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『大室公園とデングラー』

ま冬になると、ちょくで赤城おろしに吹きつけられる公園がある。私の書く文章にたびたび登場する、赤城山の南麓にある大室公園だ。
今日の朝、ふらっとカワサキW650でそこに行った。今日の赤城おろしは風速10メートルが予想されていた。にも拘わらず、駐車場は7割方うまっている。群馬県民は唸るような風のなか、ごく普通に散歩していた。
私も、群馬県民の端くれだ(しかも、オートバイで来たのは私のみ)。缶コーヒーのホットを飲みながら散歩をはじめた。赤城おろしに抵抗して、かろうじて残る葉を眺めては木々の間を、さくりさくりと枯れ葉を踏んでゆく。

私は、勢いを無くしたコスモスの横を歩いている。ふと、前方の芝生に目を奪われた。二人の子どもが『でんぐりがえし』をしていたからだ。なんどもなんども、すごい勢いで、でんぐりがえっていた。それを、子どもの両親が見守っていた。止める様子は一切無い。でんぐりがえっては起き。でんぐりがえっては起きていた。私は心のなかで拍手をしていた。この両親は損して得を取っているのだろう。そう、思った。なにせ、二人の子どもは、枯れ芝だらけだ。埃や草は帰宅するまで、家に帰って風呂から上がるまでついてまわるだろう。車内のシートの隙間に芝は入り込むだろうし、わけのわからない虫が家のなかで繁殖するかも知れない。洗濯も大変だろう。それを解りながら、でんぐりがえしを止めない両親の豪胆さに私は感嘆していた。

その勇ましい光景をずっと見ていたい。けれど、ミリタリーコートのフードを目深に被り、さらにつば付きのキャップをそのなかに被る私はおそらく怪しい風体をしている。私は素早く立ち去らねばならない。その自覚があるのでどこまでかれら兄弟が、でんぐりがえっていたのかは解らない。けれど、かれら兄弟は立派な『デングラー』になるはずだ。その素質を私は見た。
あの両親は知っているのだ。まず、『デングラー』になる。それから、ジョブチェンジしたほうが得だという事を。いっときの損に囚われていない。『デングラー』になってしまえば、どんな職業にも就けるはずだ。
私も『デングラー』になりたい。でんぐりがえりたい、どうしよう。そんな逡巡があった。でも私は出来なかった。怪しい風体をしているし、寒いし、埃ぽいし、目立つし、怪我するかも知れないし。
ただ、私の心にはまだ熱い『デングラー』の魂がめらめら燃えている。いつか、大室公園が空いてるときに絶対でんぐりがえって見せる。今年中にその報告をみなさんにしたいと思う。私はくだらない約束はぜったいに守る。

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