【はじめに全文公開】プロテストってなに? 世界を変えたさまざまな社会運動
社会運動には、いろいろなかたちがある。
通りを行進したり、バスで席に座ったり、テレビを家から持ち出して外を歩いたり、野菜を育てたり、うるさい音楽を奏でたり……。これらはどれも、人々が不公平な世の中に対して立ち上がる際に使った方法だ。
『プロテストってなに? 世界を変えたさまざまな社会運動』(2021年9月発売)の刊行を記念して本文の一部を無料公開します。
「社会運動」を身近に感じることはあまりないのではないでしょうか?本書では、これまで世界各地で繰り広げられたさまざまな抗議活動を、豊富なイラストとやさしい文章とともに、分かりやすく紹介します。
この本が、社会運動について知り、考えるきっかけになればと思い、「はじめに」と、5つの社会運動についての全文を公開予定です。
5つの社会運動については本日から3週にわたり順次公開し、2021年10月31日まで公開予定です。(好評につき11月14日まで延長公開!)
これをきっかけに、興味をもち、書店やAmazonで書籍を手に取っていただけたら幸いです。
本日は著者のメッセージがつまった「はじめに」を公開します。
はじめに
2003年、ロンドン。私たち姉妹は、初めて大規模な抗議活動に参加しました。―それは、イラク戦争反対のデモ行進でした。会場に着いたらどんなことが待ち受けているか、まったく想像もつかなかった私たち。乗り込んだ電車のなかで、プラカードを持ったほかの乗客とおずおず微笑みあったのを覚えています。目的地に着くと、それまで見たこともないくらい大勢の人がどっと駅からあふれて、とても驚きました。でも、人混みのなかにいるうちに、徐々に安心感が湧いてきたのです。デモが始まると、みんなで通りを埋め尽くし、声を合わせて歌ったり、スローガンを叫んだり。戦争という悲しい出来事を非難するための抗議でしたが、あのとき私たちの胸を占めていたのは、人間に対するひとつの愛のかたちでした。
当時、世界のあらゆるところで何千万人もの人が反戦活動をしていました。それでも、戦争は変わらず起こっていました。だから、「これ以上抗議をしたところで何になるんだろう?」と思っていた人もたくさんいたでしょう。しかし、デモ行進をすることは、変化へと続くもっと大きなうねりのなかの、わずか一部分にすぎないのです。「ある抗議が成功するための確実な方法」なんてものは存在しません。どれほど多くの賛同者を集めたとしても同じです。さらに言えば、成功するとしても、プラカードに自分が書いた内容と必ず一致するとも限らないのです。
抗議の力学というのは、不思議なものです。何か特定のゴールを達成するよりも、活動そのものを確立していくことこそが、勝利を意味することもあります。あるいは、シンプルにみんなで力を合わせて、希望と喜びを持ち続けるだけで十分な場合もあります。―カール・マルクスは、革命とは1匹のモグラのようなものだと考えていました。ほとんどの場面では地面のなかに隠れているが、着実に前へ進んでいき、急に地上へと表われるのだ、と。何も変わっていないように見えて、じつは水面下で進化が起きているのです。確かに、私たちが参加したデモも、それだけでは戦争を止めることはできませんでした。それでも、参加者1人ひとりの背景のちがいを乗り越えて、長期的には害をもたらすだろう政府の選択に対し、グローバルに戦っていく―そんな活力に満ちた運動を作り出していたのだと思っています。
はじめてデモに参加して以来、私たち姉妹は、どんなものでも抗議活動になりうるのだと知りました。踊ったり、ランチカウンターに座ったり、家からテレビを持ち出して外を歩いたり、野菜を育てたり、山でキャンプをしたり、歌ったり、棒の先端にパンを刺して掲げて歩いたり……。こうしたものすべてが、歴史を動かしてきたのです。抗議活動とはそれ自体がアートであって、常にかたちを変えていきます。ただ、その中心にある考え方はいつも同じ。みんなでひとつになって、真実を語り、世界を変えていくということです。
歴史のなかでも有名な抗議活動の多くには、それぞれ特別な名前がついています。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアやマハトマ・ガンジーのように、1人のリーダーが素晴らしいアイデアを提唱して、運動を先導した例もあります。でも、何よりも大切なのは、人々が力を合わせていく試みそのもの。そして、主役は1人ひとりの個人なのです。
そうやって団結して行動を起こしていった人々こそ、この本で紹介するリアルなヒーローです。抗議活動を語るうえで重要なのは、歴史に刻まれた人の名前や世界を変えた出来事の名称ではなく、そこでどんな行動が為されたのかということ。公民権や性的マイノリティの権利を勝ち取り、今日の私たちに女性の投票権や8時間労働制をもたらし、独裁政権を倒して国家を解放していったのは、紛れもなくそこに生きた人々の行動だからです。
世界がこの先どうなっていくのかは、あなた次第なのです。
アリス&エミリー・ハワース=ブース 2021年
次回は9/23(水)更新。古代エジプトで起こった、労働者史上初のストライキについてご紹介します。お楽しみに!
プロテストってなに? 世界を変えたさまざまな社会運動
著者: アリス&エミリー・ハワース=ブース
定価: 2,200円(本体2,000円)
帯文: 荻上チキ
翻訳者: 糟野桃代
判型: 235×193mm
総頁: 168頁
製本: 上製
ISBN: 978-4-86152-841-5 C0036