コラム

1ヶ月

今は深夜の3時過ぎです。

住んでいる4階のベランダから見下ろすと小さな川があり、左に目をやると橋がかかっている。
いつからか定かではないが、橋の片側半分を封鎖して工事が始まった。
どうやら橋の下に水道管が通っていて、その老朽化にともなう新しい水道管に交換するための工事のようだ。
半分封鎖されて道幅が狭くなったその橋はそれなりに交通量もあり、24時間体制で数人の警備員がつくようになった。


週の半分ほど自宅で作業するのだが、日中のその工事の騒音が凄まじく、窓を開けてはいられない。
今の時期、心地の良い風が吹き抜けて気持ちがいいのだが、この音のために部屋を密封せざるをえない。
工事は夕方くらいに終わる。そうしてやっと窓を開け放ってこもった部屋の空気を入れ替えるのだが、どんよりした風が流れこんで、やがて日が暮れてカーテンを閉めてしまう。
求めている風はあまり入ってこない。

ようやく明日は休みで、ちょっとゆっくりして、できなかったことをやろうと思う。
仕事のOKがでて、先方にデータを送り、ありふれた終わりの挨拶をキーボードで打ち込んでスカイプを終了させた。

冷蔵庫からビールを取り出し部屋に戻ってきて、再びモニターの前に座った。
一口飲んで一息ついたら外から男の怒鳴り声が聞こえてきた。

「一万二千円もらえなかったらどうしてくれるんだっ」

怒声が響く。声からして若くはない。深夜3時を過ぎている。男はこんな時間に警備員に何かしら異議申し立てをしているようだ。

「大家からここを掃除することで俺は月に一万二千円もらってんのっ。わかる?あんたらが工事し始めてから、ろくに掃除できてないよ。どうすんのよっ。ええっ?」

その橋は大家の持ち物でないのは明らかだが、とにかく橋を掃除すれば金を受け取れる謎のシステム。
そのシステムに組み込まれている謎の男。ビールを飲みながら聞き入る。

「昼間っから深夜までずーーっといてよぉ。掃除できねえじゃねえかよ。してねえよ掃除っ。駄目だよこのままじゃ。掃除してねえってバレたら一万二千円もらえねえよぉ」

男の声は悲痛さを伴って闇に溶けていく。ボソボソと警備員の声が追いかけていく。
カレンダーを見ると27日。もうすぐ5月が終わる。大家のチェックは月末なのだろう。

「眠れねえ。眠れねえんだよっ。このままじゃ金貰えねえからっ。眠れねえ。どうしてくれるんだよっ」

男は切羽詰まっている。だから眠れない。眠れないから正常な判断がつかない。だから深夜に吠えている。

「お前らじゃ話になんねえっ。話になんねっ、ほんとっ。1ヶ月掃除できてねぇよぉ。どうすんだ。偉い人だせーーーーーっ」

男が叫んだ。酔いが回った脳でそれを聞く。それきり音はしなくなり、いつもの夜になった。

1ヶ月、男は橋の掃除ができず眠れなかった。

1ヶ月、私がNOTEに投稿を初めて昨日でちょうど一ヶ月だった。

日記でさえこんなに続けられたことはなかったから嬉しい。
投稿するたびに読んでくれる人もいてくれて嬉しい。
どうか負担にはならないようにと願う。

何か記念日的に投稿するには時間がなく、また気恥ずかしく、妙な男のレポートになりました。

また明日から、よかったらよろしくおねがいします。

それではまた。


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