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アンモナイトはそこにいる

某月某日、喫茶店での打ち合わせを終えると、相場さん(書籍『アンモナイト学入門』の著者)が足を止めてじっと壁を見つめている

ついに執筆の疲れが祟ったのか……と思っていると、「あ、ここにいますね」アンモナイト化石である。

百貨店やホテルの壁面などの石材には、こんなふうに化石が含まれていることがある。悲しいもので「ここ」と指を差されても、素人からすると「どこですか?」状態である。

化石を見る眼がないのである(以前、名人にキノコ狩りに連れて行ってもらった時のことを思い出した。次々と見つけ出される姿に、最新鋭のメガネ型センサーを装着しているのではないかと疑った)。もう少しだけ、よく見てみよう。

おわかりいただけただろうか。

いわゆる「ぐるぐる」が見えているわけではなく、ドーナツでいえば上から輪っかを見ているわけではなく、半分こにした時の断面を見ている、と思ってもらえばよいかもしれない。

もともと地下深くにあったものを切り出しているのだから、そういうこともあるだろう(むしろ「ぐるぐる」が見えるほうが珍しい?)。こうした化石が割と普通に見られるのだから、当時アンモナイトは本当にそこら中にいたんだろうなと感心してしまう。

こんなにも近くに、絶滅生物の痕跡がある。一枚の壁が太古の海とつながっている。

そう考えると、日々の暮らしもちょっぴり楽しくなりそうです。
※本書でもコラム「街中アンモナイト図鑑」で石材中の化石を紹介しています。