福島県庁のコピー

【福島県】【公務員給与】民間準拠の大ウソ

社会実態とかけ離れた人事院・人事委員会勧告

 

 公務員の給与水準は民間に準拠することになっている。だが、実際には純粋な民間の水準とは大きくかけ離れている。その理由は、人事院・人事委員会が実施する「給与実態調査」にカラクリがあるからだ。 

 公務員の待遇は、人事院(国)、人事委員会(都道府県・政令指定都市)の勧告によって決まる。

 人事院は「公務員給与実態調査」と「民間給与実態調査」を行い、職種、地域、学歴、役職、年齢などを加味して両者を比較し、給与勧告を行う。この勧告は一般職の国家公務員が対象となる。

 今年は8月7日に人事院勧告が行われた。内容は、今年4月分の国家公務員(一般職)の平均給与(月給)は41万1123円で、民間より387円(0・09%)低く、期末・勤勉手当の支給月数は4・45カ月で、民間より0・06カ月低かったため、「民間給与との較差(0・09%)を埋めるため、初任給及び若年層の俸給月額を引き上げ」「ボーナスを引き上げ(0・05月分)、民間の支給状況等を踏まえ勤勉手当に配分」というものだった。

 一方、都道府県・政令指定都市の実態調査は各自治体の人事委員会が実施する。

 福島県人事委員会は、委員長・齋藤記子氏(会社役員)、委員(委員長職務代理者)・千葉悦子氏(大学名誉教授、放送大学福島学習センター所長、福島県青少年育成・男女共生推進機構副理事長兼福島県男女共生センター館長)、委員・大峰仁氏(弁護士)の委員3人で、事務局職員は県職員。

 県人事委員会では毎年、県職員と民間の給与実態調査を行っている。民間の調査対象は企業規模50人以上・事業所規模50人以上の県内事業所(母集団事業所)で、昨年は840事業所のうち、層化無作為抽出法によって抽出した185事業所を対象に調査した。

 それに基づき、知事と県議会に対して「職員の給与等に関する報告・勧告」を行う。昨年のその概要は「民間給与との較差(0・09%)を埋めるため、初任給を中心に、若年層に重点を置いた給料月額の引き上げ」、「特別給(期末・勤勉手当)を引き上げ(0・05月分)、民間の支給状況等を踏まえ勤勉手当に配分」というものだった。

 具体的にはこうだ。

 まず、昨年4月1日時点で「職員の給与に関する条例」の適用を受ける職員は1万4301人で、従事する職務の種類に応じて行政職、公安職、教育職、研究職、医療職の各給料表の適用を受けている。これら職員の平均給与月額は38万3448円(平均年齢41・9歳)だった。さらに「福島県市町村立学校職員の給与等に関する条例」の適用を受ける職員は1万0069人(昨年4月1日現在)で、それぞれ教育職、事務職、医療職の各給料表の適用を受けている。これら職員の平均給与月額は43万2115円(平均年齢47・6歳)だった。

 これを民間と比較した結果、前述のような勧告に至った、と。その根拠は以下の通り(「職員の給与等に関する報告・勧告」より)。

 《職員給与実態調査及び職種別民間給与実態調査の結果に基づき、職員においては行政職給料表適用者、民間においてはこれに類似すると認められる職種の者について、職種、役職段階、年齢など給与決定要素を同じくすると認められる者同士の平成30年4月分の給与額を対比させ、精密に比較(ラスパイレス方式)を行った。その結果、職員の給与が民間給与を321円(0・09%)下回った》《職種別民間給与実態調査により民間における特別給(ボーナス)の平成29年8月から平成30年7月までの1年間の支給実績を精確に調査しており、その結果に基づいて職員の特別給(期末手当・勤勉手当)と民間の特別給との比較を行っている。これによる結果、民間の特別給の年間支給割合は、所定内給与月額の4・41月分に相当しており、職員の期末手当・勤勉手当の年間の平均支給月数(4・35月分)が民間の特別給を0・06月分下回った》

 同報告・勧告によると、比較対象とした昨年4月分の県職員の給与月額は37万2488円、民間の給与月額は37万2809円。さらに、1年間に支給された特別給(ボーナス)の割合は県職員4・35カ月分、民間4・41カ月分だったという。

