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さあ! “ライフシフトの旅”に出よう!

突然、「さあ! “ライフシフトの旅”に出よう!」なんて呼びかけられても、大抵の人は戸惑ってしまいますよね?

そもそも、「ライフシフトって何?」という疑問が最初に頭に浮かんでくるはずです。
そして、それも実にとってもごもっともな話です。
何故なら、「ライフシフト」って言葉は、未だにその意味がちゃんと定義されていないからです。

でも私は、結構、真面目にこの呼びかけをしているのです。

リンダ・グラットンとアンドリュー・スコットという二人のロンドン・ビジネススクールの教授が書いた『ライフシフト 〜100年時代の人生戦略〜』(東洋経済新報社)という本が日本で出版されたのは2016年の秋でした。
もうずいぶん前になりますね。

この本の出版がきっかけとなって、日本では「人生100年時代」という言葉が一気に広がり、あっという間に“常識”として定着してしまいました。

実は、「ライフシフト」という言葉の定義が未だにはっきりしない理由は、この日本語版のタイトル自体にあります。

『ライフシフト』の原書のタイトルは、『The 100-Years Life』。
まさに「100年人生」というタイトルですね。
この本を日本で出版するにあたり、日本の出版社である東洋経済新報社が付けたタイトルが『ライフシフト』。
つまり、原書には「ライフシフト」という言葉は一切出てこないし、リンダ・グラットンたちもこの言葉を使ったことはなかったんですね。
だから、元々、定義がないのです。

東洋経済新報社の担当者がこの言葉を思いついた理由は、簡単に推測できます。
それは、著者の一人であるリンダ・グラットンが2011年に書いた書籍『ワークシフト』にあやかってということです(日本での出版は2012年。プレジデント社)。

『ワークシフト』は、原書のタイトルが『The Shift』。私たちの働き方がこれからどのように“シフト”していくかを予測した本で、まさに名著でした。ビジネス書としては、とてもよく売れた本です。

今にして思えば、発行部数は『ライフシフト』がはるかに突き抜けてしまっていますが、『ライフシフト』の担当者たちは、何とか『ワークシフト』のように売れることを願って、“ワークシフト”よりも一回り大きなフレームとして“ライフシフト”という言葉を捻り出したのだと思います。

そして、結果的にこのアイデアは大成功でした。
『ライフシフト』は、「人生100年時代」というキャッチーな言葉と共に、世界中の先進国で売れたようですが、その中でも圧倒的に日本で売れたそうです。
だからこそ、著者の一人であるリンダ・グラットンは、度々、日本を訪れて、講演会やテレビ出演を繰り返しただけでなく、安倍政権が立ち上げた「人生100年時代構想会議」のメンバーにもなるなど、徹底的な「日本シフト」を展開したわけです。

『ライフシフト』が日本で、世界で一番売れた理由や背景はいろいろと考えられます。

まず、何といっても日本では「少子高齢化」という問題が、長年、国の最大の課題として議論されてきたという背景があります。
日本が“世界一の長寿社会”であることは、ずいぶん前から日本人の“常識”となっていますし、この問題に対する危機感は、他の国と比べてもずば抜けて高いです。
(「少子高齢化」問題の国際比較を研究しているあるグループによると、同じような道を歩んでいる中国や韓国での、高齢化に対する危機感は驚くほど低いそうです)

日本では、「年金の破綻」「医療費の高騰」「老老介護」など、実にさまざまな切り口から少子高齢化社会の課題と問題点が語られてきました。
こうした社会情勢が『ライフシフト』のヒットにつながったことも、一つの要因ではあるでしょう。

また、先の安倍政権が立ち上げた「人生100年時代構想会議」に象徴されるように、時の政権が「人生100年時代」というキャッチーな言葉を利用して、年金の支給年齢の繰上げ問題やそれと関連する高齢者の雇用促進策、「働き方改革」を推進しようとする企てが、結果的に『ライフシフト』への注目を高めた面も大きかったように思います。

しかし、日本において『ライフシフト』が売れた最大の要因は、何といってもそのタイトルにあったと思うのです。

バブル崩壊からの“失われた30年”を改めて検証するまでもなく、かつて“Japan as No,1”と呼ばれた過去の栄光からなかなか抜け出せず、変わりそうで変われない日本という国や私たち自身の思考や行動特性に、多くの日本人は心底、辟易としていたんだと思います。

「もういい加減に私たちは、生き方(ライフ)を変えていく(シフト)必要があるんじゃないか?」という想いを持つ日本人に、このタイトルは、何か特別なインパクトを与えたのだと思うのです。

そして、そのようなインパクトをもろに受けた一人が私自身でもあります。
「人生100年時代」という言葉を聞いた時に、最初に感じたのは、何ともいえない“どんより”した感覚でした。

しかし、また同時に心の片隅には、小さな“ワクワク”する想いが芽生えていたこともはっきりと覚えています。その“ワクワク感”を感じさせてくれたのが「ライフシフト」という言葉だったように思います。

元来、おっちょこちょいで根拠のない自信と楽観主義を信条としてきたからかもしれませんが、この時から私の「人生100年時代」の「ライフシフトの旅」が始まったのでした。





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