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【政経東北】民意との乖離―巻頭言2021.7

 東京オリンピック・パラリンピックの開幕が近付いている。コロナ禍での開催をめぐり国民の声は反対が大勢だったが、中止・延期とはならなかった。本番に向け努力してきた選手や関係者を思うと、百歩譲って開催は良しとしよう。問題はその後だ。

 専門家が「無観客が望ましい」と提言しても上限1万人の有観客とすることを決定したり、開会式は一般観客1万人のほかIOCやスポンサーなど別枠の1万人を加えた計2万人で調整したり、スポンサーを念頭に会場でのアルコール提供を検討したり……。アルコール提供は厳しい世論を受けて即撤回されたが、民意とあまりにかけ離れた決定・調整・検討の連続には、怒りを通り越して呆れるばかりだ。

 国民には3密を避けろと言い、イベントや祭りは軒並み中止され、飲食店はアルコール提供の制限や営業自粛を迫られている。にもかかわらず、オリンピックは中止されず、会場は3密が確実で、一時はアルコール提供の可能性もあった。これまで行政のダブルスタンダードは数々見てきたが、ここまで酷いダブルスタンダードは初めてだ。

 これらを決定・調整・検討しているのは、いわゆる優秀とされる人たちのはずだが、事前に「この内容では国民の批判を招く」との想像に至らないことが不思議でならない。

 同じく優秀で、県民の支持率も高い本県の内堀雅雄知事も、政府が放射性物質トリチウムなどを含んだ処理水を海洋放出すると決定した際には民意を見誤った。政府の決定に隣県の知事らは即座に慎重論を述べたが、内堀知事はダンマリを決め込んだ。2日後になって「県は海洋放出を容認する、しないという立場にない」と語ったが〝当事者中の当事者〟である本県トップがこのような〝他人事の発言〟をするとは情けない。県民は容認するか、しないかを聞いているのではない。本県トップとして海洋放出に賛成か、反対かを聞きたいのだ。

 こうした姿勢は県民の反発を招き、高かった支持率も落ち込んだが、それを意識してか内堀知事は最近、政府に対し「風評被害対策を早急に示せ」と厳しい注文を付けている。ただ、各市町村議会やJAなどが海洋放出に反対する決議を行う中、内堀知事は相変わらず賛否を明言していない。

 ポピュリズムは問題だが、民意を見誤ってはいけない。コロナ禍のオリンピックも海洋放出も難しい問題だが、為政者は民意から乖離しないよう、ベストとは言えなくてもベターな決定をすることが求められるのではないか。          (佐藤仁)


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