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【福島県】今月のわだいー台風溺死の南相馬市職員「弔慰金50万円」に遺族憤慨(2020.10月)

 昨年10月の台風19号(令和元年東日本台風)で災害対応業務に当たった南相馬市職員・大内涼平さん(当時25)が深夜の帰宅途中に亡くなった問題。その詳細は本誌昨年11月号と今年7月号で報じているので割愛するが、門馬和夫市長は9月定例会に①遺族に弔慰金50万円を支給するための補正予算案、②弔慰に関する条例案、③「職員の命を守れなかったことを重く受け止めたい」として自身の給料を10月から3カ月間10%減額する給与条例改正案――を提出し、いずれも可決された。

 一見すると、門馬市長は責任を痛感しているようにも映るが、その中身は誠実さが伴っていない。

 門馬市長は昨年11月、大内さんが亡くなった原因の究明と再発防止策の検討を行うための第三者委員会設置を発表した際、「今のところ市の対応で明らかな過失はなかったと考えている」と述べた。第三者委員会が今年6月に公表した報告書にも「市の判断が事故を招いたとまでは認められない」と明記された。

 「にもかかわらず、門馬市長は自らの給料を減額した。これは『市の責任を認める』と言っているようなものだが、門馬市長はその点には一切言及していない」(元市幹部)

 弔慰に関する条例も不可解極まりない。その内容は、市の自治に功労のあった者が死亡した際、または職員が災害等の業務に当たり死亡した際に、市葬を行うか弔慰金(50万円以内)を支給するというもの。弔慰金の額は市葬等審査委員会に諮って決定するという。

 「市には災害弔慰金の支給に関する条例が既にあるが、門馬市長は新条例をつくり、しかも昨年10月に遡及して大内さんの死亡を新条例に適用させようとした。しかし、反対意見が複数上がったため、門馬市長は仕方なく、新条例をつくる一方、弔慰金50万円は補正予算で捻出することにしたのです」(同)

 もっとも、せっかくつくった新条例だが、災害対応業務に当たった職員の死亡に適用させることはともかく、市の自治に功労のあった者については▽名誉市民、▽現職の市長または市議会議長、▽8年以上市長または市議会議長を務めた者とされていることから「自分が亡くなった際に市葬をしてもらいたくて、つくった条例ではないか」という皮肉が市役所内から漏れ伝わっている。

 そして最も肝心なのは、一連の対応を大内さんの遺族がどう受け止めているかということだ。

 涼平さんの父・敏正さんは次のように語る。

 「門馬市長は昨年の弔問で見舞金の支給を口にしたが、1年後に出された結論は弔慰金50万円だった。いくら金額の多寡ではないと言っても『息子の命がたったそれだけ?』と思うと到底納得できない。そんな金、受け取る気はありません」

 敏正さんが不満なのは、責任を認めようとしない市の姿勢だ。

 「一連の対応は、お盆前に自宅に来た門馬市長から『(議会での可決を前提に)こうする方針』と伝えられたが、その際、私が市の責任を尋ねても門馬市長は言葉を濁し続けた。そのくせ自分の給料をカットし、弔慰金を支給し、新条例もつくるという。市の責任に言及しないで必要な対応だけ行うというのは、あまりに不誠実ではないか」(同)

 敏正さんが最も重視するのは、要するに誠実な姿勢だ。

 「最初に門馬市長が責任を認め、きちんと謝ってくれれば、その後の対応も納得できたと思う。しかし、責任を認めずにただ謝られても心に響かないし、その後の対応も後付けにしか映らない」(同)

 もはや遺族との間に生じた溝を埋めるのは不可能だが、その深さを少しでも浅くするためにも、門馬市長には遺族の気持ちを揺さぶる丁寧な対応が求められる。



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