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『やっぱり大しゃっくり阿闍梨』

やはり来た。
『ガンかわいがり点滴』の副作用の吐き気を抑える為の副作用のしゃっくりが、だ。私は3週間に二回は『大しゃっくり阿闍梨』を襲名する。
患者それぞれだろうが、やはり、吐き気よりしゃっくりのほうがマシなのだろうか。私は余程の事がないかぎり、医師の判断に従う。

私が昨夏からの治療期間に『我』をだしたのは2回だけだ。
私は基本的に素直で、「はい、はい、はい、それでいいです」の問答を繰り返す物わかりのいい患者だ。関係ないが、49歳の中年男のわりにはチャーミングなところもある。それは私の文体から漏れ伝わっていることでしょう。

私我わがだし』の一回目は、術後の『ガンかわいがり』がツラくて5日で治療を止めたとき。がん再発、転移の確率が一割五分になるか、二割になるかを、私なりの天秤にかけて『ガンかわいがり』を止めた。
とてもじゃないが正気じゃいられなかった。直接的な副作用と認められていないのだろうが、私の造語『鬱鬱不安頭』が発症した。不眠になった。じっとしていられなくなった。自死がちらついた。遺書を書き殴った。バイクで走っているときだけが、私を取り戻す事ができた。薬が体内から抜けてもその症状は治まらなかった。
そして、心療内科にとびこんだ。不安神経症とむずむず脚症候群の病名を頂いた。処方薬を飲み、ほぼ一晩で治った。

『私我だし』の2回目は、肝臓にがんが6個転移している事が判明したときだ。全身のどのあたりまで転移の兆候が見られるかが解る『PET検査』を、他の病院で受けてほしいとの医師からの要望を断ったときだ。また、私は私を天秤にかけた。
私は即答していた。
「もう、肝臓に転移しているので、肝臓基準の治療でいいんじゃないですか」と、それに続けて「がんになったら寿命だと思っているので」と伝えた。医師は戸惑った顔をしていた。
因みに私は、1974年9月29日生まれの『天秤座』だ。天秤座の私が天秤にかけたのだから、私が正しいにきまっている。

2クール目に入っての初めての副作用も現れた。両手の第一関節から先が黒ずんできた。子どもの頃に憧れた『毒手』の使い手になったみたいで、格好がいいじゃないか。まだ、色は薄い。どうせなら真っ黒になって欲しい。そのほうが面白いし、強そうだ。
街でチンピラに絡まれたら『毒手』をチラつかせようと思う。


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