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『金曜日の夜の子』

子の頃
金曜日の夜には
これからのことなんか
これっぽっちも頭になかった
ぽかんとぽかん
いくら頭を叩いたって
空の音しかしない
頭を揺らしたって
耳から問題はでてこない
学校の机の引き出しの中に
問題は置いてきた
口から好き子の名もでない
下駄箱の下の段に隠してきた
ともだちとの悩みなんかは
校庭のヒマラヤ杉の根元に埋めてきた
これからのことなんか
ランドセルの奥の暗がりで寝ていた
月曜日なんて広瀬川で溺れている
金曜日の夜の子の私は
そんなふうだった
けれど、うすうすわかってはいた
これでいいのかな
でもどうしよう

大人の私が子の私にたずねる
「月曜日は一月後ですか?」
月曜日はこの世から消えたよ
子の私はそう、うそぶいた
子の私はすこし気分を害されたようだ
「大人になったらそうはいかない」
一晩中月曜日でいっぱいの頭がある
三月後の月曜日のことで寝られない大人もいる
そんな子もいっぱいいるんだよ
市営団地の一階に暮らす
金曜日の二段ベッドの下段の子の私に
ねむるゆめのなかで会ってきた
いじわるなことも言っている
子の私のなかに
月曜日をわすれていられることのしあわせがあった
日曜日のゆめのなかの子の私に尋ねた
「休みたいときはどうするの?」
いかなきゃならない
いかなきゃならないんだって
みんなそうだよ
風邪をひかないと休めないよ
「ずる休みは?」
しないよ、ほら、と
皆勤賞の賞状を見せてくれた
子の私は自慢気だった
私は皆勤賞の賞状が自慢の子だったらしい
なんてこった
あわれで、かわいい子の私
皆勤賞なんてどうでもいいのに
学校と親に騙されているのに
丑三つ時だ
大人の私の帰る刻限がきた
「風邪引くなよ、歯、みがけよ」
「学校、休みたいときはやすめよ」
「小説は日のあるうちに書くこと」
「エッセイは夕方から夜がいい」
「ねむれない夜は詩を書くといい」
「詩はゆめのともだちだから」









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