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現地現物について

先日Xでこんな投稿をした。

現地現物が大事と言われるその理由と、現地現物は完璧ではないという旨を投稿したものだ。

製造業で働いていると現地現物という言葉はよく聞く。
では改めて私が他人に説明できるほど現地現物について言語化できているか?とふと思ったので私なりに現地現物についてnoteで書いてみようと思う。

現地現物というテーマ、なんとなく過激派もいそうなので最初に私のスタンスを発表しておく。
この記事で言いたいことは以下である。
「現地現物は完璧で究極の方法!」→×
「現地現物なぞクソ!」→×
「現地現物はリサーチ方法として優れた示唆出しを行える一方、デメリットもある。正しい使い方をすることでより良い仕事をしよう」→○

現地現物とは何か

改めて現地現物とは何か。
意味としては「現地に足を運び、現物を直接確認する」が概ねの理解だと思う。
これに関連した言葉として現場・現物・現実で三現主義、さらに原理・原則を加えることで五ゲン主義と言われることは製造業で働く方達の間では有名な話であろう。

人によって考えはあると思うが、私の考えとしては以下である。
「現地で現物に対して五感を働かせ、ものごとの真因を探ること」
ここからは、現地現物について私なりの考えを以下で書いていく。

現地現物のメリット

現地現物のメリットは何と言っても「一次情報が取れること」である。
現地で五感を通じて得た情報というのは「実際にそこにあるもの」である。
それに対して、現地現物でない情報は「誰かが加工した情報」でしかない。
別に「誰かが加工した情報」を悪く言っているわけではなく、構造的にそういうものなのだ。
情報というものを立方体で表現した場合、二次情報というのはどこかに刃を入れて切り取った断面の情報でしかない。

「どのような切り口で断面を収集したか」は情報の提供者に委ねられる。
そのため情報提供者にとって都合の良い情報が恣意的に選ばれるという可能性もあるのだ。

例えば四角形や円を見せられたとする。
それをそのまま見たら「四角形だな」「円があるよね」程度の感想は持つ。
しかし、これは円柱を切り取られて四角形や円として見せられている可能性もあるのだ。(以下イメージ図)

実は断面を真実と思い込ませられているかもしれない話


我々は仕事する際に

①情報を取得し
②情報を整理し
③示唆を出し
④アクションプランを立てて
⑤実行に移す

というプロセスを取ることが多い。
そのため最初のプロセスである①情報を取得するにおいて間違った認識を持つと、②以降の仕事全てがムダになる可能性が高くなる。
そのため①で正しく情報の取得する必要があり、それを手助けする情報の取得方法が現地現物というわけだ。

製造業ではよくQ(品質)・C(コスト)・D(納期)が大事と言われる。
ものづくりに限らず、リサーチにもQ・C・Dは大切である。
良いリサーチをするためには良いリサーチ方法(情報取得方法)が必要であり、Q(品質)を高めやすいリサーチ方法が現地現物であるということだ。

具体的な話をするとよりわかりやすくなると思うので、実際に私が現地現物に即した行動を取ったことで役に立った例を紹介する。

現地現物が活きた例:タクトタイムがオーバーしている真因を掴めた

簡単な経緯は以下である。

・量産系生産技術として勤務中に発生
・工程は組立工程
・問題は設定したタクトタイムに実作業が追いついていないこと
 (細かい数字は覚えていないが、ここでは仮にタクトタイム目標1分に対し50秒とする)
・上司からこの問題を指摘され、何が起きているか原因を調査するミッション

私はすぐさま現地に向かって生産の状況を見ていたのだが、しばらく見ていると違和感を抱いた。
それは何かと言うと、組立する前に部品を結構な頻度で捨てているのである。
捨てる頻度を集計してみると10%から15%を捨てている。
聞いてみると部品の外観品質が悪く、それを組立工程で捨てている状況とのことだ。
組立工程でも外観を確認する必要はあるが、1割も捨てているような品質では外観をじっくりと確認しないといけないし、捨てる手間も増える。
そのためタクトタイムが足りていない真因は組立工程自身にあるわけではなく、前工程である部品であると結論づけた。

