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2023年11月 「予感」


 月の真ん中くらいから急に寒くなった。今月は大学に入ってからずっと続けていたバイトを辞めたり、5年ぶりに髪を染めたり、部屋の整理をしたりして、小さいけど確かな変化が多かった月だと思う。もう秋が終わり冬になる。一つ前の冬は色々なことに押し潰されそうになっていた。今年はそうならないといいな。小さな変化が、おれや周りの人間を悪いを方へ追いやらないでくれ、と祈っている。


『その視点』/haruyoi
"優しくすることはない同じように優しくすることもできる"

 長らくつきまとっている悩みが少しずつ大きくなっている。優しくすることもしないことも、そうせざるを得ないのではなく、そういう選択でありたいと、春頃に思ったことがあった。この曲を聴いてそのことを思い出した。



『潜水』/崎山蒼志
"ちぎれるほど抱いた不平不満を愛している"

 崎山蒼志ほど若く、有機的に言葉を繋ぐ音楽家を他に知らない。愛しさを表現するときに、苦しさや悲しさを引き合いに出すところがグッとくる。おれの人生は比較的、好んで苦労や不幸を選び取っているからかもしれない。そういう生き方を悲観しているわけじゃなく、その先にしか希望を見出せないだけのことで、音楽には希望の片鱗のようなものを感じてしまうのだと思う。好きな曲だ。



『Sweetpia』/kurage
"迷った時には帰っておいでよ"

 体制をいくつも変えながら3年間、ライブパフォーマンスを中心に活動を続ける名古屋のバンドkurage。2度ほどサポートでドラムを叩いたことがあり、彼らの曲やライブには自分にしかない見方があると、たかが2回サポートしただけで思っている。今回の"Sweatpia"というEPはここまでの3年分の体重が強く乗っかっていると感じていたが、先日見たライブでその感覚は確証になった。轟音の壁に気圧され、強い意志の宿った目に震えた。権田くんはいつも衝動という言葉が似合うライブを演る。楽曲に彼のパーソナリティが如実に現れ出した本EPを背負ってどこまでも行ってほしい。



『君に夢中』/宇多田ヒカル
"心の損得を考える余裕のある自分が嫌になります"

 2021年の秋冬に『最愛』というドラマがやっていた。おれはドラマを見ることが大きい趣味の一つになっているけど、当時このドラマはなぜか1話だけ見てスルーしたが、amazon primeに追加されていたのでふと思い立って一気見した。詳細は伏せるが、各登場人物の行動理念の根幹には常に愛があるということに強く打たれた。自己犠牲を愛として描くことは酷く安易な手段だと思っているけど、このドラマにはそういう安っぽさがない。真に人を愛することやその責任を全うすることについて考えた。毎話、宇多田ヒカルの主題歌が流れるタイミングが完璧だった。



『翡翠に夢中』/ひとひら
"僕には手があってつくるもこわすもできる"

 漠然とつくりたいものがある。総合的で鋭いもの。などと言ってもできることと、能力と、時間には限りがあり、いつまでも風呂敷を広げ続けるわけにはいかない。ひとひらというバンドはジャパンオルタナティブをエンターテインメントにまで昇華しうるバンドの一つだと思う。今回のフルアルバム『つくる』を聴いてそう強く感じた。12曲入りのこのアルバムを流していると体感では長い一曲を聴いた感じがする。『つくる』という曲から『こわす』という曲までの全てが繋がっていて、コンセプトも一貫している。ただの音や言葉の集積だけど、それ以上の意味を持つ。ただの一曲ずつの集積だけど、それ以上の意味を持つ。ただの一枚のアルバムが、行間を含んでとつてもない重さになる。そう感じた。ひとひらを構成する彼らにも生活があり、さまざまな雑味をくぐり抜けて、音楽を選んで、このアルバムが出来上がっていることの、なんと美しいことだろう。おれは今も生活に押しつぶされそうだ。ずっとに糸が絡んでいるような、ずっと雨が降っているような、とにかく先の見えない状態で、勘で目の前をかき分けながら進んでいる。信じられる1つを選びたい。そうこのアルバムに思わされた。
 


どうか大事なものを見失わず歩いていけるようになりたい。




はじめ

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