メルトダウンを起こした福島第一原発のコピー

【福島原発】地震でメルトダウン 動かぬ証拠

東電が「原因は津波」に固執するワケ 


木村氏は、東電学園高等部を卒業後、東電の技術者として原発の仕事に携わった。柏崎刈羽原発や福島第一原発で原子炉の設計・管理業務を担当し、2001(平成13)年に退社。当時30代後半と定年に遠く及ばない年齢で退社したのは、核廃棄物をつくり出す原発に失望したことが理由だという。

 木村氏は、その経験と知見に基づき、原発の脆弱性・危険性を早くから指摘していた。そして原発事故が起きると、「唯一の事故予見者」として国内外のマスコミから注目を集めた。

木村俊雄氏のコピー

木村俊雄氏

 木村氏によれば、一口に技術者と言っても社内には圧力容器を専門とする人、格納容器を専門とする人、プラント全体を専門とする人等々、さまざまな技術者がいるという。そうした中で木村氏は、炉心の専門家=〝炉心屋〟で、木村氏が在職時、福島第一原発には炉心屋は9人ほどしかいなかったというから、いかに専門的な仕事を行っていたかがうかがえる。

 そんな木村氏が『文藝春秋』9月号で指摘したのは、メルトダウンが起きた原因は、これまで言われてきた「想定外の津波」ではなく、津波が来る前に原発を襲った「激しい地震動」にあった、ということだ。

 もっとも、木村氏は震災直後から一貫して「メルトダウンは津波ではなく地震で引き起こされた」と主張してきた。にもかかわらず、震災から8年半が経った今、あらためて木村氏の記事が注目されたのは、地震動が原因であることが、東電が開示した内部資料によって初めて明らかにされたからだ。

 木村氏によると、メルトダウンの原因を知るには炉心の状態を示すデ

ータが不可欠なはずなのに、原発事故後に設置された四つの事故調査委員会(国会事故調、政府事故調、民間事故調、東電事故調)では、いずれもデータに基づいた検証を行っていないという。

 果たして、東電の内部資料には何が書かれていたのか。以下『文藝春秋』から重要部分を抜粋する。

   ×  ×  ×  ×

 「何かがおかしい」

 東電の事故調の報告書を読んだとき、そう感じました。報告書は、800ページもあり、公開しているデータは2000ページ、事故当時の操作手順をまとめたものも5000ページあるのですが、この膨大な記録をくまなく読み込んで気づいたのです。「東電は、すべてのプラントデータを公開していない」と。とくに気になったのは、炉心内の水の流れを示す「炉心流量」に関連するデータが一切公開されていなかったことでした。

 これは「過渡現象記録装置」という計算機が記録するデータで、航空機でいえば、フライトレコーダーやボイスレコーダーに相当するものです。過渡現象記録装置は、福島第一原発の1号機から6号機まで、すべてのユニットについています。東電に在職中、私は日々、この計算機のデータ解析を行っていました。ですから、このような重要なデータが抜けているのは明らかにおかしい、と気づいたのです。

 東電事故調報告書は、「安全上重要な機能を有する主要な設備は、地震時及び地震直後において安全機能を保持できる状態にあったものと考えられる」と述べています。しかし、「安全機能を保持できる状態にあった」と断言するには、過渡現象記録装置のデータが不可欠です。

 2013年7月、記者会見を行い公開質問状という形で東電に不足しているデータの開示を求めましたが、「すべてのデータは開示済み」というのが東電の回答でした。

 ただその後、意外なところから事態は動き始めました。東電の廣瀬直己社長が記者会見で、公開質問状の内容や炉心流量データが未開示であることについて質問された際、「すべてのデータを開示する」と表明したのです。おそらく廣瀬社長は、データの意味や未開示の理由を分かっていなかったのだと思います。

地震直後にドライアウト発生

 開示されたデータを分析したところ、過渡現象記録装置は、地震発生後、プラントの全計測データを100分の1秒周期で収集し、計算機内に保存していました(1号機の場合で10分間)。次ページ(別掲)のグラフを見てください。横軸は「時間」、縦軸は「時間当たりの炉心に流れている水の量」を表しています。