 そこで「民間給与との較差(0・09%)を埋めるため、初任給を中心に、若年層に重点を置いた給料月額の引き上げ」、「特別給(期末・勤勉手当)の引き上げ(0・05月分)」を勧告したわけ。

各種調査との差

 とはいえ、民間の給与月額37万2809円、ボーナスの年間支給割合4・41カ月分が実態を反映しているとは到底思えない。多くの人は、それで「民間並み」と言われても納得できないだろう。

 例えば、厚生労働省が実施した「平成30年賃金構造基本統計調査」を見ると、福島県の賃金(所定内給与額)の平均値は26万8400円(平均年齢44・1歳、平均勤続年数13・0年)だった。

 同調査は性別、産業別、事業規模別、学歴別、役職別、都道府県別などの賃金について、毎年6月分の賃金等について7月に調査を実施するもの。昨年は、調査客体として抽出された7万8203事業所のうち有効回答を得た5万6651事業所から、10人以上の常用労働者を雇用する民間事業所(4万9399事業所)について集計した。

 こうして見ると、県人事委員会のデータ(民間の給与月額37万2809円)と、厚労省のデータ(同26万8400円)では10万円以上の開きがある。

 もっとも、今年になり厚労省の統計不正問題が明るみになり、同省調査の信憑性が疑われる事態に陥ったため、国税庁が実施している「民間給与実態統計調査(平成29年分)」についても見てみよう。

 同調査によると、調査対象期間(2017年1月から12月)の民間事業所に勤務している給与所得者の平均給料・手当は年間364万円、平均賞与(ボーナス)は同68万円で計432万円だったという。これは都道府県別のデータはなく、全国平均だが、従事員1人から5000人以上まで、幅広い事業所を調査しているのが特徴。

 一方、前述した昨年4月分の県職員の給与月額37万2488円を年間に換算すると約446万円。そこに4・35カ月分の期末・勤勉手当(民間のボーナスに該当)を加えると600万円超になる。

 両者を比較すると、年間170万円ほどの差が生じる。

 県商工労働部が実施している「平成30年 労働条件等実態調査」を見ても、県人事委員会の調査とは大きく異なる。なお、同調査は県内で常用労働者30人以上を雇用する民間事業所から1400事業所を抽出、有効回答669事業所の状況をまとめたもの。

 それによると、平均賃金(所定内給与額)は27万9000円(平均年齢40・7歳、平均勤続年数12・4年)で、所定外給与(3万4000円)を含めても31万3000円。やはり、県人事委員会のデータと比較すると10万円程度の開きがある。

人事院・人事委調査のカラクリ

 こうしたデータを見比べると、「公務員の給与水準は民間準拠」というのは大ウソであることが分かっていただけよう。

 なぜ、そうした事態が起こるのか。それは人事院・人事委員会の調査対象が「企業規模50人以上・事業所規模50人以上」とされているから。これを満たすのは国内全事業所のわずか数%しかない。大部分が調査対象に入っていないのだ。

 加えて、人事院・人事委員会の調査では非正規従業員は含まれない。総務省の労働力調査(今年7月分)によると、全体の約38%が非正規従業員で、かなりの割合になっているが、これらは対象外なのだ。

 そうした事情から、人事院・人事委員会の調査・勧告は、社会実態とかけ離れたものになるわけ。

 しかも、調査対象とされた事業所は公開されていない。これでは、調査の妥当性を検証する余地がなく、「優良企業」だけをピックアップしていても外部からは分からない。むしろ、ほかの調査との差を考えると、何らかの〝手心〟を加えていると疑うべきだろう。

 要するに、公務員の給与は「民間準拠」ではなく「大企業準拠」「優良企業準拠」なのである。少なくとも人事院・人事委員会の勧告制度が社会の実態を反映していないのは明らかだ。

 「民間準拠」を謳うのであれば、大企業や優良企業に限るのではなく、全事業所を調査対象とし、その給与実態に倣うべき。そうすれば、公務員の人件費は2〜3割は削減できよう。

 人事院・人事委員会の勧告制度にはこうしたカラクリがあるわけだが、これは「昭和時代の名残」という。というのは、昭和40年代半ばごろまでは公務員の待遇は低かった。日本が高度経済成長期にあったこともあり「民高官低」の状況だった。労組が「生活できる給料を」と主張したほどだったという。

