「正調粕取地理学」の提起と展望

■現地調査「正調ミステリーハンター in 島根」

突然ですが、島根県に単独現地調査に行くことにしました。

★日時:3/16(月)~3/17(火) 
 ※3/15(日)の夜に出雲空港到着
 ※3/18(水)の昼に出雲空港出発

★交通手段:レンタカー(試飲できないのは辛いですが…)
★訪問場所:正調粕取があるところに神出鬼没(現在計画中)
 ※現時点で訪問が確定している場所
 ・酒持田本店(正調粕取「ヤマサンのかほり」蔵元)
 ・李白酒造(正調粕取「李白」蔵元)
 ・米田酒造(正調粕取「七寳」蔵元)
 ・簸上清酒(正調粕取「簸上 粕取焼酎」蔵元)
 ・粕取焼酎を使用している「あご野焼き」の製造元
★ミッション
①島根県の正調粕取事情を把握するため、現地の作り手、売り手、飲み手などに直接お話しを伺う。
②県外に出ていないものを中心に、正調粕取焼酎を買えるだけ買う。
③正調粕取焼酎存続の基盤となっている島根県の気候風土を体感する。

そこで、読者の皆様へのお願いです。
もしも調査の役に立ちそうな情報をお持ちでしたら、以下のTwitterアカウントまでお寄せください。

今回はこれにて、、、ではなく、まだまだ続きます。

以下では、この現地調査を構想するに至った経緯と、「正調ミステリーハンター in 島根」という珍妙なタイトルの背景を書いていきます。

■「粕取三大聖地」(九州北部、島根、会津)

各種文献によれば、正調粕取焼酎は、江戸時代から戦後にかけて全国各地で製造されていたと言われており、実際に、北は北海道(国稀酒造など)から、南は鹿児島県(「辛蒸」など)まで、あらゆる地域に過去製造されていたという記録が残っています。
その一方で、現在も正調粕取を製造又は販売している蔵元は、極めて地理的に偏在しています。

先日の記事でもご紹介した東高円寺のバー「ドギーブギー」のホームページでは、現在でも粕取焼酎が多く残る「粕取三大聖地」として、「九州北部」「島根」「会津」の3地域をを紹介しています。

粕取り三大聖地とは、北九州、島根、会津、かと思われます。稲作と日本酒造りが盛んで、蒸留技術などが伝播定着しやすい地域性を持ち、焼酎類の需要が高いなどの各種要因があるのでしょう。(出典:http://doggie-one.server-shared.com/shouchuu_kasutori.htm

自分は正調粕取に興味を持ってすぐの頃にこのページと出会い、その後自分でもインターネットや文献で情報収集に努めてきましたが、知れば知るほどこの「三大聖地」は的を射た現状認識だと感じています。

なお、蛇足ですが、自分としては、これら3地域の他に少なくとも3つの現役正調粕取蔵がある「栃木県」も注目すべき存在だと捉えています。
但し、栃木県は会津(福島県)と隣接し、また、福島県中通り地域と会津の北隣の米沢盆地(山形県)にも正調粕取蔵が存続することを踏まえれば、「会津とその周辺(南東北・北関東の内陸部)」という括りが可能であり、「三大聖地」の妥当性は揺らぎません

■「正調粕取地理学」の提起(4つの仮説)

では、なぜこれらの3地域(とその周辺)で特に正調粕取蔵が存続しているのでしょうか
この問いに答えるため、「正調粕取地理学」を提起し、まずはここで仮説を立て、今後の調査でそれを検証していこうと思います。

当初仮説として以下の4つを設定します。

仮説①:正調粕取蔵が存続している主要因は、地域によって異なるのではないか。
一般的に、高度成長期以降に正調粕取焼酎の需要が急減した主要因として、「酒類の選択肢の増加」「消費者の嗜好の変化」や「蒸留後の下粕の肥料としての需要の減少」などが挙げられます。
これらの背景・要因は、ほぼ全国共通だと考えらえます。なぜなら、高度成長期には既に、酒類を始めとする商品の全国流通網が出来上がっており、情報もテレビ・ラジオなどを通じて遍く行き渡り、また、近代農法も普及していたからです。
それ故、逆説的に、現在の偏った正調粕取蔵分布の裏には、各地域オリジナルの存続要因があるものと仮定します。

