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カマラ・ハリスとチャドウィック・ボーズマンの共通項って!?/書籍『歌と映像で読み解く ブラック・ライヴズ・マター』vol.2


ブルースの故郷、灼熱のミシシッピを旅し、ヒップホップの黎明期にサウス・ブロンクスのミュージシャン宅にホームステイ。多くのアメリカの黒人アーティストたちへの取材と評論活動を通じて培ってきた知見をもとに、4カ月あまりで書き下ろした書籍『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』(藤田正著/シンコーミュージック・エンターテイメント刊)。  著者の藤田正さんと編集担当の森による、本書製作にまつわる裏話の第2回です。

チャドウィック・ボーズマンも、トニ・モリスンも、カマラ・ハリスも! 彼らをつなぐHBCUってなに?

――大統領選挙ではすったもんだを経て(いまだに完全に収まってはいませんが……)、民主党のジョー・バイデン氏が勝利。副大統領に女性で、しかも黒人のカマラ・ハリスさんに決まりましたね。

藤田 これからのアメリカ政治がどうなるのかという点では、バイデン氏よりもハリス氏に注目したほうが「面白い」でしょう。彼女が「バイデンの次」として巨大国家、アメリカ合衆国の大統領になる可能性は、現時点では一番に高いからです。日本のメディアでは、女性だし美人だし、経歴は素晴らしいしということで、論調はウェルカムな感じだけど、そんな雑音にぼくらは惑わされてはいけません。なにより彼女は、カリフォルニア州の第32代司法長官を2期も務めた同州警察機構のトップだった。黒人芸能者、ラップ・ミュージックが激しく批判してきた「ポリス・ブルータリティ(警察権力の残虐性)」を指揮・統括していたのが彼女です。

――メディアが垂れ流す平板なメッセージに踊ってはいけない。

藤田 そうです。女性、黒人でありアジア人でもある……というと、バラク・オバマ氏と同じように、それだけで「マイノリティに優しい」と勘違いしがちだけど、国家権力の遂行は甘くはない。彼女は極めて冷静な政治家です。ぼくらとは違う。彼女のこれからのよく言動を見ておきましょう。ぼくが本書で触れたのも、その点です。本書の5章で、日本でも有名になったコリン・パウエル氏(元米国陸軍大将・元国務長官)のことを書いたけど、ハリスさんは歴史的にその後輩なんだよね。なにしろ二人は同じジャマイカ系の黒人でもあるし。この「血筋」って日本ではまるで認識されていないけど、とても重要な要素なんです。黒人も女性もLGBTQの人たちも、みんな同じアメリカの一員であるとこと考えたた時、それを政治はどう反映するのか。BLM運動は、まさしくその根本の問題を表舞台に引き上げた。

――彼女は、本書にも登場しますが、HBCUの一つハワード大学の卒業生です。今年、惜しくも亡くなった『ブラック・パンサー』のチャドウィック・ボーズマンもそう。

藤田 これ、絶対に重要。「HBCU」こそ、日本ではまったくと言っていいほど知られていない……でも一番にベイシックな黒人解放闘争のポイントです。HBCUは日本では「歴史的黒人大学」と訳されています。ハリスさんが通ったハワード大学は一番に有名ですが、かつて人種差別によって勉学すらまともにできなかった黒人たちの学び舎が全国にあるHBCUです。本書ラストのハイライトと言っていいでしょうね。若い黒人たちの社会に貢献しようとするエネルギーが公民権運動、BLM運動といった「革命」に結び付いていった。ネットフリックスのビヨンセの感動的なライブ・ドキュメント『HOMECOMING:ビヨンセ・ライブ作品』(2019年)には、HBCUの若者たちによるブラスバンドが大々的にフューチャーされていますが、本書を読んでもらえれば、そのナゼが分かるはずです。

――ビヨンセは、2016年の大統領選の際、ヒラリー・クリントンを支持しました。当時、自分が生きている間に女性が大統領になる、なれることを娘(ブルー・アイビー)に見せたかったと語っています。

藤田 当然だろうね。だってビヨンセにしても、娘さんのブルー・アイビーにしても、アメリカ合衆国の国民なんだから。「お前らはなれない」なんてF***は、もうとっくの昔に終わっている、ってことです。

――同じ女性でも、大統領選直前に任命されたエイミー・コーニー・バレットは、まったく思想が異なります。しかも、彼女の任命は、今回の選挙ではマイナスに働いたそうですよ。

藤田 連邦最高裁判事として、トランプ政権の最終局面で選ばれた女性ですね。もちろん彼女の役割については本書第3章にしっかり書いています。すなわちドナルド・トランプ氏が大統領の席を追われた時、彼にどのような「災難」が襲い掛かるのかを少しでも食い止めるために、この激しく右翼な女性が選ばれたわけです。現時点における日本・政府与党の「女性政治家の惨めな使われ方」も考えるべきです。女性の登用といっても、喜んで「男」の言いなりになって権力の中枢で遊ぶ者はいる、ということです。

――たしかに。

藤田 加えて、トランプ政権の支持母体の一つであった白人貧困層をリアルに描き上げたJ・D・ヴァンス氏の自伝的書籍『ヒルビリー・エレジー』(光文社、2017年日本初版)、および同名の映画(ネットフリックスで配信中)を、ご覧になるといいかもしれないですね。白人としての「彼ら彼女ら」の絶望感は、バレットさんのような存在を通じて国政に反映されるのだと思います。

vol.3へ続きます!

https://www.shinko-music.co.jp/item/pid0649664/


チャドウィック・ボーズマン 2018年ハワード大学卒業生へのスピーチ







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