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『デニムを脱がないという事』

昨年の秋に『革ジャンで眠るという事』という、エッセイを書いた。
私は、そのあと革ジャンを脱いで、『デニムを脱がないという事』というテーマで日夜、暮らしていた。もう、三月ほど過ぎているだろうか。

今回はマンモスの毛皮で暮らしていた原人と言うよりも、アメリカのゴールドラッシュ時代の坑夫の気分で日日を過ごしている。ほぼ、24時間同じデニムを履いている。10日にいちど水洗いをするときだけ脱いで、あとはずっと履いている。

これも、なにより、地球に冬があるお陰です。冬があるからこそ、この試練に私は耐える事が出来ている。北関東の日中の気温が25°を超えるころまでは『アメリカン坑夫』の気分で暮らすつもりだ。こんなことが出来るのも、私が立派な『不安神経症』と『むずむず脚症候群』という病名を頂いているからに他ならない事も付け加えなくてはなりません。まっとうに生きている者にはなかなかできない、奇行種の生活がそこにあるのです。

また、とても、まだ、社会復帰できないという事情もあり、「せっかくだからなにかやろう」という私の心意気を私が買い、このような事態になっているのです。数年前に購入した岡山製の『セルビッチデニム』のぶ厚めのストレートで紅葉狩りにゆき、散歩をし、大掃除をし、紅白歌合戦を見、正月を過ごし、布団で寝る半病人の生活を楽しみながら、世界にひとつだけしかない私だけの「いい味」のデニムをつくっているのです。

そもそも、私はこのデニムの扱いに困っていたのです。ストレートデニムはバイクのりにはツラいのです。速度をだせば風に煽られてバタつきます。履き口の裾は広くバイクのステップ付近に干渉します。場合によっては、チェーンにデニムが巻き込まれて大事故の可能性もあります。そんな事もあって、バイクツーリングには履いて行けないのです。

では、なぜ買ったのだ。それはスマホを開き、酔っ払って「ポチって」しまったからだ。酔っ払ってスマホを開きわけのわからないものを買う。そんな時代のせいなのです。ベソス氏と三木谷氏のせいでもあるでしょう。スマホでアルコールの呼気を感知するとか、指紋認証のときの指先体温の異常を感知するとか、顔認証で酔っ払っている事を感知する事も、今のテクノロジーなら可能でしょう。しかし、『ベソ&ミッキー』は、それを放置しているのです。便利と引き換えに、『酔いポッチ』を防ぐ手立てを意図的に遅らせて、「ふん」と、見ないふりをしているのです。

だから、私は苦肉の策で、『デニム寝』をしているのです。正直に言えば、寝心地、ごわごわで良くありませんでした。ようやく、いま、すこしだけ身体に馴染んできたところです。「睡眠だけはしっかりとってくださいね」と、心療内科の先生に言われているのに、『ベソ&ミッキー』のせいでデニム寝を春まで続けなければなりません。半分、フザケながら生きている私にとって、これはマストなのです。せめて、世界に1本しかない味わい深い私だけのデニムが出来上がるのを楽しむしかないのです。

もうひとつ、大事なことを。ずうっと、おなじ服装でいるのは、かなり楽です。ただ、なにか「シャキッ」としないのです。パジャマには見えないけれど一日中パジャマで過ごしているのと一緒だからでしょう。私は漫画の主人公ではないのです。同じ服装でずっといると、生きた心地がだんだん目減りしていきます(何着かあればいいのかも知れません)。そんなときは冷水で顔を洗いましょう。冷水で顔を洗うと生きた心地がします。

最後に一言。タモリ氏の言葉を借りるなら。
これも『酔いポッチ』した私のせいであります。そして私は『酔いポッチ』した私という、あなたの作品です。



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