炉心流量の図のコピー

『文藝春秋』9月号より

 福島第一の原子炉圧力容器は、沸騰水型(BWR)で、炉心の中を水が流れ、核燃料を除熱します。この炉心を冷却する水が、安全性を保つ役割を果たしているのです。

 グラフを見ると、地震が来る前は「1万8000㌧/時」で水が流れていました。そして14時46分に地震が発生し、原子炉が自動停止すると、放物線を描いて流量が下がっています。次に電源喪失によって計測器はいったんマイナスになっています。これ自体は、計測指示計の設計上生じることで、問題はありません。その後、数値はスパイク(瞬間的に上昇)していったん上がっていますが、1分30秒前後から炉心流量はゼロになっています。

 BWRでは、水が原子炉圧力容器内で「自然循環」していれば、電源喪失でポンプが止まっても、炉心の熱を約50%出力まで除去できる仕組みになっています。「自然循環」は、BWRの安全性を保障する極めて重要な機能を担っているのです。

 逆に言えば、「自然循環」がなくなれば、BWRは危機的状況に陥ります。「自然循環」による水流がなくなると、炉心内の燃料ペレット(直径・高さともに1㌢程度の円筒形に焼き固めた燃料)が入っているパイプ(燃料被覆管)の表面に「気泡」がびっしり張り付きます。この「気泡」が壁となり、熱を発している燃料被覆管と冷却水を隔離してしまい、冷やすことができなくなり、次々に燃料が壊れてしまう。これを「ドライアウト」と言います。

 過渡現象記録装置のデータを解析して分かったのは、地震の後、わずか1分30秒後に、「ドライアウト」が起こっていた可能性が高い、ということです。

 ではなぜ「自然循環」が止まってしまったのか。私が分析したデータや過去の故障実績を踏まえると、圧力容器につながる細い配管である「ジェットポンプ計測配管」の破損が原因である可能性が極めて高い、と考えられます。

 (中略)津波の第一波が到達したのは地震の41分後の15時27分ですが、そのはるか前に炉心は危機的状況に陥っていた、ということです。「想定外の津波によりメルトダウンした」という東電の主張は、極めて疑わしいのです。

 四つの事故調に参加した専門家も、このデータの欠落には気づきませんでした。ただ、開示されていたとしても、このデータをうまく分析することは、おそらくできなかったと思います。

 (中略)

 国会事故調の先生方から直接聞いた話です。過渡現象記録装置のデータは、実は東電のパソコン上で見たそうなのです。ただ、その画面に映っていたデータは、「単なる数値の羅列」にすぎません。私でも、その「数値の羅列」を見ただけでは、何も読み取れません。私のように、炉心屋として過渡現象記録装置を長年使用していた人間が、しかも「数値の羅列」を「グラフ化」することで、「炉心はこうなっていた」と初めて読み取ることができるのです。

   ×  ×  ×  ×

 炉心の専門家が東電の内部資料に基づいて書いているだけに、説得力を感じさせる。

膨大なコストを要する耐震対策

 東電はこれまで「津波到達まで主要機器に破断などの異常はなく、地震による損傷はない」との見解を示してきた。言い換えると、木村氏が指摘する「地震動による損傷」は一切なく、メルトダウンの原因はあくまで「想定外の津波」だった、と。

 しかし、実際はどうだったのか。

元京都大学原子炉実験所助教で、本誌の原発関連記事に度々コメントを寄せてくださる小出裕章氏は原発事故直後、マスコミの取材にこう答えている。

 「東電は計器の信頼性の問題を挙げるが、これまでも都合の悪いデータはそういった説明をしており、信用できない。実際に揺れによって損傷していれば、日本中の原発が当然問題となる。耐震指針の見直しが必要で、影響は計り知れない」

