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【新刊読みどころ解説】クエストラヴ著 『ミュージック・イズ・ヒストリー』2023年2月27日発売/監訳者対談①

グラミー賞6度受賞のミュージシャンであり、バンドリーダー、プロデューサー、映画監督、飲食関係事業家、DJ……とマルチに才能を発揮しているヒップホップグループ、ザ・ルーツのドラマー、クエストラヴ。そんな彼が2021年に上梓した歴史本ヒストリーブック『ミュージック・イズ・ヒストリー』、待望の日本語版が2023年2月27日(月)に発売となります(シンコーミュージック・エンタテイメント刊)。今回、同書籍の監訳を担ったのが私、森聖加と、本noteにも登場いただいている音楽評論家、藤田正さんです。発売を記念して特別対談をnoteで公開します!

音楽ファン必携の書! 稀代のアーティストがアメリカ現代史を音楽でひもとく

 いやぁ、ようやく完成しました! 『ミュージック・イズ・ヒストリー』日本語版。2021年のドキュメンタリー映画『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』の鮮烈な映画監督デビューでアカデミー賞までさらったクエストラヴ。彼が映画の編集と並行して取り組んでいたのが本書です。

藤田 『サマー・オブ・ソウル』!! ザ・ルーツのリーダーが映画を手がけたというだけでも話題だったのに、ものすごく高い評価を得た。

森 彼はこれまでにも、『Mo' Meta Blues: The World According to Questlove(モ・ベタ・ブルース)』とか、アメリカの長寿音楽番組『ソウル・トレイン』(1971年〜2006年放送)を詳細した『Soul Train: The Music, Dance and Style of a Generation』などを出版しているんですが、著作が日本で翻訳されたのは初、です。それが、アメリカ現代史に彼独自の視点で迫る『ミュージック・イズ・ヒストリー』です。

藤田 このあいだのグラミー賞でも、ヒップホップ界のレジェンドを集めた「Grammys Celebrate 50 years of Hip-Hop!」のキュレーションを任されたように(前回のnote参照)、彼はもはやヒップホップ界だけじゃなくて、アメリカン・ポップ・ミュージック全体として最も重要なプレイヤー/音楽プロデューサー、そして映画製作者&作家になったんだよね。

 今、発表されているドキュメンタリーだけでもスライ・ストーンやJ・ディラと続く。ミュージシャンとしての活動だけにとどまらない、彼の勢いの源がどこからきたのか、そして、彼がなぜ重要なポジションにたどりつけたのか、その秘密が本書を読むとよくわかります。

はじまりは、ジャズから?

 『サマー・オブ・ソウル』でフィーチャーされた「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」が開催されたのが、1969年。その2年後、1971年1月20日にクエストラヴはアメリカ東部のペンシルバニア州、フィラデルフィアで誕生しました。両親もミュージシャンであるクエストラヴのまわりには、生まれたときから音楽がそばにあった。

藤田 本書のメイン・ページのスタートが1971年。アメリカの1960年代後半から70年代初頭にかけては、ブラック・ミュージックの新しいカタチが全米のあちらこちら爆発した時代。フィラデルフィアでは、フィリー・ソウルが生まれたんだ。

 家にあったレコードから自由に選んで聴けるようになったのは、12、13歳を過ぎてからのようだったようです。オヤジさんのキビシイ指導があったようで。

藤田 いまでは、DJとして、とんでもない数のレコード・コレクションをもつ彼だから、一筋縄ではいかないと思っていたけど、登場する曲はざっと500曲もある! まあ、詳しく取り上げられるのは、その一部ではあるんだけどね。

森 はい、インデックスだけで50ページありますからねぇ(苦笑)。本書ではザ・ルーツやヒップホップ界隈でのできごと、ビル・ウィザース、マイケル・ジャクソン、プリンス…彼が影響を受けたブラックの偉大なるアーティストのことはもちろんのこと、伝説ともいえる名盤、ディアンジェロ『ヴードゥー』制作秘話などを盛り込んで、一般に語られるアメリカ現代史とは異なる、彼のアメリカ史を語り尽くす。これでもか、と浴びせられる黒人音楽の沼にドップリはまっていきましたよ、私は。

藤田 音楽関係としては、本書はジャズからロックから、ディスコから、まぁとてつもなく幅広いジャンルをカバーしている。

 最初の核となる曲がトニー・ウィリアムズ&ライフタイムの「ゼア・カムズ・ア・タイム」。アルバム『エゴ』に収録された一曲です。いきなり、だれだよ!?って声が若いヒップホップファンから聞こえてきそうなんで、ここでは藤田さんにトニー・ウィリアムズについて説明をお願いします。

藤田 さすがドラマーのクエストラヴのだね。トニー・ウィリアムズから語り始めるとはぼくは思いもしなかった。彼は天才ドラマーとして1970年代の、ジャズ界を中心にした新しい音楽をクリエイトしてきた人(1997年に51歳で亡くなる)。1963年にマイルズ・デイヴィスのチームに入って大注目されて、60年代後半のマイルズ・ミュージックに欠かすことのできない(当時は)青年だった。ドラミングの手法も以前の名手とはまるで違っていたから、クエストラヴはそういう新しいセンスを見逃していない。こういう点もふくめて、クエストラヴは、オレ(たち)はヒップホップ世代なんだ、って本書で力説している。目を開かれる意見だよね。 

森 ヒップホップって、サンプリングという手法を通じて過去に学び、それを自らのスタイルに昇華していくわけですが、これって日本で言えば、「本歌取り」ってことですよね? 過去の曲を意識的に取り入れて新しい歌を紡ぎ出していく技巧ワザ。その革命的傑作アルバム「It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back」に少年、アミール(クエストラヴの本名)もガツンとやられました。

藤田 う〜ん。「本歌取り」って言っていいのかどうか、難しいところではあります。ヒップホップ、ここではラップ・ミュージックを指して森さんは言っているんだろうけど、クエストラヴの本を読むと、ラップ〜DJ〜スタジオワークの革新について若い黒人たちは相当に貪欲だったことがわかる。リズム+ラップ、という単純な構成も画期的だったけど、それが瞬く間にパブリック・エネミーという「怪物」を産み出した。でもパブリック・エネミーの音の世界って、実は、トニー・ウィリアムズのような別のジャンルだとされていた先輩たちの革新性を受け継いでもいるんだ、というのがクエストラヴの優れたところですよ。

 そうですね。その時その時のアメリカ社会の出来事に触れながらも、自分がどのような音楽から栄養を吸収してきたかを語るクエストラヴの書き方は、いろんなテーマが混ざり合っているから、最初は戸惑うんだけど、それこそがヒップホップ・アートだし、彼はどんどん読者も混乱してこの渦を楽しんでくれ!って言っている。そして、もちろんロック・バンドについても彼は書いているんですが、それは次回のnoteを読んでもらいましょう! 

続きは 対談②(近日公開)へ

藤田正/音楽評論家、音楽プロデューサー。『ミュージック・マガジン』編集部員、『Bad News』の編集長を経て、現在はフリーランス。音楽制作者としては沖縄島唄、ブルースやレゲエ~サルサなど多数手掛ける。

森聖加/編集者、ライター。国際基督教大学卒業。藤田正著『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』では編集を担当。音楽に限らずアート、デザイン、ホテルまでクロス・ジャンルで取材を続ける。

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