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母 がくれた。6/13 Vol.46

父がつくった卸問屋である
現やます営業部の存在を毛嫌いしていた自分は
常務の「この会社は1つにならなきゃいけない」
という一言がきっかけで
少しずつ営業部に目を向けることになっていく。


営業部への無関心から一変、
物足らないことに対して
強く迫ることが増えていった。
遅刻に対しても理由なんか聞かない。
ヘラヘラしている営業マンに
マットを床に叩きつけてイラ立ちを表現した。
陰口みたいなことが聞こえたら
「今なんて言った?もう1回言って?」と凄んだ。
雪の日に遅刻するスタッフには
「雪なんて100万年前から降ってるから
予想なんてできるだろ?」と圧をかけた。


当月の計画達成をすると
売上を先送りにする営業マン、
その逆も然りで
当月の売上計画が届かないとみると
売上を翌月に持ち越す、
せこい営業マンが大多数だった。
そんなことをみてみぬふりをする
当時の営業部長のヒトゴト感も許せなかった。


言い争いではなく
一方的なイラダチだった。


そしてイラダチから
小売部門の房の駅の事業部長と
卸部門の営業部の営業部長を
兼務することを望んだ。


ところがある衝突で自分は
右肩が鎖骨からうしろの骨まで
刀で切られたように真っ二つ。
全身麻酔の手術になった。
夜寝るのに服が脱げないから
ハサミで服を切るぐらい痛いし
朝起きた時はいったん痛みで気絶してから
また起きた。


こんな状態で房の駅と営業部を
両方みることは不可能だ。


神さまに
ちょっと待て!と言われた気分だった。


手術前に立ち会ったのは
なぜか母親だった。
母親は平然な顔をしながら
「ふん😤日頃の行いが悪いからだ」と
言いたいことを言いまくって
なぜかプンプンしていた。


手術室に向かうとき母へ
「じゃあ行ってくるわ」と言うと
いつも憎まれ口を言い放つ母が
何も言わずに目をみてうなずいた。
このときの母の顔は忘れない。


6時間の手術後、
呼吸器をつけて出てきた自分に
第一声
母は「やることがあるから帰る!」って
言ってとっとと帰ろうとした。


母の背中に向かって
力がないけど声をふりしぼって
「ごめん、カラダをもっと大切にする」と
伝えた。


母は振り向くことなく
軽くうなずいて病室をでていった。

ウオーズマンのような声だったから
自分の声だと気づいていないかもしれないけど。

この母あっての
あの父だ。


自分は遅ればせながら
2人が築いてきた諏訪商店という会社に
はじめて興味が湧いた。


父に会社の成り立ちの話をきき
先輩たちの話に耳を傾けるようになっていった。
気づくと1000件ちかい
卸部門の全卸先様の訪問をはじめていた。


イラダチからはじまった
小売部門の房の駅の事業部長と
卸部門の営業部の営業部長の
兼務を望んだことはどこかへ消えた。



「この会社をもっと良くしたい」
と純粋に想う気持ちしかなかった。


やっと兄の寿一社長の想いに
自分の想いが追いついた。


そして全部門を指揮する専務という立場の
辞令をもらった。
きっとイラダチからこの責務を担っていたら
自分はこの会社をつぶしていたかもしれない。
何もかもが偶然と奇跡の連続になっていく。



『せいじ殿の13人 2003-2015』
Vol.41-Vol.50(全10話)



手術後カラダを大切にすると言った
1週間後、血を出しながら
富士山をゼロ号目から登ったことは
内緒です🤫

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