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第13回 成城池で撮られた映画と『今だから!植木等』刊行のことなど

 江利チエミが磯野サザエに扮した‶サザエさん〟シリーズ。東宝で10本ほど作られた本シリーズは、監督が成城住まいの青柳信雄だったためか、磯野家はほとんどの作品で成城にある設定となっています。商店街や成城の街で撮られたシーンは改めてご紹介しますが、第六作目となる『サザエさんの新婚家庭』(59)で、サザエさんはとうとう成城学園内に足を踏み入れます。相手役の医大生(江原達怡/本年5月逝去)と成城池の周りを歩きながら話すシーンの他、義妹のタイ子さん(白川由美)が通う学校を訪ねるシーンが学園内(旧制高等学校時代から使われた木造校舎前)で撮影。この歴史ある校舎は、岡田英次が出演する『唐手三四郎』(51/新東宝)や池部良主演の『あゝ青春に涙あり』(52/東宝)でも確認することができます。

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 以前紹介した『夢のハワイで盆踊り』(64)では、主演の舟木一夫と高橋元太郎(元スリーファンキーズ)が池の前でヒロインの本間千代子と出くわすシーン、前号で取り上げた『思い出の指輪』(ヴィレッジ・シンガーズ主演/68)でも、山本リンダが池の‶中の島〟でヒット曲「帰らなくちゃ」を歌う場面が見られます。舟木、高橋、山本の三人が、その後成城や祖師谷に居を構えるのは、このロケで成城の地を気に入ってのことだったのかもしれません。
 池の前にあったのが、学生・生徒の健康管理を司る「ヘルスセンター」。跡地には文化系クラブの部室棟「文連クラブハウス」が建てられ、ここに部室があった映画研究部は多くの映画監督を輩出します。そのひとり熊澤尚人監督が撮った『虹の女神 Rainbow Song』(06/東宝)は、自らの学生時代を懐古する作品ということもあり、この建物が舞台に選定。上野樹里と市原隼人が参加した撮影には、筆者も協力させていただきました。学園内ロケの許可は久々のこととなりましたが、学園が映画の撮影にキャンパスを提供しなくなったのは、『思い出の指輪』(松竹)の撮影クルーの使い方が粗かったため、と聞いています。今後も成城学園の風景がスクリーンに映し出されることを楽しみにしているのは、筆者だけではないでしょう。

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 ちなみに、「男はつらいよ」の最新作『お帰り寅さん』(19)で、成城大学の教室が出てきたことに気づいた方は、ほとんどいらっしゃらないと思います。映画を見ただけでは絶対にわからないでしょうが、使用されたのは大学7号館にある「007教室」。国連職員となった泉ちゃん(後藤久美子)が参加する国際シンポジウムは、講演会を行うこともできる当教室が会議場に見立てられ、撮影されたものなのです。

 ここで、筆者の近著『今だから!植木等』(アルファベータブックス・2021年10月刊行予定)のご案内です。成城の街で様々な映画ロケを行った植木等ですが、砧に自宅を構え、二人のお嬢さんを成城学園に通わせたことでも知られます。幼少時より植木等をアイドルと崇めていた筆者は、青年期にクレージーキャッツにオマージュを捧げた自主映画を作るに当たり、図々しくも当のご本人に出演を要請。一念が通じたか、植木さんは素人が作る8ミリ映画にもかかわらず、警視総監役で出演してくださいました。小中千昭が監督、斎藤誠が音楽監督を務めるこの映画には、他にも谷啓、世良譲、渡辺香津美、山岸潤史、向井滋春、爆風スランプ、タンゴ・ヨーロッパ、桑田佳祐など、著名ミュージシャンがこぞってノーギャラ出演。これも皆が‶植木等愛〟に溢れていた証し、でありましょう。

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 植木等が活躍した熱い時代を振り返るとともに、今この時だからこそ植木作品を見よう、との意図を込めた本著には、先年逝去された小松政夫さんのロング・インタビュー、植木等最後の付き人・藤元康史さんによる回顧録のほか、スタッフによるマル秘エピソードやご家族提供による秘蔵写真もふんだんに掲載。植木等の苦悩もありありと浮かび上がる内容となっていますので、刊行の暁には是非お読みいただきたいと思います。
 次号では、植木等が成城の街で歌い踊る映画を!

※『砧』820号(2021年8月発行)より転載

【筆者紹介】
高田雅彦(たかだ まさひこ) 日本映画研究家。学校法人成城学園の元職員で、成城の街と日本映画に関する著作を多数執筆。『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『山の手「成城」の社会史』(共著/青弓社)、『「七人の侍」ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)の他、近著に『今だから!植木等』(同)がある。

【2021年12月17日追記】
『今だから!植木等』が2022年1月18日に刊行されます。
詳しくは
こちら