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【アベノマスク】発注先の福島市企業を直撃

樋山茂社長が語った胸中

 新型コロナウイルスの感染防止対策として、政府が再利用可能な布マスクを全戸に配布する〝アベノマスク〟問題をめぐり、思わぬ形で福島市の企業が注目されることになった。これまで非公表とされてきたマスク調達先の1社が、福島市の輸入仲介業「ユースビオ」(樋山茂社長)であることが明らかにされたのだ。いったいどんな会社なのか、4月27日、樋山社長に話を聞いた様子を特別リポートする。

 新型コロナウイルス対策として、国は布マスクを約1億3000万枚確保。妊婦、高齢者の介護・福祉施設、小中高校などに優先的に配布された後、東京都など感染者が多い地域から順次配布されている。しかし、市販の不織布マスクと比べて小さくて使いづらいのに加え、妊婦用配布分のマスクから変色、髪の毛の混入、異臭といった報告が出始めた。そのため、マスクを納入している大手医薬品メーカーの興和と大手商社の伊藤忠商事が未配布分のマスクをすべて回収する事態となった。

 政府が当初打ち出していた関連予算額は466億円。まず半数の約6500万枚の調達配送のため、予備費233億円の執行を進めているが、実際には90億円程度で収まる見込みであることが明らかにされた。なぜこれだけの差額になったのか理由が分からないのもさることながら、もっと不可解なのがマスク調達先4社のうち1社が非公表とされたことだった。公共調達のルール上、公表する義務があるのに、なぜか厚生労働省は情報を伏せ続けたため、ネットなどでは「怪しすぎる」、「利権絡みではないか」、「受注額が最も高い可能性がある」などと囁かれた。

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 そうした中、4月27日の記者会見で菅義偉官房長官が公表した1社が冒頭で紹介した福島市の会社「ユースビオ」だったわけ。

 ところが、同社の法人登記簿は同日変更登記中となっており(翌日に変更終了)、民間信用調査機関にも登録されていないため、詳細が全く分からない。ちなみに、登記変更が申請されたのは、社民党の福島瑞穂参院議員が厚労省にマスクの発注先や契約内容について質問した4月10日だった。偶然の一致で片付けられるのか。

 住所を基にグーグルストリートビューで現地の写真を確認すると、表示されるのは長屋風の貸しオフィスの一角で、政府の仕事を直接受注する企業にはとても見えない。しかも、公明党の大きなポスターが張られていたため、「公明党関係のペーパーカンパニーではないか」、「絶対裏がある」とさらなる疑念が噴出し、多くのマスコミ関係者が同社に殺到。昨日から今日にかけて、テレビや新聞、ネットなどをユースビオ関連のニュースがにぎわせることになった。

 なお、前述した通り、昨日の時点で「登記中」とされていた法人登記簿は4月28日になって閲覧できるようになっていた。それによると、同社は2017年8月24日設立。資本金1000万円。役員は樋山社長のみ。事業目的は①再生可能エネルギー生産システムの研究開発及び販売、②バイオガス発酵システムの研究開発及び販売、③発電及び売電に関する事業、④ユーグレナ等の微細藻類の生産、加工及び販売、⑤オリゴ糖等の糖質の生産、加工及び販売、⑥ファクタリング業、⑦不動産の売買、賃貸、管理及びその仲介、⑧貿易及び輸出入代行業並びにそれらの仲介及びコンサルティング。

 このうち、⑥、⑦、⑧が4月10日に登記した項目のようだ。報道によると、「木質ペレットの輸入会社がマスクを生産するというのはちょっと厳しい」と考え、事業目的に関連項目を追加したという。社員は5人で、ベトナムとインドネシアに拠点を置いている。

 同社はJR福島駅から約3㌔離れた住宅地に位置している。4月27日夕方、ネットで話題になっているのを目にして、同社まで足を運ぶと、マスコミ関係者のほか、スマホを持って写真撮影する人が多数見かけられた。

 記者も写真を撮影しようとすると、部屋に明かりがついているのが目に入り、中に人影が見えた。そこで、思い切って「ごめんください」とドアを開けて声をかけると、樋山社長が電話していた。媒体名と氏名を名乗ると、部屋の中に入るよう促され、「今日はもう何人もマスコミ関係者が来て対応に疲れた。基本的なことはテレビ、新聞に話している。それ以外、質問があれば答えられる範囲で対応するのでそれで勘弁してほしい」とかなりいらだった様子で言われた。

 さまざまな質問をしながら話を広げていきたいところだったが、話している最中にもひっきりなしに在京マスコミなどから取材電話がかかってきて、別の記者などもドアから入ってくるため、こちらのペースで話すことができなかった。結果、まずは一方的に思いをしゃべってもらい、後から質問して補足する形になった。

 「もともとうちはベトナムからバイオマス発電に使う木質ペレットを輸入する仕事を展開しており、現地に日本人の駐在員を置いています。同国は大気汚染に対応するためマスクを着用する習慣があり、立体的な布マスクは『ベトナムマスク』という名前で知られているほどだが、同国であれば、世界的なマスク不足の中でも、大量に確保して輸入できることが分かりました」

 「私は福島県出身、駐在員は山形県出身で、それぞれ周囲から『何とか調達できないか』と言われていました。そのため、山形県や福島県に話を持ちかけたら、『ぜひ買いたい』という話になり交渉を進めていました。ただ、そうした中で、行政のマスクに関しては、国が全世帯への配布に向けて一括購入することになりました。そのため、途中からは国からの発注を受ける形にスライドし、3月上旬に経済産業省と交渉に入りました」

