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【横田一】中央から見たフクシマ

小泉環境相が取り組むべき緊急課題 

 小泉進次郎環境大臣は3月6日の記者会見で、福島原発事故による放射能汚染土を使った鉢植えを大臣室などに設置したと発表。「原発事故の風化や風評被害を食い止めたいという決意の表れだ」と語りながら、空間放射線量に変化はないとも説明し、安全であることを強調した。

 しかし国民民主党の原口一博・国対委員長は9日の会見で、「汚染土の拡散によって内部被曝が懸念される」「パフォーマンス」と批判。立憲民主党の阿部知子衆院議員も質問主意書を10日に提出。原子力事業者に課せられる再利用の規制値の50倍以上の汚染土を利用するのは常軌を逸しているなどと指摘しつつ、9項目から成る質問事項を列挙していた。

 そこで17日の会見で鉢植え設置への批判について小泉氏に聞くと、次のような答えが返って来た。

 「福島のために何ができるのかという中で出て来た一つの実証、取り組み。今後も丁寧に、そういった意見に対しても受け止めた上で説明をして理解を得ていきたいと思う」

 汚染土は内部被曝をしないように人が触れないところに隔離、放射能レベルが下がるまで管理し続けるのが鉄則のはずだ。空間線量が変わらないからと言って、福島県内に保管していた汚染土を鉢植えに詰めて持ち出すのは、放射性物質を全国に拡散させることにもなる。国民の安全を脅かすことはあっても、原発事故の風化防止や風評被害払拭にプラスになるとは思えないのだ。

 また、「小泉氏が取り組むべき課題は他にある」と思って、もう一つの質問も17日の会見でぶつけていた。

 「原発事故時の住民避難用バスの運転手の健康被害に対する補償制度が今の日本にはないということで、それに関連する法案を提出する考えがあるのか。『Fukushima50』の映画の中でも特攻隊的に突き進んだ東電の社員がヒーローのように描かれているが、ああいう人たちへの補償制度がない現状を改善する法案を提出するのかどうか」

 小泉氏はこう答えた。「そういった意見もあることをしっかり踏まえて、今後も理解を深めていきたいと思っている」。

 原子力防災担当大臣も兼務している小泉氏は、避難計画が実効性のないまま原発が稼働している現実を直視する責務がある。同じ自民党の泉田裕彦衆院議員(元新潟県知事)は、住民避難用バスの運転手が確保できていない現状をこう訴えた。

 「アメリカはいざ原発事故になったら、(出動する)人を決めている。名簿ができていて、あらかじめ『私は行きます』というサインをして、放射線防護の勉強もしている。そして、いざという時にもう一回サインをしていく。当然、危険手当も出る」

 「『柏崎刈羽原発』の周辺住民は44万人。(40人乗の)バスは1万3000台は必要だが、運転手は1万3000人もいない。イラクに自衛隊員を派遣する時に特別法ができていたが、『特別な手当がないと首を縦に振らない』という運転手は一杯いる。それをどうするのか」

 米国との違いは歴然としており、小泉氏が取り組むべき緊急課題は明らかである。住民避難用バスの運転手のような放射能被曝の恐れがある業務に就く人には、危険手当を出すことに加えて被曝による健康被害への補償制度が不可欠なのだ。

 しかし日本にはこうした制度がないため、住民避難用バスの運転手が十分に確保されないまま、原発が稼働している。福島原発事故から9年経った今も、〝特攻隊的対応〟を強いる状況は改善されていないのだ。鉢植え設置より遥かに重要な課題が残っていたことに対して、小泉氏がどう対応するのか注目される。

 

フリージャーナリスト 横田一
1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた「漂流者たちの楽園」で1990年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。




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