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【新刊試し読み】大串夏身『まちづくりと図書館』「はじめに」を公開します!

4月22日に大串夏身『まちづくりと図書館 人々が集い、活動し創造する図書館へ』を発売します! これに合わせ、本書の「はじめに」を公開します。

これから迎える成熟社会では、経済は低成長だが、精神的な豊かさや生活の質の向上を求めるような平和で自由な安定が求められます。そうしたなかで、図書館が期待される役割を「まちづくり」との関連から見ていきます。

帯広市、青森市、白河市、上田市、藤枝市、明石市、豊後高田市、諫早市、大牟田市などの公共図書館の基本計画に関わったりサービス・事業の提案をしてきた著者が、少子・高齢化社会に適合する図書館のあり方を具体的に提言します。ぜひごらんください!

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はじめに

 みんなで出し合ったお金で本と情報を集めて活用する。仕事や生活、学習などに役立て、同時に本と情報を仲立ちにした人々の語り合いと交流のなかから新たな知と活力、にぎわいを地域にもたらす。それが図書館だ。

 そうした図書館への道を、つまりまちづくりに関わる図書館の検討を通して探求するのが本書である。加えて、来たるべき成熟社会での図書館のあり方についても考察する。

 公共図書館のうち公立図書館は、住民の税金によって運営される住民自治の施設である。住民自治の施設なら、まちづくりに関わり、まちづくりを支援するのは当然の務めだろう。ところが、図書館を関連付けたまちづくりが話題になったのは、ごく最近のことだ。図書館とまちづくりは、関連があるものとして話題に取り上げられることは少なかった。

 二〇〇六年に文部科学省これからの図書館の在り方検討協力者会議は「これからの図書館像―地域を支える情報拠点をめざして」という報告を公表した。この報告では、今後の図書館のサービスの一つとして、地域の課題解決支援を提案し、これをきっかけとして、地域に関わる図書館は増えた。これは、まちづくりに関わる図書館への道を開いたといえる。しかし、まちづくりは図書館の究極の目標ではない。地域の課題解決支援サービスがひとつの通過点なら、まちづくりも図書館にとってひとつの通過点でしかない。

 図書館がまちづくりに関わることは、地域住民にとっての住みやすい地域をつくるというひとつの通過点になるだろう。それは、これから到来する成熟社会(第6章「人々が集い、活動し創造する図書館へ」で詳述する)に図書館が関わることで成熟社会をよりよいものにするために、必ず通らなくてはならない道である。

 成熟社会は、経済は低成長だが、精神的な豊かさや生活の質の向上を求める、平和で自由な安定した社会になるといわれている。しかし日本では、成熟社会の到来は、解決しなければならない多くの問題、例えば、少子・高齢化、財政難などを抱えることになる。また、地球規模での課題としては、環境問題や核廃絶などへの取り組みがあげられるだろう。これらの問題に対しては、地球規模、国家規模での取り組みと指針なども必要だが、地域での住民による自主的な取り組みも欠かせない。

 成熟社会では、政治、経済、文化、社会、環境など、あらゆる問題の解決にすべての人が参加することになる。つまり、地域の問題を解決するために、すべての人が参加し、話し合い、知恵を出し合ってよりよい社会へと変えていくようになる。

 成熟社会のなかで図書館が期待される役割とは何だろうか。それは、図書館がもつさまざまな機能を十分に発揮すること、そして各機能を融合させることではないだろうか。

 図書館の機能として、①知的な創造の場としての機能、②情報拠点としての機能、③調べる場としての機能、④読書を推進する機能、⑤教育・学習的な機能、⑥文化的な機能、⑦余暇的な機能、⑧知的な自由を保障する機能、⑨知的な創造物(本)を後世に伝える機能、⑩本を仲立ちとして人が集う機能、をあげることができる。

 このうち、②の「情報拠点としての機能」は、一九九四年にユネスコの「公共図書館宣言」で提唱された。これは、九三年と九四年に国連とユネスコが提唱した世界情報基盤整備を受けて改訂したもので、情報通信ネットワーク社会の到来を想定したものである。そのため図書館は、地域の住民が必要に応じて情報を入手できる、情報拠点にならなければならない。だから、資料提供という機能は、②に含まれると理解できるだろう。これからの社会は、印刷物だけでなく、デジタル化されたネットワーク上の情報も必要になる。図書館はそれらを入手する拠点にならなくてはならないというのが、ユネスコの提案である。したがって、七〇年代から唱えられてきた「図書館の基本的機能は資料提供」という考え方は、この〈情報〉の一部に含まれるものといっていいだろう。

 また、資料・情報の入手は、①から⑩の機能すべてに関わるものだ。だとすれば、資料提供だけを図書館の基本的機能とすることは適切ではない。①から⑩は相互に密接な関係にあり、どれか一つを欠いても図書館は成り立たない。例えば「調べる」という機能は、①から⑩のすべてに関わることである。だから、「調べる」だけを取り出して、図書館の基本的な機能としても意味はない。図書館は社会のなかにあって、個人、学校、企業、自主的に組織された集団、地域の連帯によって生まれた集団など、さまざまなものと複雑に絡み合って成り立っている施設だ。したがって、機能
はそれ単独ではなく、①から⑩の機能相互での関係で語られなければならない。図書館の基本的な機能は資料提供とするのは車は前後左右に動くものだというのと同じである。つまり、抽象的な観念のようなものだから、それ自体を取り上げても図書館がもつ社会的な意味は明らかにならない。日本では、「資料提供」という基本機能が観念のように唱えられてきたが、それだけで図書館が何であるかを示すものとはならないのだ。

 図書館は社会のなかにあり、社会的な活動をおこなう施設である。だから、図書館の機能について説明するには、具体的な事例に即して語らなければならない。資料提供は、図書館の知的自由との関連でも語られる。しかし、図書館の知的自由は、先にあげた機能②に関わるものだけでなく、①から⑩すべての機能に関係している。

 各機能を融合できれば、住民と地域社会のために、図書館がもっている力とエネルギーが発揮されるようになる。

 まちづくりのなかでの図書館で特に重要なのが、図書館に対する住民自身の行動である。それは、ボランティア活動だけではない。図書館の運営、サービス・事業の提供について住民自身が担い手になることだろう。また、地域で図書と図書館に関わる活動をおこなうことでもある。

 既存の図書館を、住民の力が発揮されるような図書館に変貌させることが求められる。その意味で、北海道の滝川市立図書館や幕別町図書館などのまちづくりへの取り組みは注目すべきといえる。

 図書館のよりよいサービス・事業は、地域の人々の生活や仕事、また人々の心をより深く理解することから生まれる。図書館の存在自体が、人々の生活や仕事、心情に根差したものだからだ。そのように考えるなら、図書館の資料も、地域の人々の生活や仕事、心情に表れる価値観に基づいて構築されるといわなければならない。これからの図書館は、地域住民の生活や仕事に貢献することに主眼を置き、地域の課題や問題と向き合い、それらを総合するまちづくりへと取り組みを進めながら、少子・高齢化、情報化が一層進む成熟社会に貢献する施設を目指す必要がある。

 図書館はこれから、人々が集い、活動し、創造して、その成果を地域社会にもたらす支援施設にならなくてはならない。だから、現在の図書館のあり方を変えていかなくてはならないのだ。本書がその一助になれば幸いである。

**********************************以上が『まちづくりと図書館』「はじめに」です。本書の詳細、目次などが気になった方はぜひ当社Webサイトからごらんください! 全国の書店で予約受付中です。

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