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会見への参加率から見る報道の姿勢―【春橋哲史】フクイチ事故は継続中⑬

(2021年4月号より)

 東京電力・福島第一原子力発電所(以後、「フクイチ」と略)では、核災害の収束作業が続いています。

 フクイチの現状や、東電を監視・規制している原子力規制委員会の対応については、多くの国民が「報道を通じて、間接的に知る」のが現状でしょう。

 私自身は、「報道には頼らず、自らの責任でリリースや会議の内容を確認すべき」という立場ですが、ともすれば膨大な時間を要することでもあり、日々の暮らしに追われる中では、国民全員が、そのような対応ができるとは限りません(寧ろ、できない場合の方が圧倒的に多いかも知れません)。

 従って、良し悪しはともかくとして「情報を確認し、コンパクトにまとめて伝える」機能を持っている報道の役割が重要になってきます。

 ここで見落としてはならないのが、報道が記事をまとめるプロセスです。幸いなことに、東電や原子力規制委員会の記者会見はネットで中継され、動画も残るので(原子力規制委員長の会見はYouTubeに保存。東電の記者会見は一部の例外を除いて、1週間後に自社のサイトからは削除)、会見にどこの記者が参加し、どんな質問をしているのか確認可能です。

 私は2019年夏から、記者会見への報道機関別の参加の実態を記録しています(会見はそれ以前からネットで視聴していました)。その結果を集計したのが、今回の二つのまとめです。

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 1年を通して見ると、報道機関別に対応の違いが如実に表れています。

 東電会見へのおしどりマコ氏の参加率は他の記者・報道各社を圧倒していますし、原子力規制委員長会見ではNHKがダントツです。

 福島県内の報道各社は、何れも参加率が低調です。

 中でも驚かされるのは、リソース(人手や資金)に余裕が有り、発表の場も確保している筈のマスメディアが、東電会見への参加率で、おしどりマコ氏の後塵を拝していることです。実質的に個人で活動している記者に、参加率で圧倒的に敗北して恥ずかしくないのでしょうか? 現在進行中の核災害であり、月間平均・約6500人(※1)が被曝労働に従事している現場の状況を、組織力のある報道機関が把握しなくて良いのでしょうか?

 又、まとめには反映されていませんが、質問の中身も重要です。フクイチで何らかの人身災害(負傷・内部被曝等)が発生したというリリースが有った際に詳細を質問するのは、おしどりマコ氏、木野龍逸氏、東洋経済新報の岡田氏といった記者に限られており、所謂「名前の知られた新聞やテレビ」の記者は殆ど沈黙しています。たとえ不十分であったとしても、東電は、フクイチでの負傷事案については公表しています。その不十分なリリースすら、マスメディアはスルーしているのです。東電の責任は当然としても、大手報道各社のこのような体質が、「フクイチで働く人」の姿を見えなくしている大きな原因の一つでしょう。少数とは言え、東電の不十分なリリースを基に、掘り下げようと質問している記者もいるのですから、他の記者にできない筈がありません(尚、発災から2021年3月までのフクイチでの死傷人数等は拙ブログに掲載しています/※2)。

 記者会見への参加率を定量的に把握してみて、私がもう一つ驚かされたのは、所謂「反・脱原発」を訴えている報道会社の参加率が、「中立」を装っている他社より低調だったことです。「営業(=お金儲け)としての訴え」ではないかと疑いたくなります(因みに原発推進の某新聞社も、規制委員長・東電、何れの会見に参加せずに記事を書いています)。

 最後に指摘したいのが、首都圏のマスメディアの対応です。フクイチで発電された電気は首都圏で消費されていました。原子力規制委員会は、(実態はともかく)フクイチ事故の反省を踏まえて発足した組織です。

 「人の道」というものがあるでしょう。フクイチの電気で生活し、輪転機を回し、電波を飛ばし、お金儲けをしてきた立場として、フクイチや規制委員会の動向に無関心であることは許されません。東電や規制委員長の会見で質問して、記事や番組を作るのは義務であるとも言えます。それを怠っている首都圏のマスメディアは大いに批判されるべきですし、そのようなメディアを漫然と視聴・購読し続けている国民(主権者)にも、大きな責任が有ります(尚、私自身は、日本のメディアは視聴・購読していません)。

 記者会見への参加率や質疑内容を見ていくと、記者の勉強ぶりや報道会社ごとの立場も、より鮮明になります。社説や解説番組で立派なことを主張している「だけ」なのかどうかも分かります。

 報道のやり方で「フクイチ事故の見え方」は異なります。報道はあくまでも参考情報として位置づけ、自らの責任で調べ、考察することが最優先されるべきです。

 ※1
 2020年度(同年12月まで)の平均人数。東電公表の資料に基づいて春橋集計。

 ※2


春橋哲史

 1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。

*福島第一原発等の情報は春橋さんのブログ 



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