【春橋哲史】フクイチ事故は継続中⑧―着実に進んでいるリスク低減・除去
着実に進んでいるリスク低減・除去
東京電力・福島第一原子力発電所(以後「フクイチ」と略)は、核災害が起きた事で、大小様々な潜在的リスクを抱える施設となりました。
これらのリスクの低減・除去・把握・管理の為に、様々な作業が続けられています。ひとまとめに「廃炉作業・収束作業」と呼ばれることが多いのですが、このような、分かったような分からないような呼び方で一括りにすべきではなく、本来は、リスク別に見ていくべきです。
個別に見ると、フクイチの抱える潜在的なリスクは、発災から9年7
ヶ月で、低減・除去が着実に進んでいます(主なものは「まとめ」参照)。
今年は、メガフロートの着底・防潮堤の設置・排気筒の上部解体等、長年の懸案だったものや、これまで進めてきたことの多くが終了、或いは良い意味で大きな区切りを迎えました。
フランジタンク(ボルト締めタンク)の運用基数は一桁台になり、多くのタンクが溶接タンクにリプレース(置き換え)されました。タンクエリアには二重の堰も設置されて、定期的な巡視(パトロール)も行われており、漏洩リスクは大幅に低減できています。
建屋のドライアップ(最下階床面の露出と、露出状態の維持)も、目標とする建屋については、ほぼ達成できました(まとめの⑦。床面の露出状態を維持する為のポンプは、予備のB系を12月までに設置予定)。
タンク内貯留水の増加量も抑制され、一時に比べれば半減以下です(まとめの④)。今年10月時点でも月間平均増加量は漸減傾向で、この傾向が続けば、タンクが物理的限界を迎える時期を後送りできる可能性も有ります。
まとめには含めていませんが、今年6月には発災以来、初めて、2号機使用済み燃料プールの内部を撮影できました。調査した範囲では、内部の構造や貯蔵されている核燃料に破損は見られず、今後の燃料取り出しに向けた貴重な情報が収集できたものと思われます。リスク低減の前提となる情報の把握という意味で重要な一歩です。
特に、地震・津波関連のリスクと、水に関するリスクは、発災直後に比べれば大幅に低減できており、隔世の感が有ります。
これらのリスク低減・除去・把握・管理が達成できているのは、①第二の地震・津波が来なかった、②年間数千人の被曝労働、によるものです。①は人知でコントロールできるものではありませんし、②については連載第4回(本誌7月号)の通りです。発災以来の作業員の死者は20人、負傷・体調不良者は約300人、熱中症は約100人に上っています。リスクに対応できているのは、天災と隣り合わせの被曝労働のお陰です。東電の書類上の計画だけでは先に進みませんし、国会議員や霞が関の官僚が現場で被曝労働しているのでもありません。
今後は1・2号排気筒の下部解体、3・4号排気筒の解体、5・6号使用済み燃料プールの燃料取り出し、固体廃棄物や水処理二次廃棄物への対応(本誌6月号の連載第3回、8月号の連載第5回を参照)等、「これまで手が付けられていなかった事」が控えており、作業内容は複雑化するでしょう。1~4号建屋での作業が増えるであろう事も懸念材料です。
6月時点で、建屋に地下水が流入している箇所は確認できておらず(※1)。東電は、今後、号機別に流入量を調べ、流入量が多い号機から流入箇所を絞り込んでいくそうです(※2)。建屋最下階は高線量で(※3)、働く人の被曝線量が跳ね上がることが予想されます。
フクイチのリスク除去・低減が、ゆっくりであっても着実に達成できているのは良いことですが、一方で、リスクへの対処はこれからも続けなければなりません。しかも、終了時期は全く見通せないのです。
つくづく、大変な災害を起こしてしまったものだと思います。
万一、フクイチの潜在的なリスクが顕在化すれば、大量の放射性物質の飛散、大人数の被曝に繋がりかねません。施設に関する一義的な責任は東電に有りますが、東電は施設の管理に失敗して災害を起こした「前科者」でもあります。
東電や行政に委ねるのではなく、働く人の安全と被曝抑制を大前提に置きつつ、リスク低減・除去・把握・管理の在り方・進捗を、主権者が監視していくことが必要です。
※1
第81回 特定原子力施設監視・評価検討会(原子力規制委員会/2020年6月15日/議事録58~59頁)
※2
第84回 同検討会(20年10月19日/議事録は作成中で未公表)
※3
2号タービン建屋・ポンプ設置場所付近で毎時160㍉シ ーベルト(20年5月)
3号タービン建屋・同・毎時110㍉シ ーベルト(20年6月)
春橋哲史
1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。
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