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「感じるための場」としての音楽

 作曲家のマックス・リヒターは、創造された音楽作品を「考えるための場」として捉えるアイデアに興味があるそうだ。そして、2003年のイラク戦争に対する一つの返答として、その出来事を考えるための場の創造のためにリヒターは美しい旋律の"On The Nature of Daylight"を書き上げたと言う。

 この「考えるための場」というリヒターの表現を聞いて、自分は長い間たくさんの音楽作品を「考えるための場」として、そして、何よりも「感じるための場」として使わせてもらって助けられてきたのだなと感じ入るのと同時に、様々な音楽家への感謝の気持ちが湧いた。今は昔ほどの頻度ではないけれど、以前なぜいつも気に入った曲が見つかると何度もリピートして聴いていたのかの理由の一つは、ただ音を楽しむことを超えて、自分の気持ちを映し出し、それをゆっくりと消化することを助けてくれる場を求めていたのだなと思い至った。

 激動の時代を迎え、他の様々なことと同様に、音楽を始めとする芸術の価値が再度問われている。真の芸術の一つの価値とは、「考えるための場、そして、感じるための場」を提供してくれることにあるのだと思う。支援や循環が途絶え、芸術が失われていくこととはそのかけがえのない場が失われていくことに他ならない。それはすでに消化が間に合っていない感情で溢れてしまっている社会に、さらに未消化の感情が積み上がることにつながるのではないだろうか。そうであるとすれば、豊かな社会の維持・創造のためにも、その感情を動かす場を与えてくれる芸術、そして、その場を創造する芸術家たちにも支援と光が届き、「感じるための場」がこれからも力を発揮し続け、人々がその抱えている感情の重荷を少しでも手放すことが出来ることを願わずにはいられない。真の表現者となることを志向する全ての芸術家たちにエールを。


*ちなみに、”On The Nature of Daylight”がメインテーマとして使用されている映画「メッセージ (原題:Arrival)」も分断のエネルギーが蔓延る今の世に、対立ではない違う道があることを示してくれる素敵な作品なのでお勧めです。


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