このように現地現物は「なぜそうなったのか?」と言った因果関係(定性的情報)をリサーチするためには非常に優れているリサーチ方法と言える。

ちなみにこれを結論づけた際、以下のムーブをしたのは内緒である。


現地現物のデメリット

ここまでは現地現物の良い面を書いたが、この章では逆に悪い面も書く。
現地現物は「リサーチ方法としては有用に働くこともあるが、調査内容によっては向かない時もある」ということだ。
製造業では現地現物という言葉が半ば神格化しているように感じることがあるが、現地現物は結局のところ「リサーチ方法の1つ」でしかない。
上の章で現地現物はQCDのうちQに優れていると書いたが、CとDだって大事である。
そこでこの章では現地現物は金銭的・時間的コストが高くなりがちということを書く。

現地現物はコストがかかる

改めて、現地現物のはリサーチするうえで金銭的・時間的コストがかかりやすいことがデメリットだ。
働く事務所のすぐ隣に工場があって気軽に行けるならいいが、現場に行くために安全装備(ヘルメットや安全靴等)を付けて、KYシートを書いて、広い工場だと歩いて10分かけて歩いて(さらに広いと車で移動しなければいけない工場もある)・・みたいなこともある。
生産技術だと生産設備の出荷前検査のため設備メーカーに出張することはよくあるが、これだって現地現物のために高い出張費と短くない時間をかけて現地現物を行っているわけである。
(出張は割と良い思いができることがあるので私自身は歓迎ではあるのだが)

さらに言うと、大量の定量的なデータを取得するにも向いていない。
データを確認するために現場にずっと張り付いて数を数えるという人は少ないと思う。
データ取得のための仕組みを考えて、より効率的に数量データを取得しようとするはずだ。
この金銭的・時間的コスト高を意識してか、最近はDXのからみで「工場に行かなくても事務所で色々な情報にアクセスできます!」といった売り込みが多い。
これはまさしく「現地現物は情報を得るための方法としてコストがかかるでしょ?だからITの力を使ってコスト安く情報を取れるようにしましょう」と暗に言っているということだ。

そのため「現地現物は定性的なリサーチをに対しては非常に優れている、ただし大量の定量的な情報を取得することは向いていないことがある」が私の結論である。

悪い点も書いたが、上の章でも書いた通り現地現物はリサーチとしての質を高めやすいのは事実である。
ただし現地現物は完全無欠なリサーチ方法ではないということをご理解いただけたらと思う。

現地現物のコツ

ここまでは現地現物が有効に働く場合と有効に働かない場合と解説した。
最後に私が現地現物を行う上で心掛けていることを紹介する。
それは何かと言うと、「現地現物を行うまえに何らかの仮説を持っていく」ことである。

以前Xでも投稿したが、ぼんやり現地現物を行っても意味なく終わることが多い。

そのため現地現物を行う前に私なりに
「○○を確認したいから××を見にいく」
「トラブル起きたとのことだけど、△△が原因だと思うから◇◇からの音を重点的に聞いてみよう」

といった具合で仮説を出しておくと良い。

何も考えずに現場に行ったとしても、具体的に何に気を付けたら良いかわからないのでただ現場で突っ立って時間をムダにしかねない。
時間をムダにするだけならいいが、現場で働く人の邪魔にもなりかねないし、工場は危険な現場も多いのでケガをする可能性も高くなる。
そのため自分はどんな情報を知りたいのか、そのためにどんな行動を取るのかを現地に赴く前に考えておくことが重要である。

ただし気を付けることとして、自身の仮説を過信しないことも重要だ。
どうしても人間「私が考えた案は正しいはずだ」というバイアスに捉われやすい
とは言え仮説を出すデメリットを考えても現地現物を行う前に自分なりの仮説を出しておくことは大事である。
現地現物に限らずだが、ぜひ自分なりの仮説を出しながら仕事を出すことをおススメする
(さらに常に考える癖も付いておススメである)

まとめ

以上まとめると

・現地現物のメリットは「一次情報」を得られること。
・現地現物のデメリットは金銭的・時間的コストがかかりやすいこと
・現地現物は万能ではない。あくまでリサーチの方法の1つであるとフラットに評価すること。
・現地現物のコツは現地に行く前に「自分なりの仮説」を持ってから望むと良い

以上が私自身が考える現地現物に対する哲学であるが、皆様も自身の現地現物に関する哲学をXで教えて頂けると幸いである。

最後に、今回「現地現物はリサーチ方法の一種」という話を書いたので、リサーチに関する本を紹介する。
「リサーチする」という行為を体系立てて解説されていて読みやすい。
商品開発に関わる方や技術動向を調べる方など、日々リサーチする方には勉強になる一冊である。


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