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家庭料理の不思議 -きょうの献立に困ったら

「家庭料理」の特徴

「家庭料理」とは不思議なものです。
誰でも作ることができて、てきとうに美味しい。
この「てきとうに」というところがポイントです。

家庭料理で、大失敗してまずくて食べられないなんて、ありえない。
たとえ調味料や食材を入れる順番を間違えたとしても、たとえ煮込み過ぎたとしても、ほどほどに美味しくできるもの、それが家庭料理なのです。例えば豚汁とか、そうでしょう?

それぞれのおうちで手軽にひとくふうできるのも、家庭料理の特徴です。
簡単に「我が家の味」を創作できる。
「うちは餃子にセロリを入れるの。」「うちではバクチー。」「うちはタレにこだわるの…。」
もちろん餃子の皮はスーパーで買えばよいのです。
安直かもしれませんけど、独自性はそれなりに担保され得ます。

そして材料費は安い!
冷蔵庫に残っていた端材が役に立つ!
もちろん高級な食材を使ってもかまいませんけれど、費用対効果の点から見ると、割に合わないのではないでしょうか。宮内庁御用達の最高級のキャベツを使った焼きそばなんて、値段に正比例して美味しいと思えますか?

気合を入れて作ってもかまいませんが、真剣勝負は疲れるもの。
何故、家庭で料理を作って疲れなければならないのか。
疲れたから、食べるのではないのか。
そんなわけで、グラスワインや缶ビールを片手に、ちびちび飲みながら、慣れた手つきで作って、「まあまあいいんじゃない」と自己満足できるのが、また家庭料理の魅力です。
たらこスパゲティなんか、そうでしょう?
なんとなく、のどかだなあって、平和だなあって、そんな気分で、スパゲティが茹であがるのを待ちます。

そのくせ科学的に検証可能な知恵がぞんぶんに込められているのも家庭料理の特徴です。
例えば豚の生姜焼き。あれは生姜の成分が豚肉を柔らかくしているのです。
一晩、しっかり味濃いめに漬けこんだバラ肉の美味いこと!


「家庭料理」とは対照的なもの

「家庭料理」の不思議さがいまいちピンとこないというのならば、自分の家でローストビーフを作ることを想像してみればよい。アレはいわゆる家庭料理の真逆にあるものだ。
そもそも材料費が高い。だから滅多に作らない。パーティーとか、特別な日にだけである。だからまた失敗してはいけないと、レシピを読みながら緊張して作る。
折角だからいつものテーブルワインじゃあもったいないと、何年物とかを、飲む何時間前に開けてと…、だんだん計算することが増える。
明らかに普段着気分で大雑把にまったりと作るものではない。
それが悪いわけではないけれどもさ。


日常性への注目

要するに家庭料理は日常性がポイントなのだ。
偉大なるルーチンワーク、それが家庭料理なのである。
あたりまえができる―、その偉大さをひとはしばしば忘れるけど、みずほ銀行のシステム障害などに遭遇すると、もういちど、思い出すことができる。

非日常も大事だが、日常もまた大事だ。
革命という非日常の国、フランスでも、家庭料理はちゃんと存在する。
そんなに凝るわけではない。
ただ前菜・主菜・デザートの順番だけは頑なに守る。
キャロット・ラペで始めて、冷蔵庫の端材で作ったキッシュ(もちろんパイ生地はスーパーで購入)を主菜にして、最後は市販のヨーグルトとか。定番ですな。


ルーチンワークができること。スイッチを押すと、作動すること。ツーとカーでわかりあえること。「おなか減ったあ」の声を聞いて、「チャーハンならすぐにできるよ」と答えること。

一見、些末で、人目を引かないかもしれないけれども、大切なことってありますよね。
それはしばしば感覚的で経験的なものだけれど、そこに言葉を与えてあげられるとき、またひとつ自分の日常が豊かになるような気がするのです。

きょうの献立、いつものアレでいいんじゃあないですか?

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