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中間貯蔵交渉から逃げた環境省

まやかしの除染土「県外最終処分」

(2021年6月号より)

 中間貯蔵施設の用地契約について、「用地補償が不十分だ」と主張する地権者団体との交渉を環境省が一方的に打ち切っていたことが分かった。同施設内の除染土は県外で最終処分することになっているが、未だ見通しは立っておらず、ここに来て環境省の対応のずさんさが目立っている。

 交渉打ち切りとなったのは、中間貯蔵施設の地権者などで組織された「30年中間貯蔵施設地権者会」(門馬好春会長)。4月21日に開かれた双葉町議会全員協議会における環境省の説明で明らかになった。

 報道や門馬会長のフェイスブックによると、地権者会が団体交渉に弁護士・代理人を同席させることを要望したが、環境省は拒否した。そのため、小泉進次郎環境大臣宛てに撤回要望文書を提出したところ、4月中に団体交渉の打ち切りを一方的に電話で通告された。

 環境省の主張は「これまで46回の団体交渉をしてきたが、平行線をたどるばかりで、今後も用地補償の理解は得られない」、「地権者会が求める補償額では、十数年後に売買契約の補償額を超えてしまう。地権者会のみ個別に補償額を変えることはできない」、「地権者会から違う考えが出てくるのであれば、(交渉の再開を)検討したい」というもの。なお地権者との交渉は個別に続けていく考えだという。

 門馬会長は「町民、地権者に対する『親切・丁寧な対応』と『いままでの団体交渉の経緯』を全く無視したことと受け止めており、この理不尽な回答には到底納得できるものではありません」と述べた。

 中間貯蔵施設は福島第一原発周辺の1590㌶の土地に整備され、大熊・双葉両町にまたがっている。県内各地で発生した除染廃棄物(除染土や側溝の汚泥、草木など)を安全かつ集中的に貯蔵するために整備され、最長30年間(パイロット輸送が開始した2015年3月から2045年3月まで)保管する。その後は県外で最終処分されることになっており、中間貯蔵・環境安全事業㈱(=JESCO)法に明記された。

 来年3月までに、県内の仮置き場などに置かれていた約1400万立方㍍の除染廃棄物の搬入が完了する予定。5月20日現在の累計輸送量は1084万立方㍍。

 対象者全体の用地交渉は、4月末現在、敷地全体約1590㌶のうち、1245㌶(地権者1829人、全体面積の77・8%)が契約済み。契約は土地の所有権を残せる「地上権設定」か、売買を選択できる。

 こうした中で、地権者としての権利を主張してきたのが前出・地権者会だ。30年後の県外最終処分・用地返還を謳っておきながら、当初から売買契約を優先して進めたり、石原伸晃環境相(当時)の「最後は金目でしょ」発言などで環境省の説明に不信感を抱いた地権者ら約100人により設立された。

 当初の活動の中心は、30年後の確実な土地返還を担保する契約書の見直し。環境省の〝逃げ道〟を防ぐべく、交渉を重ね、約30項目を是正した地上権の契約書案を環境省に受け入れさせた。同契約書の内容が全地権者にも適用され、泣き寝入りすることのない契約内容となった。

 続けて地権者会が進めてきたのが、理不尽な用地補償ルールの是正だ。

 前述の通り、地権者は環境省と契約を結ぶ際に地上権設定か売買かを選べるが、放射能汚染の地ということでただでも低い売買金額なのに、地上権設定だとさらに低い金額の契約となっていた。

 同地権者会が確認したところ、公共事業の用地補償に関しては、①公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱(1962年閣議決定)、②同基準(1962年用地対策連絡会決定)が定められており、これが、国が用地補償を行う際の〝国内統一ルール〟となっている。

 ところが、中間貯蔵施設だけは環境省の独自ルールで用地補償が行われていた。そのため、中間貯蔵施設の地権者(売買・地上権設定)が受け取る補償額よりも、仮置き場として土地を数年間提供した地権者の地代の方が金額が多い、といういびつな状況が生まれていた。

 地権者会では用地補償に関する専門家などの意見を聞き、憲法や法律の解釈などを研究。それらを踏まえ、団体交渉や環境省による説明会の場で「なぜ国が用地補償を行う際の〝国内統一ルール〟を中間貯蔵施設には用いなかったのか」、「〝国内統一ルール〟では『使用する土地に対しては地代で補償する』、『宅地、宅地見込地、農地の地代は年額地価の6%が妥当』と示されているのに、なぜ環境省はそれを無視したのか」と追及し、改善を求めていた。

 そうしたところ、冒頭で述べた通り、交渉打ち切りに至ったわけ。

 環境省はずさんな制度設計を突っ込まれ、いまさら変更するわけにもいかず、論理的な説明が必要となる団体交渉から逃げたのだろう。そもそも廃棄物などを管轄する省が3兆円にも及ぶ公共事業を仕切ったことに無理があったのかもしれない。

 「地権者会が求める補償額では、十数年後に売買契約の補償額を超えてしまう。地権者会のみ個別に補償額を変えることはできない」という環境省の主張は、地権者会がゴネているかのように見せる印象操作で、実際には前述の通り、すべての地権者の契約を改善するため交渉を続けてきた。また、地代契約をしている土地で、売買契約の補償額を超える事例は過去にもある。

