女王アリーサ・フランクリンの「リスペクト」が第1位に!ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高の500曲」2021年版
ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高の500曲」が2021年9月16日に発表されました。前回、2004年から実に17年ぶりに改訂された(2010年にミニ改訂があったものの)ランキングには興味深い変化が。アメリカの黒人音楽を中心に考察してきた視点から、特にトップ10の内容に注目し、音楽評論家の藤田正さんにコメントをいただきました。
※トップ画像は2021年8月発売『アレサ〜ザ・グレイテスト・パフォーマンス(デラックス)』より
――ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高の曲」トップ10の2021年版と2004年版を下に抜き出してみました。2021年版での大きな変化は10曲中6曲が黒人アーティストの曲で、しかもトップ1~3をブラック・ミュージシャンが独占。「これって、藤田さんが選んだんですか?」と思わず聞いてしまうような結果じゃないですか!
藤田 とんでもない(笑)。2020年に一つのピークとなったブラック・ライヴズ・マター運動の影響が大きいと思いますよ。同じ年の暮れにシンコーミュージックから書籍『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』を出したけど、このトップ10の上位に入ったアリーサ、PE(パブリック・エネミー)、サム・クック、マーヴィン・ゲイの全員の業績について、ぼくが同書で触れているのも偶然じゃない。BLM運動に至るまでの黒人史を紐解いていけば、キング牧師などと同じように指摘する必要がある人たちだからね。ローリングストーン誌の発表では「250以上のアーティストやライター、業界関係者の協力を得て編纂された」と書いてあったけど、評者それぞれがこの運動をどう評価したかは分からないものの、リスト作りの際に「BLM運動の盛り上がりとブラック・ポップ」の緊密な関係は無視できなかったということでしょう。ただ……。
――口ごもっておられますが、何か?
藤田 リストを概観すると、まぁ保守的ではあります。ブラック・ミュージックがベスト3を独占したことはニュースには違いないけど、全世界に絶大な影響を及ぼすアメリカン・ポップ・カルチャーの主軸はずっと前から「ブラック&カラード」であったわけで、その先導&煽動を担ってきたのはスポーツと音楽だよね。こういう社会性が反映されているかと言えば、充分ではない。もちろんローリングストーン誌という、ロック系の、世界的な権威を持つメディアが発表する「公式記録」みたいなものだから、ぼくらは指針の一つとして眺めればいい。前回の2004年バージョンとどう違うのか、とかね。だから同誌のホームページから各曲の動画に飛べるのは、とってもいい。往年の大ヒットや名曲と言っても知らないものもあるわけで、かなりの発見があるから楽しいよ。
――1位は女王、アリーサ・フランクリンの「リスペクト」。2004年の5位からランクアップです。
藤田 オーティス・レディングが霞んでしまった! この歌を書いて歌って全米にヒットさせたのはオーティスなのに(1965年)、その2年後、アリーサがカバーして全米1位だからなぁ。オーティス・レディングはかつて史上最高のソウル・シンガーとして称えられた人物だけど、今は、アリーサ・フランクリンが判断の中軸となりました。『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』にはそれに関連する記述が載っています。そして「リスペクト」。この歌詞って本来は夫婦間(?)の不平、グチをテーマにしているけど、例えばB.B.キングの「スリル・イズ・ゴーン」(1969年)の中の「私はついに自由に!」と同じように、全体のテーマそのものよりもキーワードこそが重要、という歌なんだよ。「リスペクト」にとってのキーワードは当然「私(黒人)にリスペクトを!」だよね。60年代黒人解放運動の渦中にあって、オーティスはそういう歌を作った。ブルースから続く、ダブル・ミーニングの歴史がここにも発揮されているわけ。
――それでアリーサは、ど~なんですか?
藤田 なによりアリーサ・バージョンによって、家庭内のもめごとから女性(あるいはLGBTQ+)の解放に至るまで、リスナーの意識しだいでイメージがいかようにも広げられる歴史的作品になった。「TCB」という言葉、すっごくかっこいいし。言葉の向こうに後輩であるビヨンセらのたくましいスピリットすら見える。
――「TCB」って何ですか?