 そうした中で、前述のような「カラクリ式勧告制度」が構築され、昭和50年代半ばに民間の水準に追いついた。ただ、その後も「カラクリ式勧告制度」が続けられ、「民高官低」から「官高民低」へと逆転。バブル崩壊などを経て、「官高民低」が加速していった。

 本来なら、昭和50年代半ばに民間の水準に追いついた時点で、制度を改めるべきだったが、そうならなかった。これは政治家の責任と言っていい。

 もう1つ、忘れてはならないのは「公務員の人件費」という視点で見ると、給与・期末手当などだけでなく、共済負担金と退職手当負担金があること。前者は県と職員が折半、後者は県が負担する。

 「福島県人事行政の運営等の状況」によると、2017年度の職員数(一般行政職のほか、医療職、教育職、公安職などを含む)は2万7871人で、給与費は約1904億円。1人当たりにすると、約683万円となる。ただ、共済負担金などを加えた人件費で言うと、総額は約2594億円で、1人当たりにすると約930万円になる。

 ちなみに、県職員の給料は1級から10級まであり、各級の中に1号給、2号給、3号給、4号給……とある。一般行政職の場合、1・2級は主事・技師、3級は主査・副主査、4級は主任主査・主査、5級は副課長・主任主査、6級は本庁課長・主幹、7級は本庁部次長・本庁課長、8級は本庁部次長、9・10級は本庁部長。もっとも多いのは4級で、全体の3割強がそこに当たる。

 級別の一般行政職の給料月額は、10級が53万5000円〜57万3900円、4級が26万8700円〜39万3300円、1級が14万7300円〜25万3300円となっている。

 ただし、これは基本給で、そこに扶養手当、通勤手当、住居手当、時間外勤務手当、管理職手当などが支払われる。1人当たりの平均支給月額は、扶養手当が約1万9600円、通勤手当が約1万1000円、住居手当が約2万6000円、時間外勤務手当が約4万2000円、管理職手当が約5万8800円など。先の基本給に、これらを加えたものが「給与」になる。これらを含めると、平均給与月額は40万円前後になる。

 各種公表や統計などの際、それが「給料」なのか、「給与」なのかを正しく理解する必要がある。少なくとも、給料(基本給)だけを見て、公務員の収入はそれほど多くないなどと考えるのは間違い。

退職手当の概要

 退職金について、もう少し詳しく述べておこう。

 県職員(一般職など)の退職金は「福島県職員の退職手当に関する条例」に基づき支払われ、「基本額+調整額」で計算される。

 基本額は退職日の給料月額に退職理由別・勤続年数別の支給率を乗じた額。支給率は勧奨・定年の場合、勤続25年で33・27075カ月分、35年で47・709カ月分(最高限度額)となる。

 そこに調整額がプラスされる。調整額は在職期間中の役職などに応じた貢献度を加味して支給されるもの。2006年に創設された制度で、「国家公務員退職手当法」に規定されている。国の制度に倣い、地方公務員に対しても調整額が支払われることになった。県の制度では調整額は最大で400万円程度になるが、これも理解の範疇を超える。

 この計算式に基づき、定年まで35年間勤めたとして計算すると、退職手当は2500万円前後になる。

 一方で、前述した県商工労働部の「平成30年 労働条件等実態調査」によると、「退職金制度あり」と回答したのは89・1%で、10%強は退職金制度がない。

 そのほか、公務員は有給休暇、育児休暇などの面(取得しやすさなど)でも、明らかに民間より恵まれている。財政的に余裕があるならまだしも、そうでないのに厚遇を続けているのは許されない。

 県予算(今年度当初)を見ると、歳入総額は1兆4603億2800万円で、このうち県税収入は2278億6100万円。これに対して、人件費は2550億5700万円となっており、県税を上回る金額になっている。

 本誌が公務員について厳しい見方をするのは「厳しい仕事をしているわけでもないのに、待遇だけはベラボーによい」ことに尽きる。

 県人事委員会では毎年10月上旬に知事と県議会に対して「職員の給与等に関する報告及び勧告」を実施している。今年も間もなくそれが行われる予定で、どのような勧告になるかは分からないが、いままで通り「偽りの民間準拠」によって勧告が行われることには違いない。


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