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或る微生物学者の呟き

 元噺家はなしかで現役獣医師である父の正体は、微生物学者です。

 正体ってなんやねんと言われましても、大学院で微生物学を専攻して博士課程を修了し、獣医学領域の特に感染症診療を得意とするならば、概ね微生物学者と称して差し支えないでしょう。

 私がまだ幼かった頃、仕事のことを殆ど語らない父の呟いた言葉が不意に甦ります。

人類が滅びるとしたら、最後は感染症だと思う。

怖ぇよ


 それは妙に印象に残っていて、2019年末から始まったパンデミックの渦中に私の不安を煽りました。4年以上が経過した今、社会機能は概ね正常化したようにみえて、しかし新興感染症それ自体が消えたわけではありません。不自然に長い遺伝情報を有する奇妙なウイルスは、変異を重ねる中で野生種に近付いているように見えますが、依然として不気味な凝固異常と過剰な炎症に起因する不思議な臨床経過と後遺症の存在が、静かに警鐘を鳴らします。

 そのワクチンに人々の関心が移ることでウイルスそのものに対する世間の注目度が下がったことは、ひとつの事実です。学者も想定出来なかった副作用が件のワクチン接種後に多数確認されたことは医学史上の大きな問題として記録されるかもしれませんが、副作用で起きる全ての病態が、感染によっても起こり得るということを静かに記しておこうと思います。アレは断じて普通の感染症ではありません。研究所は何故か消失しましたから、起源を探ることは叶いませんが、いえ、憶測で語るのは止めておきましょう。

 重症化率と致死率は相当に低くなりましたが、QOLを著しく低下させるような罹患後症状(後遺症)は依然存在します。国や流行株、追跡期間による差異はありますが、感染者の5%〜30%程度に後遺症が報告されています。他に類を見ない異常なウイルスであることは確からしいと考えます。これで当初は不気味な重症化と中途半端に高い致死率でしたから、あの状況で開発されたワクチンを幾度か打つことは、ひとつの生存戦略として成立し得る博打だったと振り返ります。そう、博打です。


 陰謀論に走る意図はありません。

 しかしながら、市民に公開されている情報が全て真実であり、かつ真実の全てだとは思いません。

 各々の選択には自由が残されていますから、様々な解釈や価値観が在って然るべきと思います。自分と異なる文化圏を否定しない寛容さは、きっと争いを減らす一助になるでしょう。

 自分の正義を誰かに押し付けたとき、争いの種が芽吹きます。私は戦いたいわけではありませんから、強く主張などいたしませんが、黙っているのも違う気がして、そっと呟きを残します。


 静かな夜半に、思うことつらつらと。


 散文に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。願わくは、貴方の過ごした今日が穏やかに暮れて、貴方の生きる明日が希望の灯る時間でありますように。



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