『レモンのかっか』と娘の話

　…毎夜毎晩、幼女の悲鳴にも似た叫び声が聞こえるとか、聞こえないとか。

「レモンのかっか！レモンのかっか！」

　レモンのかっか？？

「みーたーいーよー！レモンのかっか！」

　2歳の娘が熱心に主張しています。娘が一体何を見たいのか、私には皆目検討がつきません。レモン…檸檬…。檸檬がどうしたというのでしょう。かっか、という言葉も意味が通じません。おなかがすいたの？とか、お菓子のこと？などと訊ねても、娘は笑いながら叫びます。

「ちーがーうーよー！レモンのかっか！！」

　レモン？

「うん。レモン。」

　かっか？

「うん。レモンのかっか。」

　何も分かりません。食べ物では無いようです。食べたい、ではなくて見たいと言ってますから。アニメか何かでしょうか。レモンの？なんでしょう。私が思考の迷宮を彷徨っていたところ、妻が「もしかして」と推理力を発揮します。

「デーモン閣下じゃない？」

「そう！レモンのかっか！！」

　娘は満面の笑みで踊ります。目をカッと見開いて舌をベーと出して笑っていたのはそれか。閣下の笑い方を真似ていたのか。

　恐ろしい子！！

　娘のリクエストはデーモン小暮閣下。聖飢魔IIのライブ映像を見せろと熱心に訴えていたのです。言われてみれば数日前、不意に誰かを蝋人形にしてやりたい気持ちになったもので、風呂で歌いました。息子も娘もノリノリで、なんだよそれーとウケていましたから、一緒にYoutubeで閣下の映像を視聴したことを、私はすっかり忘れていましたが、娘の脳裏には爪痕が残っていたようです。

　その夜、渡邊家には地獄より来たりし悪魔のヘヴィメタルが鳴り響き、何時迄も何時迄も終わることのない黒ミサ（アーカイブ配信）が続くのでした。

　散文にお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、身の毛もよだつ悪魔の芸術を。

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