第24回 成城南口商店街で撮られた映画も!
成城学園前駅に南口が設けられたのは、昭和9年のことと聞きます。これはP.C.L.(当時)社長・植村泰二氏の発案と出費によるものですが、お陰で俳優やスタッフたちは遠回りをせずに撮影所に通えるようになり、商店も徐々に増えていきました。今回は、成城学園前駅南口のお店が見られる映画をいくつかご紹介しましょう。
駅前を東西に延びる通りは、かつて「富士見通り」と言われていました。現在でも夕方になると、西方に綺麗な富士山の姿を見ることができるので、この名称がついたのでしょう。この商店街を歩く香川京子(戦犯死刑囚の夫の帰国を待つ)の姿が見られるのが、『モンテンルパの夜は更けて』(52)という新東宝映画です。監督は、珍しく硬派の作品に取り組んだ青柳信雄。祖師ヶ谷大蔵駅前にいたはずの香川が、いつの間にか成城南口商店街へ移動してしまうあたりは、実に青柳監督らしいところです。
その青柳監督。『サザエさん』の二作目(58)では、のっけから成城消防署の火の見櫓の上から成城の街をパノラマとしてフィルムに収めている(増谷麟邸や属邸洋館も写る)ばかりか、撮影所傍の新津酒店(美乗屋)前で、江利チエミのサザエさんがご用聞きの由利徹と会話するシーンも撮っています。同店の様子は、ひばり・チエミ・いづみの‶三人娘〟主演作『三人よれば』(64)ではカラー映像で見ることができます。
東宝の名物監督・古澤憲吾が坂本九主演で作った『アワモリ君乾杯!』(61)では、共演のジェリー藤尾が南口駅前で、住友銀行(映画では安井銀行)を舞台にした映画の撮影に出くわすシーンがあります。レストラン「すみれ」などの懐かしい店が目に飛び込みますが、驚くべきは当銀行内で、ギャングがお金を強奪するシーンが撮られていること。何故にそのようなシーンのロケに施設を供与したのかは分かりませんが、当行は同じ古澤監督の『ニッポン無責任野郎』(62)でも、(外観は東京駅八重洲口の某銀行にもかかわらず)植木等が「一円で通帳を作る」シーンで行内撮影を許可していますので、東宝との強い繋がりがあったのでしょう。
その『ニッポン無責任野郎』で、自由が丘で下車したはずの植木等が、いつの間にか成城南口に姿を現す‶空間移動〟が見られることは以前述べたとおり。超多忙の植木さんでしたから、こうした(出鱈目な?)撮影手順を踏まざるを得なかったに違いありません。
同年公開の『早乙女家の娘たち』(久松静児監督)では、現在のヴェルドミール・ビルのところにあった飛田自転車店が登場。二階に下宿する教員役の小林桂樹を、生徒の姉に扮した香川京子が訪ねていくシーンが当店前にて撮影されています。日活の浦山桐郎監督も『暗室』(83)で江崎書店と成城石井の店内ロケを敢行、成城好きという意外な一面があったことが窺えます。このビルには、大林宣彦監督が亡くなるまで自分の事務所「P・S・C」を設けており、一時期、俳優の長門勇も自宅を持っていました。手前の喫茶店「沙羅」はつい最近まで営業を続け、その奥にあった飲み屋街「○ょんべん横丁」でも多くの映画(主に東宝)関係者の顔が見られたものです。
『日本一の色男』(63)で植木等が入る銭湯は、南口東側にあった成城湯。何故ここが成城湯だと判ったか? これは広告看板の店名によるもので、そこには松森靴店(実際は松浦靴店)とかミラノ理髪店(パリジャン)、代三元(代一元)といったフェイク看板の他、鳥竹精肉店、大江戸寿司など、実在する店の看板も写り込んでいたのです。風呂に浸かっている客には、ゴジラのスーツアクターを務めた中島春雄さん(大蔵団地に居住)の顔も見えます。
当シーンでは、番台の横に「吉展ちゃん事件」の張り紙(尋ね人)が見られる事実からも、否応なしに、この痛ましい誘拐事件(昭和38年3月31日発生。犯人の小原保は、黒澤明の『天国と地獄』に影響を受けて犯行に及んだとされる)が思い起こされます。当銭湯には、祖師谷の堀川弘通宅に同居時の黒澤明も通っていたとのこと。これも、当時の黒澤にとっては予想もできぬ〈未来予想図〉だったに違いありません。
成城南口の風景は、特撮TVドラマ『ウルトラQ』の一篇「あけてくれ!」や『快獣ブースカ』の数話、山口百恵・宇津井健主演による『赤い迷路』(すべてTBS)などでも見られます。再放送の折には、是非ご確認ください。
※『砧』831号(2022年7月発行)より転載(加筆の上、画像を大量追加)