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【小説】大貧乏の教え(第五章 アウトプットとインプットの関係)

 僕が考える上手いやり方と言うと・・・
 やはり効率を良くする事じゃないだろうか? 効率とは、アウトプット/インプットで表されるはずだ。僕が会社で仕事しながら考えているのはどうしてもアウトプットを大きくする事の方に集中してしまう。会社だと原材料費などは自分で変えられる範囲からは少し遠いからだ。

 もしこれから会社を辞めて自分で何かしようと考えた時、今の考え方じゃ無理かもしれない。今までのように良い物ができれば良いと言うのはビジネスじゃなくて単に技術の考えに過ぎない。いや、技術の、と言うより、技術屋としての自己満足なのかもしれないな。うん、今日は良い事に気付けた。

 いつものように土手を歩いていつもの場所に向かっていると後ろの方からいつもの自転車の音が聞こえてきた。

 雄二郎氏が言う。
 「何か良い事でもありましたか? 今日の足取りはいつもより軽いようですよ。」

 僕は感情を顔に出さないタイプ。出さないと言うより感情表現が不得意だから技術を志向したようなもので、それを歩いている後ろ姿に表れていると言われると驚くしかない。僕は身体を使って何か表現しているとは、何か気恥ずかしいような感じでムズムズしてしまう。

 「あっ、前回ビジネスと富の集中の話をしましたから打率を上げる方法があるんだろうと思って考えていたところです。」

 「それで、名案は見つかりましたか?」

 僕は自分の気付いた事を説明した。良い仕組みはインプットがアウトプットに比べて相当に低いのだろうと。もし屋台のような商売をした時に、普通は美味しいものをお客さんに提供すれば売れると思うのだけれど、ビジネスとしては普通程度の物を普通の値段で出して原価の方を安くするところに力点を置く考え方もあると。同じような屋台が2つあって同じ程度売れるとしてもお金の集まり方は全然違う。

 雄二郎氏が言う。
「良い事に気付きましたね。会社で働いている人で優秀な人ほどそれに気付けないものです。よくある事です。

 私の同僚、もちろん30年以上前の事ですが、同僚もそうでした。彼は会社を辞めてラーメン屋を開業しましたが1年も経たずにお店を閉めなくてはなりませんでした。彼はプロにも負けないほどの料理の腕を持っていましたから絶対成功すると思われていたのですが、残念ながら誠さんの言うアウトプットのみに集中していましたね。美味ければ良いと。」

 雄二郎氏は続けた。
 「インプットを小さくして豊かになっている例はいくつかあります。もう何年も前の新聞にこんな事例が出ていました。ある山村では若い人が出て行ってしまって畑や田んぼができなくなりました。そこで、そこに住む老人達は山にある落ち葉を集めて都市部の料亭などに送るビジネスを始めたのだそうです。
 これなどはインプットが低く抑えられている良い事例ですね。地面に落ちていて何の価値も無い物から価値を産み出しています。

 誰でも知っているもっと大きなビジネスもありますね。石油や天然ガスです。あれも枯れ葉ビジネスと同じで地面に埋まっている物を掘る権利を売っているだけです。それだけで中東の国々は大変に豊かです。そして権利者である王族の人達に富は集中しています。」

 雄二郎氏、さらに続けた。
 「ところでですが、もし誠さんが独立してビジネスを立ち上げるのでしたらもう少し会計について勉強された方が良いと思いますよ。誠さんが今想像できる事はインプットとアウトプットまでのようですけれど、回転率や固定費の事、そして資金を借りると言う事も考えなくてはならないと思うからです。」

 「今、サラッと重要な事を言いませんでしたか?」

 「ははは、そうですね。これはもちろん私が回収している本から得た知識でしかありませんが、総合的に考えればビジネスには必要な事のように思います。

 もちろん・・・、私はそんな事はしたくはありませんけれど。だからこうしてホームレスをしているわけですし。」

 僕にはまだ学ばなければならない事が多いようだ。


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