指名検索の伸びがテレビCMと相性が良いのは事実ですが、地方での試験的な動画広告は、1億円規模の予算が必要なわけではなく、予算を抑えて一度検証してみる価値があることが示されました。

企業の強みに合った手法を探し、まずは小さな範囲で試しながら、効果を確認していくことが大切です。

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