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「40年後廃炉終了」の由来を問う―【尾松亮】廃炉の流儀 連載13

(2021年4月号より)

 福島第一原発の廃炉には「30~40年かかる」と言われ続けてきた。東電と国の工程表に従えば、2041年から51年までの廃炉完了(廃止措置終了)を目指した作業が進められている。

 そもそもこの「40年後終了できる」という工程はどうやって見積もられたのか。

 初版「中長期ロードマップ」(2011年12月)によれば、このスケジュール策定の際に主要参考例となったのは、1979年米国スリーマイル島2号機事故(TMI-2)後のデブリ取り出し工程であった。同ロードマップの「原子炉施設解体計画」という項目に、期間設定の根拠が次のように示されている。

 《TMI-2 における燃料デブリ取り出し期間(4年強)、通常の原子炉施設の解体標準工程(15年程度)から、1基の原子炉施設の解体には燃料デブリ取り出し開始から20年以上が必要と想定》(棒線は筆者)

 まずTMI-2では燃料デブリ取り出し作業に「4年強」(1985~90年実施)を要した。そして事故の起きていない原子炉の解体工程が「15年程度」とされる。この二つの数字を足し合わせると「4年強+15年=19年強」という数字が得られる。これに基づいて、より状況が深刻な福島第一原発では「1基の原子炉施設の解体には燃料デブリ取り出し開始から20年以上」とするのである。

 TMI-2では事故から6年半後(1985年)にデブリ取り出しを開始した。福島第一原発では「TMI-2の実績を参考に燃料デブリ取り出し開始目標は10年以内と設定された」(同ロードマップ20頁)という。

 「40年後廃炉終了」という目標設定については、同ロードマップに示された「デブリ取り出し期間」についての記述を見ると、その計算式がある。

 同ロードマップでは「TMI-2に比べて分布範囲が広範なことも踏まえ」、福島第一原発でのデブリ取り出し期間を「10~15年」(同20頁)と想定している。この最長15年という「デブリ取り出し期間」も、TMI-2では1基で「4年強」という数字を3基分(福島第一原発1~3号機)で乗じたものと推察できる。少なくとも「4年強×3基=約15年」という単純計算で得られる数字と合致する。

 このような積み上げ計算により、「燃料取り出し開始まで10年+デブリ取り出し期間15年+通常原子炉解体期間15年=最長40年」というスケジュールが導き出される。

 つまりは「TMI-2では6年半後にデブリ取り出し開始なので、福島第一原発では10年後開始」「TMI-2では1基のデブリ取り出しに4年強なので、福島第一原発は1~3号機分で15年」と、スリーマイル島より「少し長めに期間を設定」したものに過ぎない。

 当初はTMI-2で実施された「水中でのデブリ取り出し(冠水工法)」「上部アクセス(上からの取り出し)」が福島第一原発でも可能との前提があった。その後ロードマップは改訂を重ね、TMI-2のような「冠水工法・上部アクセス」が困難との認識も示された。

 それでも「TMI-2より少し長め」で見積もった「40年後終了」工程だけは頑なに維持されてきた。

(次回に続く)

おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。


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