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「わかりやすい」は恐ろしい程にかっこいい。ー「青山悟 刺繍少年フォーエバー@ 目黒区美術館」を鑑賞して感じたことー


わかりやすいって現代美術においてとても勇気がいることだと思うのです。


最初に明確に定義させて頂きます。こちらの展覧会が開催されている目黒区美術館は解体予定とのニュースがあります。

「この展覧会の関する文章と目黒区美術館再開発計画に関する見解は明確に区別します」ということをここに定義させて頂きます。なのでこの文章に関して目黒区美術館再開発計画に関しては触れません。コメントを求められてもこの文章には紐付け致しません。

私自身は「展覧会に関する文章は芸術活動のみを書き記す」を主義としています。それが展覧会表現に関わるすべての方々に対する私なりの礼儀だと考えるからです。

以上定義終わり。

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青山悟さんの作品は随分前から拝見させて頂いています。作家さんご自身のお話を聞く機会も多くとても共感を持っていました。今回の公立美術館での個展と伺い、本当に楽しみでありました。

じっくり見るぞ、観まくるぞって決めて始まってからの最初の日曜日のお昼前に伺いました。青山さんご自身もいらっしゃっていて色々お話を伺うこともできました。結局2時間いました。結論から申しますと

「恐ろしい程に解りやすくてかっこいい」

青山さんの作品は刺繍という手法と政治性、そして明確であると同時にとてもいくつものメッセージ性がある作品。毎回鑑賞する度にとても考えさせられます。

なので。

正直青山さんの実績からここまで世界観を確立できてる現代美術作家さんなら、そして初の個展ならどんどん深い世界に向かう場合だってありえると思っていました。私個人はその方向でもとても面白いだろうなって思っていました。(でも初見の人には難解だろうな、、って思っていました)。

それなのに今回の展示は本当にわかりやすいんですよ。清々しすぎるるくらいわかりやすい。

空間もとても贅沢に使ってる。本当に美しい空間の使い方。びっくりしました。誰もが鑑賞の後に気持ちよくなって、あらゆる層の方が来ることを想定したとても懐の深い展覧会になっていました。そして気持ちいいだけじゃなく「この美術館に次も来たいな、次は何をやるのかな」と思わせてくれるような爽快感を感じました。

これって本当にすごいことだと思うのです。

日本の公立美術館で、生きておられる現代美術作家の初個展で、このわかりやすさを明確に見せるってすごく勇気が必要だと思うのです。

その勇気は青山さんご自身の人生、お人柄も関係してる模様。

青山さんご自身はロンドンのゴールドスミスカレッジのテキスタイルアート学科に所属されていたとのこと。テキスタイル学科とはまさに女性がほとんど。先生たちは皆フェミニストで、男は自分含め、二人三人しかいなかったそうです。
この記事を拝読してなるほどって思いました。青山さんが自分と同世代の男性なのにフェミニズムに関してとても自然に接しておられるのはどうしてなんだろう?とずっと思っていたんです。私。(それは同時にフェミニズムに自然に接することができないアラフィフ男性が多すぎるということかもしれません)

私のような現在アラフィフ世代はいわゆる「セクハラ、パワハラは流すことが女性としての嗜み」と言われてきました。私自身、今でもフェミニズムに関してどのように距離を測ればいいのかいまいちわかっていない感があります。
同時に東南アジアに長期間住んでいた私はアジア人としての自分が日本国外に住む個人からどう観られているのかをいつも意識していました。私が住んでいたのは東南アジアでもシンガポールとマレーシアだったので「東南アジアでの白人視線」ということは常に目撃していました。

「東南アジアの刺繍」というのは「伝統工芸」である側面と「労働として虐げられてる立場の人が行う作業」という両方の側面が存在します。その両方の側面からの視点に尊敬と敬意を自然に表明してそこにユーモアとわかりやすさを絶妙にブレンドした作品世界にとても感激しました。

そのような尊敬を敬意を自然に持てる青山さんの姿勢が「刺繍少年」というタイトルに凝縮されている気がします。青山さんの作品世界の解りやすさとダブル、トリプルミーニングを感じる深さを同時に感じることが出来る作品群はとても見応えがありました。


全ての作品をじっくりみたいのですが、今回はメインビジュアルの作品「《東京の朝》2004年」について触れてみたいと思います。

「《東京の朝》2004年」

この作品、作品は絶対リアル拝見すべきです。もちろん写真でも、そしてチラシデザインも素敵なんですが本作品の深みはマジですごいです。


この作品は青山さんが30歳の時ロンドンにて「日本に帰ろう」と思った時に作られたそうなんですが。郷愁とか暗闇の濃淡とか空気感とか本当に「日本」なんですよ。こちらが青山さんの当時のご自宅からの空だったそうなんですがこの作品を見てると自分が住んでいた場所で想いを馳せていた空を思い出しました。私自身はマレーシアでロックダウンで閉じ込められた時にクアラルンプールの空を見ながら日本の空を想像してた自分のことをマジで思い出しました。(そしてちょっと泣きました)。

この作品がロンドンで作られた日本の風景であることを想いながら鑑賞させて頂くと「表現に実際に(糸を)差し込む行為」がどれだけ人の心を表現するかを実感できると思います。その「表現に実際に(糸を)差し込む行為」に想いを馳せながら他の作品を鑑賞するとその時々、場所、時代に自分の想いを馳せることが出来ることも実感できると思います。つまり3倍楽しめます。

その他にも様々な環境的な側面、社会的側面、ジェンダー、エイジズム(年齢差別)を自分ごととして考えることを促してくれるきっかけを与えてくれます。

コロナ禍をテーマにした作品などは当時日本にいた人には色々な思いが蘇ってくるのではないかな。

同時に既に消えかけてしまったものに関してはそれを覚えている世代と知らない世代と自然な会話のきっかけを促してくれることでしょう。(今のお子さんは切符を見たことがない人も多いのではないかしら)。

この展覧会ではぜひ、作品そのものを見に行って「人が(機械を使って)縫っている」行為を自分の目でじっくり見てほしい。そして「縫う」という行為が手仕事から機械に移っていった歴史や縫う行為と人間が関わった時間、縫われた作品が誕生し、そして自分がその場にいるまでの時間を自分で振り返ってみてほしい。

そこで感じる「リアル」に向き合うことで己の中のリアルを感じることでしょう。そしてその再確認は昨今の世界で見失いがちな「自分自身のリアル」と向き合うきっかけになるでしょう。

この展覧会に様々な背景、世代の人が訪れて、そして様々な会話が産まれると思うと楽しみでなりません。


ちなみい青山さんは公開制作も予定されてるとのこと(具体的日程などはお問い合わせください)。それも楽しみですね。


感動しすぎて図録買い忘れたので今度は一時帰国した息子氏を連れて行きます。青山さんはかつて、私の書いていたブログ「子連れアート鑑賞日記」を「子供が大きくなっていく美術ブログ」と面白がってくれました。私自身、とても励みになりました。

左下に注目


今回は代理のみが参加だったので次回はぜひ本人連れていきます。
Tシャツも忘れずに買わなきゃ。
6月9日まで開催(基本月曜休館、詳細は美術館公式サイトでご確認ください)。


とても素敵な環境です。ぜひ個人でも、ご家族とでも、足を運んで頂きたいです。