 あらためて小出氏に意見を求めると、東電が「地震動による損傷」を認めたくない理由を次のように解説してくれた。

 「木村さんの論文(『文藝春秋』9月号)は既に読んでいます。私も以前から、福島第一原発は津波が到達する前に深刻な損傷が起きていたと発言しています。原発をブラックアウトに追い込んだのは確かに津波ですが、その前に地震による損傷が起きていたと思いますし、今回は木村さんが東電の内部資料によってそのことを証明してくれました。再循環ポンプ系のどこかで損傷が起きていたというのが木村さんの推測で、その可能性は高いと思います。私は、原子炉建屋4階にあるIC(非常用復水器)で損傷が起きたのではないかと主張してきましたが、その両方かもしれません。東電と国は、地震で既に損傷していたことを認めてしまうと、全国の原発の耐震設計を見直さなければならなくなります。その費用、時間、労力は大変です。そのため彼らは『とにかく津波が悪いんだ』と言い張り、津波対策さえすればあとは問題ないかのように装おうとしているのです」

 木村氏も『文藝春秋』の記事中にこう書いている。

   ×  ×  ×  ×

 東電は「津波によってメルトダウンが起きた」という主張を繰り返しています。そして、その「津波」は、「想定外の規模」で原子力損害賠償法の免責条件にあたるとしています。しかし「津波が想定外の規模だったかどうか」以前に、「津波」ではなく「地震動」で燃料破損していた可能性が極めて高いのです。

 しかも、私が分析したように、「自然循環」停止の原因が、ジェットポンプ計測配管のような「極小配管の破損」にあったとすれば、耐震対策は想像を絶するものとなります。細い配管のすべてを解析して耐震対策を施す必要があり、膨大なコストがかかるからです。おそらく費用面から見て、現実的には、原発はいっさい稼働できなくなるでしょう。

   ×  ×  ×  ×

 メルトダウンの原因が「想定外の津波」であれば、津波対策さえ行えば全国で運転停止中の原発を再稼働することができる。しかし「地震動による損傷」が原因となれば、プラントから伸びる無数の配管を補強したり、新しいものに交換するなどして耐震補強しなければならない。そのコストは莫大になるだろうし、補強・交換に要する時間もかかるだろう。そうなれば再稼働も当然遅れる(あるいは、できなくなる)ので、東電にとっては何があっても「地震動による損傷」を認めるわけにはいかないのだ。

 ただ、木村氏の記事については東電の元エンジニアから次のような反論も寄せられているので紹介しておきたい。この人物は福島第一、福島第二原発で原子炉の運転業務などに携わっていた人物だ。

 「木村氏とは直接会ったことはないが名前は知っていた。『文藝春秋』の記事について言わせてもらうと、技術面に関しては疑問が残る。同じような記事は、震災後に『科学』にも一度掲載されたが、それを読んだとき『技術面で随分デタラメなことを書いているから、社会的に叩かれるのではないか』と思った記憶があります。当時、私の周囲からも同意見が聞かれました。実際、国などからは黙殺され、問題視されることもなかったはずです。そもそも、地震発生から津波到達までの運転データはしっかり残っており、私が見ても『津波が来なければその後復旧できたはず』と感じましたからね」

 技術面のどこがデタラメなのかは分からないが、元エンジニアの目にはそう映ったのだろう。しかし「津波が来なければ復旧できたはず」という主張は違和感を覚える。なぜなら、津波が来るような海岸(しかも海抜の低い場所)に原発をつくった時点で、この主張は成り立たないからだ。同じことは、海沿いに立地する全国の原発にも言える。

「事故は予見できない」

 そもそも安心・安全を考えると、津波・地震対策はいくら講じてもキリがないように思える。安全神話に踊らされていたときは気付かなかったが、世の中に「絶対安全」なものなんてない。しかし、一たび事故が起きればここまで深刻な被害をもたらす原発ほど「絶対安全」に近付ける努力が必要なはずだ。

 ならば、運転停止中・稼働中も含め国内にある原発は今後どうすべきなのか。前出・小出氏は次のような見解を示した。

 「原発は、津波を伴わない地震に襲われた場合も損傷する可能性が高い。もちろん、それだけで深刻な被害が発生するでしょう。事故の進展は予測できません。従って、その被害の大きさも予測できません。今回の原発事故から学ぶべきは、事故はそもそも予見できないということです。原発が膨大な放射能を内包していることを考えれば、順次廃炉にしていくべきです」

 地震列島・日本において、原発を稼働し続けるのはあまりに危険ということが、木村氏の〝告発〟により一層明白になった格好だ。


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