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清風堂のおすすめ vol.6(2023/10/15)

清風堂書店の谷垣です。
久しぶりにフェアのご紹介です。さっそくいきましょう。


街歩き・路上観察のすすめフェア

 秋といえばなんでしょうか。食欲の秋・スポーツの秋・読書の秋などいろいろありますが、今年の秋は街歩き・路上観察なんていかがでしょうか。今年は厳しい残暑で、なかなか外を出歩く気になれませんでした。やっと涼しくなってきた今が、街歩きのチャンスです!

おすすめは左手前に積まれた「路上観察」にまつわる本。
スタッフのUさんがフェアの看板を作ってくれました。
渋くてかっこいい!想像の街角。

 「歩く」にまつわる本を幅広くそろえています。お遍路・歴史・哲学・アート・地理地形・歩き方の指南書 etc…。そのなかでも一番手に取っていただきたいのは、「路上観察学」といわれるジャンルです。赤瀬川原平の『路上観察学入門』をはじめ、路上に落ちている「片方だけの手袋」から都市と人を読み解く『片手袋研究』など、路上観察学は日常の何気ない風景に注目します。日々の風景がさまざまな驚きに満ちていることが見えてきます。

これから出る本

『サピエンス全史』文庫化!

 11月上旬発売予定。ついに文庫化です。続編の『ホモ・デウス』『21Lessons』は先に文庫化されたというのに、いつになるのだろうとずーっと待っていた方も多いはず。

『インドに「カレー」はない』笠井亮平/ハヤカワ新書

 こちらは12月発売のハヤカワ新書から。なんでも日本人が慣れ親しむ「カレー」は、イギリス人が植民地時代のインドに押し付けた概念であり、インド人は「ダール」「サンバール」「コルマ」と細分化して呼ぶそうです。そういえば、日本にはインドカレーのお店はかなり多いですが、あれはあれで日本人の口に合うように考えられているんでしょうね。インドにはもっと多様なカレーがあるにちがいない。

『メタゾアの心身問題』みすず書房

 11月発売。話題となった『タコの心身問題』の第二弾です。前作では「心や経験はいかにして生じるのか」がテーマでした。今回は「メタゾア Metazoa」を通して、その思索が深められているとのこと。メタゾアとは日本語で「後生動物」のことで、生物学者のエルンスト・ヘッケルが多細胞の動物を指すために導入した言葉らしい。素人にはなんのこっちゃですが、前作が話題になっていた記憶があったので紹介してみました。

『古本屋 タンポポのあけくれ』夏葉社

 こちらはもうすぐ発売。もちろん当店にも入荷します(ご予約も承ります)。Amazonでは古書価格が高騰しているようで、マニアにとっては待望の復刊。私は古書についてあまり詳しくないため「へぇ、そんな本があったんだ」としか考えが及ばないのですが、夏葉社が復刊するものなら読んでみたくなります。貼函入というのも嬉しいですね。入荷が楽しみです。

おわりに

クラウディア・ゴールディン氏がノーベル経済学賞受賞

 10/9に発表されました。女性が単独受賞となったのは史上初とのことです(女性受賞者としては3人目)。

従来の研究では、女性の就業率は経済発展に伴って上昇すると考えられていました。しかし、ゴールディン教授は主要産業が農業から工業に移り変わることに伴って既婚女性が仕事と家庭を両立することが困難になることなどから女性の就業率が低下するとしました。そして経済のサービス化が進むことで就業率が増加するとして、U字型のカーブを描く構造を初めて明らかにしました。

上記引用元より

 おそらく、邦訳で読めるものとしては『なぜ男女の賃金に格差があるのか』(鹿田昌美(訳)/慶応義塾大学出版会)のみです。より手軽に読めるものとして『ジェンダー格差』(牧野百恵/中公新書)がおすすめです。本書の第5章・第7章では、ゴールディン氏の研究がコンパクトに紹介されています。

学術研究のエッセンスを新書で読めるありがたさ…。

 私事で恐縮ですが、私には生まれて3カ月の子どもがいます。妻が妊娠してからは、はじめて知るようなことがたくさんありました(もちろん現在進行形です)。出産一時金や児童手当の申請、育休の取得、産後ケアはどこで受けられるのか、子育て支援に手厚いのはどの自治体か・・・。もちろん社会の制度面だけでなく、「紙おむつってこんなにたくさん使う(からお金がかかる)んだ」とか「家事の役割分担がなかなかうまくいかない」など、日々の生活でも細かな気づきが増えました。それまでまったく気にすることのなかった事柄が一気に押し寄せてきたのです。ただし、それは私が気にしてこなかっただけで、以前から身近な問題であったことに変わりはありません。見ようとしてこなかった私が、当事者になることで見えるようになった。
 これを裏返せば、当事者でなければ気にしなくていいとは限らない、と言うこともできるでしょう。当事者でなくても、当事者に100%共感できなくても、利害関係のまったくない問題であっても、知ることは可能です。そこで大事になるのは<良心>や<気持ち>ではなく、私たちが生きている社会の<構造>に問題があると、事実として受けとめるということ。(注1)
 そして、<構造>に問題があることを気づかせてくれるのが学問です。今回、ゴールディン氏の研究もまた一つの事実を見せてくれています。新書なら1000円で研究の最先端を知ることができます。かたい内容かもしれませんが、すこし背伸びして読んでみるのもいいのではないでしょうか。私もチャレンジしてみようとおもいます。
 今回のノーベル経済学賞はあまり注目されていないようだったので、最後に取り上げてみました。

(注1)『<公正(フェアネス)>を乗りこなす』(朱喜哲/太郎次郎社エディタス)では、哲学者ジョン・ロールズの言葉を引きながら、社会を安定的に営むためにはお互いの利害関心に対して積極的に無関心であることが求められると述べています(第6章)。私たちは時に想像力を暴走させ、ほかの誰かの利害関心を自分の損得と結び付けてしまいます(たとえば陰謀論もそのパターンです)が、それにブレーキをかけることが必要です。こうしたテーマに関心をお持ちでしたら、ぜひ読んでいただきたいとおもいます。

(終)

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