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【尾松亮】廃炉の流儀 連載4-「廃炉時代」見越して緩和策の準備を

「廃炉時代」見越して緩和策の準備を

 2019年11月で米国バーモントヤンキー原発(バーモント州ウィンダム郡)閉鎖から5年が経過した。同原発では現在、廃炉事業が進行中である。しかし賃金水準の高い原子力発電事業の雇用が失われたことで、立地自治体ウィンダム郡では今なお直接・間接的な経済影響が続いている。

 原発閉鎖後に発電事業者Entergy Nuclear社から、廃炉事業者North Starにライセンスが移り、原発従業員にとっての雇用主も変わった。Entergy Nuclear社のもと、同原発では625人が働いていたが、現在North Starが雇用する作業員は約100人である。

 Entergy Nuclear社従業員の平均年収は約10万㌦であり、ウィンダム郡では高所得者層を形成していた。しかし、バーモントヤンキー原発が閉鎖し、Entergy Nuclear社が撤退したことで高賃金の仕事が失われたのだ。

 ウィンダム郡の経済社会発展を推進する非営利団体BDCCのアダム・グリノルド代表は「バーモントヤンキー原発閉鎖の影響は、地域にとってリーマン・ショック後の不況よりも大きかった」という。高賃金の仕事が失われたことで、同郡の商業・サービス業にも売上減少などの間接的な影響が及んでいる。

 今後閉鎖が予定されている原発の周辺地域でも、ウィンダム郡と同様の経済的影響が生じうる。バーモントヤンキー原発の事例から分かるのは、廃炉事業だけで閉鎖前と同じレベルの雇用や経済効果を維持するのは難しいということだ。

 米国では、先を見越して「廃炉時代」の経済影響緩和策を準備する地域もある。

 2019年、カリフォルニア州公益事業委員会は2025年に閉鎖予定のディアブロキャニオン原発(同州サンルイスオビスポ郡)の閉鎖による経済影響調査を実施した。調査を担当したUC Berkeleyによる試算では、同原発閉鎖による同郡の経済活動規模減少は年間8億㌦程度になるという。その一方、原発閉鎖後10年間は、廃炉事業や緩和策によって年間7億2400万㌦の経済効果が見込めると指摘した。

 カリフォルニア州では廃炉事業だけに期待するのではなく、経済影響緩和策や社会保障策とセットで「廃炉時代」を乗り越える道を模索している。原発事業者PG&Eが税収減少分の埋め合わせとして8500万㌦を提供するとともに、雇用保護プログラムに約3億5000万㌦を拠出する計画である。それでも上述の調査によれば、原発閉鎖によって年間7700万㌦の正味経済的損失が生じる。2025年の原発閉鎖に向けて、さらなる政策の作り込みが必要になる。

 原発閉鎖後の地域への経済影響を6年以上前から調査し、緩和策を準備するカリフォルニア州のアプローチは日本でも参考にすべきだ。同州上院議員ビル・モニング提案の新法が、独立機関による「原発閉鎖による経済影響調査」の実施を義務付けたことで、今回の調査が実現した。この新法によれば、調査結果は公聴会で地域住民に公表される。経済影響評価の数字を示し、地域住民も巻き込んで「廃炉時代」を見据えた経済・社会政策を議論する道筋が作られている。


おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。


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