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リサイタルシリーズ vol.1~4のプログラムについてを、夜な夜な。WoO5

noteでは大変ご無沙汰しております。

ドイツでは依然として昨年の11月以降、演奏会がほとんどできておらず、在学先のクロンベルク・アカデミーで研鑽を積みながらも、日本での演奏会のための準備を続ける日々を送っておりました。

昨年12月にvol.0”はじまり”を開催した全5+1回のリサイタルシリーズですが、この度、東京・紀尾井ホールにて2021年6月10日(木)19時より、vol.1 “自由だが孤独に”を開催させていただきます。

今回はそのうちのvol.1~vol.4で演奏するプログラムのコンセプト、展望について書いてみようと思います。

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3年ほどをかけて全5回のシリーズを企画するにあたって、留学先でもあるドイツの19世紀ロマン派の作品たちを演奏したいという思いが強くありました。

中でも、一生をかけて取り組んでいきたい作曲家である、愛してやまないロベルト・シューマンとヨハネス・ブラームスの作品を重点的に取り上げたいと思い、
ついにはシューマンとブラームスのヴァイオリンとピアノのための作品を全て弾いてしまおうと思った次第です。

シューマンもブラームスもそれぞれ3曲ずつ、ヴァイオリンとピアノのためのソナタを書き残しており、それらは演奏機会も多いのですが、このシリーズではそれだけでなく、彼らが元は他の楽器のために作曲し、のちに作曲者本人によってヴァイオリンとピアノのために編曲した作品も取り上げます。


まずはそれらを作曲年月順にまとめてみました。
(vol.いくつで演奏するかも併記しました)

1849年2月- R.シューマン: アダージョとアレグロ Op.70 (原曲:ホルンとピアノ) (vol.1)
1849年2月- R.シューマン: 幻想小曲集 Op.73 (原曲: クラリネットとピアノ) (vol.2)
1849年12月- R.シューマン: 3つのロマンス Op.94 (原曲:オーボエとピアノ) (vol.1)

1851年3月- R.シューマン: おとぎの絵本 (原曲: ヴィオラとピアノ) (vol.4)
1851年9月- R.シューマン: ヴァイオリンソナタ第1番 イ短調 Op.105 (vol.1)
1851年11月- R.シューマン: ヴァイオリンソナタ第2番 ニ短調 Op.121 (vol.3)

1853年10月- R.シューマン, ブラームス, ディートリヒ: F.A.E. ソナタ (vol.1)
1853年10~11月- R.シューマン: ヴァイオリンソナタ第3番 イ短調 (vol.4)

1878~1879年- ブラームス: ヴァイオリンソナタ第1番 ト長調 Op.78 “雨の歌” (vol.0)

1886年- ブラームス: ヴァイオリンソナタ第2番 イ長調 Op.100 (vol.3)
1886~1888年- ブラームス: ヴァイオリンソナタ第3番 ニ短調 Op.108 (vol.3)

1894年- ブラームス: ソナタ ヘ短調 Op.120-1 (原曲: クラリネットとピアノ、のちにヴィオラとピアノ) (vol.4)
1894年- ブラームス: ソナタ 変ホ長調 Op.120-2 (原曲: クラリネットとピアノ、のちにヴィオラとピアノ) (vol.4)

以上がシューマンとブラームスがヴァイオリンとピアノのために書いた、あるいはヴァイオリンとピアノのための楽譜を遺した作品たちです。

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ここで、編曲作品を演奏することについて少しだけ。

オリジナルや原典を大切に考え、作品の本質に少しでも近づこうとしている一音楽家としては、編曲された作品を演奏することにはやや抵抗があることは否めません。
やはり作曲者が作曲時に思い描いていた音のキャラクター、書いたフレーズやアーティキュレーション、場合によってはテンポも、全て原曲の楽器編成をイメージしてのものであることは確実です。

もちろん、世の中に数多の素晴らしい編曲作品があることは事実で、中には原曲の魅力を十二分に伝え、作品の芸術的価値をさらに高めているレベルに達しているものも多いと感じています。

それを踏まえた上で、今回の選曲においてこだわったのは、作曲者本人がヴァイオリン版の楽譜を遺しているかどうかという点。
さまざまな事情があるとはいえ(例えば、仲の良い演奏家から編曲するように頼まれた、より多く楽譜を売るためになど)、作曲者本人の中に、ヴァイオリンでも良い演奏ができるのでは?、という思いが少しでもあったからこそ実現した編曲だと言えると思います。

例えば来月のvol.1で演奏するシューマンの”アダージョとアレグロ”Op.70は、原曲はホルンとピアノの作品なのですが、ホルンのよく鳴る音域はヴァイオリンの音域の下の方の音域と更にその下の辺りであるため、ヴァイオリン版では多くの場所において1オクターブ上での演奏を余儀なくされています。
また、シューマンにとって大事な5度下行の音型がやむをえず反転させて4度上行になっている場面もあります。(これについては、もしかすると演奏上変更を加えるかもしれません)
音域のことを考えると、ホルン以外ではチェロやヴィオラで演奏する方が演奏機会が多いことも確かに納得がいきます。
しかしまあ、シューマン自身がヴァイオリン版を残し、その楽譜が残っているのですから…!

一方で、同じくvol.1で演奏するシューマンの3つのロマンスOp.94は、元はオーボエとピアノの作品。
ヴァイオリンとオーボエは似た音域を持っているため、シューマンがヴァイオリン用に変更・追加したわずか数カ所を除いて、同じ音域の同じ音で演奏することになります。
ただ、シューマンが書いたスラーは確実にオーボエを意識した、弦楽器にとっては非常に長いもの。
これをどのように息を長く聴かせるかが、ヴァイオリンで演奏する時の一番大きな課題かもしれません。


このようなある意味でのハンデを負いながらも演奏したい理由は、作品が素晴らしいからであり、また、作品の本来の魅力と新たな魅力を皆さまと共有したいからに他なりません。
もちろん、作曲家と作品へのリスペクトとマナーを弁え、原曲の楽器の音のイメージ、その楽器から導き出されるフレーズ間のイメージ、テンポの取り方などを充分に考慮した上で、作品と真摯に向き合い、準備していく所存です。

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作品はそれ単体でも非常に美しく雄弁で、完成された芸術作品ですが、時の流れに沿って、あるいは作曲家の境遇に沿って作品を辿ることによって、同じ時を感じ、その境遇に共感しながら、奏者とお客様で作品を深い意味で共有できるのではないかと考えています。

これらを
vol.1 ”自由だが孤独に” (2021年6月10日(木)開催)
vol.2 ”夜明け、幻想”
vol.3 “円熟の時”
vol.4 “最後の言葉”

のテーマに沿って有機的に組み合わせることによって、それぞれの作品の魅力がより引き立つはずです。


次回のnoteでは、vol.1の演奏曲目について、詳しく掘り下げてみようと思います。

東京・紀尾井ホールにて6月10日(木) 19時開演 シリーズVol.1 “自由だが孤独に”公演。
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ホームページでも演奏会の詳細や最新情報などが逐一更新されておりますので、お手隙の際にご覧くださいませ。


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- 岡本誠司

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