藤田 「Taking care of business」略してTCB。(あんたらは)世話になってるんだから、(私ら)に気遣いしろよ、です(笑)。
――映画『ブルース・ブラザース2000』(1998年)で、アリーサが「リスペクト」をうたって、これも印象的でした。
藤田 『2000』は、日本でも大ヒットした『ブルース・ブラザース』(1980年)の続編。第1作では彼女は「シンク(Think)」(1968年)をうたった。これもフェミニズムの先駆けと言われる名曲。こういうアリーサの、人種の壁を超えた長年の活躍が、ローリングストーン誌の(いろいろある)人気投票にも反映されていると思います。
1位 Respect - Aretha Franklin from Blues Brothers 2000
女王にこんな風に歌われたらタジタジ……
2021年11月5日公開! アリーサ・フランクリン自伝映画『リスペクト』
――2位はパブリック・エネミーの「ファイト・ザ・パワー」。3位、サム・クック「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」と抗議の現場での定番曲が並びました。サムの曲は2004年版では12位からの躍進、「ファイト・ザ・パワー」は2004年版の322位から一気にジャンプアップの2位。6位はマーヴィン・ゲイの「ホワッツ・ゴーイング・オン」。この曲と同じタイトルのアルバムも同誌のオールタイムベストの1位に選出されてます。
藤田 PEの「ファイト・ザ・パワー」は、スパイク・リー監督の映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年)に象徴的に使われた反権力をテーマとするラップ。リー監督の活動も含めて、PEを筆頭とするラップ世代が(次代にやってくる)BLM運動の下支えとなってきたことが、かつてのプロモーション・ビデオを観かえすとわかります。このPE、そして大先輩にあたるクックとマーヴィンの功績についても、『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』にページを割いているのでそちらをご覧ください。
2位 Fight The Power (2020 Remix)-Public Enemy feat. Nas, Rapsody, Black Thought, Jahi, YG & QuestLove
3位 A Change is Gonna Come - Sam Cooke
Netflix 映画『リマスター:サム・クック』は、サムの暗殺と名曲「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」にまつわる真相に迫る
6位 Marvin Gaye - What's Going On (Lyric Video)
2021年、発表から50年を記念して曲のイメージをヴィジュアライズしたMV
――7位のビートルズ「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」も含め、1960年代~70年代初めの曲も多い。しかし、2004年に3位にあったジョン・レノンの「イマジン」はトップ10圏外に。
藤田 ロック……PEの「ファイト・ザ・パワー」だって理念としてはロックだと言えるけど……まぁ、ロックの王道としてザ・ビートルズ関連は未だに評価は高いんじゃないかな。ただジョン・レノンの「イマジン」(1971年)は、2021年の東京五輪もそうだけどオリンピックで何度も使われているように、「み~んなで平和を願う歌」みたいに不当な扱いを受けてきた。もしローリングストーン誌の選者たちがそれを嫌って投票を控える傾向にあったのだとしたら、面白い。では、レノン=マッカートニーの超名作の一つ「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」が、なぜこの2021年に7位に入ったのかだけど、ぼくにはわからない。
――タン タラ タララーン……8位のミッシー・エリオット、10位のアウトキャストは意外な選択な気もしますが。
藤田 ミッシーとアウトキャストっすか~……ぼくらは投票結果しかわからないから、それぞれがなぜこの位置に?と検証するのは難しいです。アウトキャストの「ヘイ・ヤ!」(2003年)と、9位に入ったフリートウッド・マックの「ドリームス」(1977年)もぼくには判断がつかない。上位の結果を全体として見た場合、往年のブルース~ロックンロール系は徐々に尻すぼみになってきてはいます。これは選定者の年齢が反映していると思う。あと、当たり前とも言えるけど、これだけ多種多様な音楽が世界を駆け巡っている時代なのに、この点ついてはアメリカのメジャー誌らしく反映度が低い。そういう意味においてミッシー・エリオットの「ゲット・ユア・フリーク・オン」(2001年)が8位なのは、へぇ!だった。
――そのココロ、教えてください。
藤田 ミッシーは女性ラッパーとして一時代を築いた人物で、この「あんたのアホのスイッチ、入れちまえ!」は、マジにかっこいいダンス・ミュージックであるのは当然として、音像のデザインが時代を画するものだった。ぜひ動画を聞き、ミッシーを見てください! アクセントにはインド楽器であるタブラが使われているけど、このインドって部分も含めて、根っこはレゲエ(ダンスホールもの)なんだよね。なぜ? 御自分でお調べください(笑)。レゲエがアメリカの音楽にどれほど影響を与え続けてきたかは、ぼくが繰り返し語ってきました。音色の選択、音の組み合わせ、リズム、編集の仕方などなど、ミッシー・プロダクションはばっちり「その秘密」を頂戴しちゃってる。ミッシーらのこの時期のラップ改革を境に、アメリカの最先端のポップはさらに変化し今に至っているわけ。こういう曲がベスト8位に入ってるのは、まっこと嬉しい。
8位 Get Ur Freak On -Missy Elliott
――は~い。本日も長々と、ありがとうございました~。
藤田 ニルヴァーナを忘れてる! ロックで画期的という意味では5位のニルヴァーナでしょう。ま、話が長くなるから歌詞のことだけでもお伝えします。この「スメルズ・ライク・ア・ティーン・スピリット」(1991年)は本当によく出来ていて、「Teen Spirit」という大衆的な「発汗抑制/芳香剤」(あるいは香料)を題名に持ってイメージを攪乱させながら、何かに抜け出せない自分、囚われの自分に向かってもがきのたうつ。それが「若さ(十代の勢い・魂)」なのか、「薬物依存」ゆえなのかはリスナーの勝手だが、カート・コバーンは「a denial(否定する! 拒絶だ!)」とうたい終える。ロック・ミュージックの真髄、と言えるような音楽表現だね。世界中の若いロッカーに強烈な刺激を与えた激しいバンド・サウンドと、この言葉による自己の「内臓のえぐり出し」の対比。やっぱり選者さんたちも大きなインパクトをもらったんでしょうね。
本編で紹介した書籍『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』
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