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仲間に差し出せなかった手。9/13 Vol.49
第9話
「あぶない!!!!!!」一瞬のことだった。
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34歳になった自分に大きな転機がやってきた。
毎年、アホみたいに富士山をゼロ合目から登ることをしていた。しかも1週間に2回笑。
青木ヶ原の樹海で遭難からの回避。
頂上で風速50mの暴風雨の中のほふく前進。
いろいろあった。
今年も富士山に登ると決めて
本屋の登山コーナーに行くと
「槍ヶ岳(やりがたけ)」という文字に
カラダが吸い込まれた。
写真をみただけで素人が登る山ではないと
すぐ察知した。
毎年一緒に富士山に登っている「ババシ」に
相談すると1つ返事で「いきましょう!」と
言ってくれた。
ババシは同い年で房の駅の駅長(現総務課長)。
お互いに怖いもの知らずで正直、バカだ笑。
槍ヶ岳は上高地というハイキングなど有名な爽やかな観光地の先にある日本の中でも危険な山ベスト3。
選んだルートはヒガシカマオネ、ミナマタ乗越、北鎌尾根経由で頂上をめざす。素人には危険すぎた。
30mの絶壁のハシゴの前に足がすくむ。
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何度も続く鎖とハシゴとロッククライミング状態。
そのときだ。
「あぶない!!!!!」
足をすべらしたババシのカラダに対して
自分はカラダが硬直して手も足も出せなかった。
事故にはならなかったけど
震えてる手をすごく悔やんだ。
隠すことができない現実だ。
「仕事に命をかけてます」
「俺が守るから大丈夫」
「最後は俺がいるから安心しろ」
あーーーーーーーーーー
カッコつけだったんだなーって
口先だけの自分のダサさを
目の前に突きつけられた。
槍ヶ岳を制覇したものの
鍛えようのない現実に悶々とした。
それから言葉で何かを言うことをやめてしまった。
だってその手は出ないって知ってしまったから。
リーダーとして停滞の2年になった。
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その3年後に答え合わせがやってきた。
危険な登山はこれで最後と決めた。
奥穂高経由、ジャンダルム-西穂高ルート。
日本最難関。
命と向き合う時間しかない。
ワンミスで全てがおわる。
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「これを登るのは無理だ」とおもった。
本丸に近づくほどに緊張が走る。
今までの登山経験が全て無になるほど
足がすくむ。
頭の中が命のことでいっぱいになる。
逃げることも頭をよぎる。
「本当の自分に出逢える瞬間」だ。
人は命を前にしてウソをつくことも
カッコつけることもできないと知った。
でも3年の時間は自分にとって十分だった。
チャレンジャー精神で満ち溢れていて
わくわくしかない笑顔に変わっていた。
危険に対してマヒ?慣れ?
そんなのあるわけないじゃん。
そんな甘くない。
そんなこと言えるのは向き合ったことが
ないから言える。
どんなにきつい場面でも笑いに変えることが
できるようになっていた。
全ての言葉に魂が込もる。
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「あぶない!!!!!!」一瞬のことだった。
ババシがすべった。
自分の手とカラダは躊躇なく
全身で受け止めにいった。
事故にはならなかったけど
自分にしかわからない感覚。
人生にすごく大きな手応えを感じた瞬間だった。
自分自身の成長もそうだけど
その行動を起こさせたババシの存在も
本当に大きかった。
この経験をとおして
スタッフとどう向き合っていくのか
経営者としてどうあるべきか
明確にみえた。
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ババシとは同い年だということもあって
話も合うし、体力の気も合う。
愚痴もいっぱい聞いてもらう日々だし
自分の飛びすぎたアイデアを
真剣に一緒に実現しようとしてくれる姿には
感謝・・・・いや言わない笑。
1つ言えるとするなら
仕事を超えた親友だ。
そんなババシはいよいよ
諏訪商店グループの総務部長になる。
『せいじ殿の13人 2003-2015』
Vol.41-Vol.50(全10話)
命を落とさなかったからこんな綺麗ごとが言える。
あきれる人も多いとおもう。
でも長年、仕事をしていくと背負っていかなければいけないものもいっぱいできる。それに耐えうる必要なものが全部そこにあった。命を懸けた価値はあったと信じている。
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