仮説②:九州北部における主な存続要因は「ピーク時の需要の高さ」、次いで「梅酒用としての需要」か。
「粕取焼酎発祥の地」とされる福岡県と、近隣の佐賀県、長崎県、大分県では、農林漁業に携わる人々や炭鉱労働者の間で正調焼酎が愛飲されており、全国でもずば抜けて正調粕取蔵の数が多かったそうです。このことから、現在も藏が残る主な存続要因は、このような「ピーク時の需要の高さ」であるものと仮定します。
また、福岡県では、正調粕取で梅酒を仕込む文化があり、「梅酒用」と銘打った正調粕取の商品まであります。このことも、九州北部に蔵が存続している一要因となっているものと仮定します。
そして、この先は妄想の域を出ないのですが、正調粕取は「太宰府天満宮の神領田」で広まったという説があります。「天満宮」と言えば「梅」ですね。もしも「天満宮」を介して「正調粕取」と「梅酒」がつながれば、ますます面白いことになりそうです。

仮説③:会津における主な存続要因は「柿の渋抜き」か。
会津には「みしらず柿(身不知柿)」という特産品があります。これは古くから栽培されてきた「渋柿」であり、とても食味が良いことで知られ、毎年皇室にも献上されているそうです。
実は、その「渋抜き」には焼酎が使われ、特に「正調粕取焼酎」で渋抜きをすると甘みが引き出されると言われており、渋抜き用の「柿ラベル」(甲類焼酎・粕取焼酎の混和)という商品まであります。
このことから、「柿の渋抜き」という地域独特の食文化が、会津に蔵が存続している主な存続要因となっているものと仮定します。
(なお、会津周辺の福島県中通り地方、栃木県、山形県米沢盆地については、情報不足により仮説を立てることが困難です。)

仮説④:島根における主な存続要因は「漬物」と「蒲鉾」か。
島根県の正調粕取事情をインターネットで検索すると、「漬物」及び「蒲鉾」に関する情報を見つけることができます。
「漬物」とは「酒粕漬け(奈良漬け)」のことであり、酒粕を延ばす際に、同じ風味を持つ正調粕取焼酎が使用されるようです。これに関して、かの「粕取まぼろし探偵団」に次のような記載があります。

島根では粕取焼酎が野菜売場に酒粕と共に置いてあるそうで、酒店の店頭に無いという。奈良漬けへの利用が農村部で遺された需要のようである。(出典:http://beefheart.sakura.ne.jp/tankentai/tanteidan/0824/0824.html

もう一つの「蒲鉾」とは、島根県出雲地方の名物である「あご野焼き」のことであり、製造の際に粕取焼酎を加えること、原料のトビウオの旨みとコクが引き出されるそうです。
これらのことから、「漬物(粕漬け)」と「蒲鉾(あご野焼き)」という地域独特の食文化が、島根に蔵が存続している主な要因となっているものと仮定します。

■各地域の現状把握状況と今後の調査方針

上記の各地域のうち、「九州北部」の状況については、偉大なる先輩「粕取まぼろし探偵団」の蓄積があります。また、最近、福岡出身(東京在住)の友人C氏(正調粕取コレクター)が調査(買い物?)に訪れており、最新情報もある程度把握しています。

「会津」については、会津出身(東京在住)の友人E氏(粕取ソムリエ)の活躍によってある程度の情報を掴んでいることに加え、今年の4月に家族旅行を兼ねた現地調査に行く予定にしています。
また、周辺の「福島県中通り」と「栃木県」については、つい最近、自ら概略調査を行いました(まだまだ不十分ですが…)。

目下最大の課題は、未訪問であり、インターネット上での情報が極めて少ない「島根」です。冒頭で触れた「ドギーブギー」のホームページでも、島根県は「粕取り界のミステリアス・ソーン」と評されています。

特に島根県は超突出しており、県内に22もある焼酎を造っている蔵の内、18蔵が正調の粕取り焼酎を造っています。しかもほとんどの蔵が、その一銘柄のみという極端さ。そのうえ県外出荷がほとんど無い様です(手には入らないっ・・)。という訳で、この地は粕取り界のミステリアス・ゾーンとなっています。何故?(出典:http://doggie-one.server-shared.com/shouchuu_kasutori.htm

という訳で、調査の優先順位を「島根」>「会津とその周辺」>「九州北部」と定め、まずは島根県への現地調査を敢行することにしました。
そして、「ドギーブギー」のホームぺージからインスピレーションを得たこと敬意を表して、「正調ミステリーハンター in 島根」と名付けたのです。

今回はこれにて。

<了>

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