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枝先の柿/職工を目指すために ~ その3

金属工芸(金工)に携わる生き方もさまざま。正解は無いと思ますし、前回紹介したクラプトンのような世界の頂点に立つことを想像することは大切だと思います。でも一方、せっかく好きな道を選択したにもかかわらず、どうしてだか実際に作家として歩み出した人からは、不満や不平が聞こえてきます。それが先(その1)にかいた「好きなだけでは食べてゆけない」という理想と現実論です。でも、かなりぶった切った言い方をすれば「好きならそれでええやん」というのが私の考えです。

こんな生き方はどう思われますか

私が好きな金属を用いた表現者の一人に榎忠(えのきちゅう)さんがおられます。

榎忠(CHU ENOKI)公式ウェブサイト

パフォーマンスや彫刻作品についてはここでは書きませんが、興味深いのはその生き方。金属加工の工場で旋盤工として、サラリーマンとして生業をたてながら、週末に作品を製作されてこられました。すでに定年を迎え退社はされていますが、その職能を活かした作品も多々あります。パフォーマーでもある氏は、「ハンガリー国にハンガリ(半刈り)で行く」(1997年)で頭の毛を片方半分だけそり上げたにもかかわらず、そのスタイルで出社していたとのこと。いろいろ生き方はあると書きましたが、私の考える最適解ではないかとも思っています。

あと、工芸系の学生に人気のある”教職”についても私の考えを書いておきたいと思います。金工は道具立てが難しいと言われます。鋳ものにしろ打ちものにしろ、製作をするには相応の設備や環境が必要なので、主に金工科のある大学に就職してしまえばそれらに悩むことが少なくなります。なので設備環境を目的に考えれば進路に大学教職を希望するのもよく解ります。でも、憲法で明記されている”働く”という義務、学生に対する教育者の責任を考えると、単に環境が整っているからというだけではあまりにも安直すぎるような気がしています。

興味あるエピソード

アフリカ象の寿命をご存知でしょうか。世界中の動物園にいる4500頭以上の象を調査すると、動物園で飼育されている雌のアフリカゾウの平均寿命が17年弱であるのに対し、アフリカのサバンナや砂漠に暮らす雌のゾウは平均56年生きることが判っています。食事が与えられ外敵からの脅威におびえることもない動物園にいる象の方が、どうしてだか早死にしてしまいます。
動物園のゾウは野生よりも短命=英研究
https://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-35445020081215

これは、実は美術キューレータの”福のり子”さんがよく若いアーティストに言っている例のひとつです。環境や背負っているもので、美術における立ち位置や見え方、生き方が変わるという具体的例で、私自身共感するだけでなくそういった例を実際に数多く見てきました。もし”金工を探求”されるなら、アフリカの大自然(外敵や病など身の危険があり毎日の食事が保証されていない環境)に身を置かれることをお薦めします。


手仕事の次世代を担う若者たち、工芸の世界に興味をもつ方々にものづくり現場の空気感をお伝えするとともに、先人たちから受け継がれてきた知恵と工夫を書き残してゆきます。ぜひご支援ください。