 「うちが製造しているわけではなく、型紙やスペック表、洗ったときの検査成績表、人体に影響が出ない証明書、さまざまなエビデンスやサンプルをつけて交渉しました。その結果、最終的に1枚135円、350万枚を納入することになり、3月には納入が終わりました。それがどこに使われたかは国に任せているので把握していません」

 納入金額1枚135円で350万枚ということは、単純計算で約4億7250万円分に上る。報道によると、政府とは随意契約により契約を結び、政府担当者は「各地の経済産業局を通じて短期間でマスクを納入できる業者を探した。緊急を要する事業だったので随意契約を結んだ」と説明したという。

 樋山社長によると、〝アベノマスク〟事業は厚労省と経産省の合同チームで行われており、メーンとなる制度運用は厚労省、調達は経産省が担当している。4月に入り、不良品問題が発覚した後、樋山社長は厚労省から「発注先として名前を公表しても問題ないか」と確認された。それに対し、「少なくとも現時点でもうちからは不良品が出ていない。公表されても全く問題ない」と胸を張って伝えていた。

 ところが、同社に関する情報はなぜか最後まで公表が控えられ、その結果、大きな疑念を抱かれることになった。

 「はっきり言って、不良品ではない良いものを、安く、納期に間に合うように納品したのはうちだけです。それなのに、なぜかうちの名前だけが最後まで公表されなかったのです。うちが出さないでくれとお願いしていたわけではないし、非公表の理由はよく分かりません。それは国に聞いてほしい」

 政府の対応への不満をのぞかせる一方で、マスクの品質と価格の安さには自信を持っている様子がうかがえた。

 「先ほども話した通り、うちで扱っているマスクは立体的なベトナムマスクで、不良品が出たとされる布マスクとは形状がそもそも異なります。それに抗菌の糸から作っているので、30回洗っても抗菌性能は変わらない。政府によると、『1枚平均260円で買い上げた』ということですが、うちのマスクは1枚135円と安いのも特長です。現地で人気がない白生地のものを大量に仕入れたので価格を下げることに成功しました。もっとも、コロナがなければ特別安いというわけではなく、これぐらいが適正価格なのだと思います。うちの社名だけが公表されなかったのは、単に不良品が出ていなかったからなのか、ほかの会社と一緒に公表したくない理由があったのか……」

 政府は布マスクを1枚平均260円で買い上げたとしている。だが、同社が平均を下回る1枚135円で納入していたとすれば、ほかの企業は平均をはるかに上回る金額で納入していたことになる。ほかの発注先の価格の高さを浮き彫りにさせないため、厚労省としては同社の存在をあまり公表したくなかったのかもしれない。

 樋山社長は同じ住所にある電気通信機器修理業「樋山ユースポット」の社長も兼任しているが、2018年には3000万円あまりの脱税容疑で、懲役1年6月、執行猶予3年の判決を受けた。このときの記事を基に、「こんなうさんくさい経営者がやっている会社に政府はなぜマスクを発注したのか」と疑問視する向きもあった。


 これについて樋山社長は「そもそも脱税は冤罪だった」と主張する。

 「最盛期で従業員60人規模の会社で、社員が労働基準法の縛りにとらわれず、経営者のように自由に判断して働けるようにしたいと考えていました。そこで、労働基準監督署などに相談して、樋山ユースポットと社員による有限責任事業組合(LLP)を立ち上げ、組合員となった社員は同業他社の1.5~2倍ぐらいの給料がもらえるようにしました。ところが、『制度を悪用して消費税の脱税をはかっているのではないか』とマルサに目を付けられ、2年間にわたり捜査を受けました」

 「こちらとしてはそんなつもりはなく、私も社員も容疑を否認し続けていた。だが、向こうは『労働基準法のしばりなどは建て前で、脱税目的だったのだろう』という考えを押し付けてくるばかりで、『こちらは書類送検する考えだ。これ以上争うと執行猶予がつかなくなる』と言われた。その時点でさまざまな商売がダメになり、2億円近く売上減となり、社員もゼロになっていたので司法取引をやむなく受け入れたのです」

 このほかの疑惑については、テレビ・新聞ですでに報じられている通り。公明党や若松謙維参院議員のポスターが張ってあり、積極的に支持していることについては「単に公明党支持者・創価学会員であるだけ。ポスターをはがさず外に張っていることから分かる通り、別に隠しているわけでもない」。

 ネットなどでウワサされていた政府との癒着については、「そういう関係だったらマスクは1枚135円などではなく、1枚300円で売りますよ。全くそういうことはないです」。同じ住所に複数の会社を登録していることもあっさり認め、「ペーパーカンパニーなどではなく、どれもきちんと経営している」と述べた。

 経営者として活動してきたからか顔は広いようで、旧知の記者の名前を何人も上げた。ベトナムマスクとは別に不織布マスクも大量に仕入れて周囲に寄付する活動も展開しているとか。

 「福島県、福島市、お世話になっている病院、介護施設、知人・友人などが所属する団体などに数千~数万枚寄付しています。国内でもマスクの生産が始まったところを見ると、おそらくもう間もなく充足するでしょう。そうなると、自分のところでマスクを抱えていたってしょうがないじゃないですか。何よりいまは緊急時なのだから、どんどん寄付しているところです。こんな緊急時に『うちが儲ける』なんて心構えでやっているのはおかしいと思います」(同)

 以上が樋山社長の主張であり、話を聞いていると、納得できる部分はあった。だが、多くの人が指摘する通り、政府の発注先としてはあまりに企業規模が小さすぎて、正直不自然なのは否めない。4月28日の衆院予算委員会における加藤勝信厚労相の答弁では、同社の輸入代行を福島市飯坂のシマトレーディング(島正行社長)という会社が行っていたことも判明した。福島市が舞台となったこの問題、まだまだ続きそうだ。

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