 原発政策を推進し、原発事故を起こした責任がある国がこうした態度を取ることに強い違和感を抱く。

形だけの対話フォーラム

 環境省への不信感がさらに強くなったのが、5月23日に開かれた「福島、その先の環境へ。」対話フォーラムだ。除染土等の再生利用、県外最終処分に関する知識を広く共有し、議論のきっかけになることを目的に、環境省が開催した。読売新聞社の後援。

「福島、その先の環境へ。」対話フォーラム写真

「福島、その先の環境へ。」対話フォーラムの様子(同フォーラムHPより)

 前述の通り、中間貯蔵施設の除染廃棄物は2045年までに県外で最終処分すると法律で定められている。ただ、環境省が実施したウェブアンケートによると、県外でそのことを知っているのは19・2%に過ぎず、県内でも50・3%に留まった。

 一方で、2016年には「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略」を取りまとめ、全量をそのまま最終処分するのは難しいため、安全性を確保しつつ、1㌔当たり8000ベクレル以下の除染土に限り、地元の理解を得て再生資材として利用することを目指す――といった基本方針を示している。

 この方針の具現化に向け、南相馬市小高区の東部仮置き場で実証事業が行われたほか、飯舘村の帰還困難区域(長泥地区)でも実証事業が進められている。環境省は「除染土の再利用は問題ない」と結論付けているが、このような経緯も、アンケートで知っていると回答したのは県外13・5%、県内37・8%だった。

 こうした実態を広く知ってもらうために開催された同フォーラム。コロナ禍ということもあって、オンライン開催となったものの、参加者は質問可能となっていたため、ラジオ番組のように質問がリアルタイムで紹介され、出席者の間で議論が繰り広げられる展開が期待されていた。

 ところが、ふたを開けてみると、取り上げられた質問は「なぜ県外で最終処分するのか」などわずか3問。そのほかの膨大な質問は画面下に数秒ずつ表示されて終わり、「対話」とは程遠い内容だった。

 環境省環境再生・資源循環局の川又孝太郎参事官によるプレゼンテーションでは、除染の進捗状況や大熊・双葉両町の復興状況について、伊澤史朗双葉町長、吉田淳大熊町長のコメントや動画などを交えながら紹介された。

 続けてパネルディスカッションが行われ、小泉環境大臣、開沼博東大大学院准教授(いわき市出身)、同省の福島環境・未来アンバサダーを務めるタレント・なすびさん(福島市出身)、「福島ファン」として知られるお笑い芸人のカンニング竹山さんが参加。オンラインで、東日本大震災・原子力災害伝承館(双葉町)の館長を務める高村昇長崎大教授と福島県ゆかりの大学生らが意見を述べた。

 ただし、その内容は「この問題は福島だけの問題じゃない」、「福島を差別するのは良くない」と学級会のように話し合うもので、除染土に関する現実的な議論には至らなかった。

国側の意見を垂れ流し

 象徴的だったのが、開沼准教授の説明を引用する形で、小泉環境大臣が「一人ひとりが『風評加害』(風評の原因を作る言動・報道)をしないように心がける必要がある」、「土壌を再生利用する具体的な案件をつくり、運び出す量を極力減らすことが重要だ」と話していたことだ。

 原発事故による除染で大量の除染土が発生した原因は国の原発政策にあり、当然責任は国にもある。そのことを棚に置いて、「除染土の放射能が不安だという〝風評〟を流す方が悪い」と主張するのは納得できない。二本松市原セ地区や南相馬市小高区の羽倉地区周辺では、除染土の再生利用について反対意見が相次ぎ、計画を白紙に戻した経緯があるが、これも「風評加害」だというのか。

 新聞報道によると、登録者用のサイトと動画投稿サイト「ユーチューブ」から視聴したのは計995人。フォーラム開催にどれだけの費用がかかったか分からないが、結局は環境省の意見を一方的に垂れ流すだけのオンラインイベントだった。これでは議論の広まりは期待できない。

 本誌2020年5月号では、除染土再利用推進のため、放射性物質汚染対処特措法の施行規則の一部を改正する省令案が検討されていたが、パブリックコメントで反対意見が相次いだため、見送られたことを報じた。その中で中間貯蔵施設について次のように考えを述べた。

 《そもそも「除染土の容量を減らせば何とかなる」などという発想は正気の沙汰とは思えないし、除染土再利用でさえこれだけ強い反発があるのに、最終処分場を受け入れてもいいというところなどあるはずがない。

 つまるところ、「中間貯蔵」などと謳っているが、同施設は「中間」ではなく、しかも各地にばら撒く計画(除染土再利用計画)を推進しようとしているのだから、「貯蔵」さえもあきらめていることになる。

 せめて、国が「県外最終処分の見通しはかなり厳しい」と正直に伝え、県内関係者に頭を下げるなどして、次善策を考えるというのならまだしも、前述した「中間貯蔵」のまやかしを伏せたまま、なし崩し的に対応しようというのだから、誠実さのかけらもない。

 これが問題の本質であり、除染土再利用を容認できない最大の理由でもある》

 中間貯蔵地権者会との交渉打ち切りに、形ばかりの対話フォーラム。21頁の巻頭言では、会計検査院から除染効果のチェックがずさんだったことにも触れている。環境省への不信は募るばかりだ。

 30年後の確実な土地返還を望む中間貯蔵施設の地権者としては考えたくない事実かもしれないが、いまのままでは県外最終処分はとても現実的な計画とは思えない。運び出せなかったときのことも今から考え、例えば「搬出完了が1日遅れるごとに、違約金をいくら払え」ということを求める訴訟準備をいまからしておくべきだ。県や立地町の責任者もそのことを把握しておく必要がある。



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