栄養指導から始めるべきなのか?

突然ですが…



病院管理栄養士のキャリアステップってだいたい決まっている気がします。



①糖尿病、脂質異常症、高血圧、心臓病などの栄養指導
②腎臓病、透析などの栄養指導
③胃術後、潰瘍、IBD、クローン病、低残渣などの栄養指導
④入院患者の栄養管理(栄養出納の計算、食事内容の調整、病態に合った栄養ルートの選択など)
⑤栄養サポートチーム(NST)で多職種と連携した栄養管理
⑥ICU、HCUでの急性期の栄養管理
⑦訪問栄養指導



勝手な個人的なイメージですが、だいたい①→⑦の順にキャリアアップしていく印象です。



もちろん、各病院で事情や体制は様々なので一概には言えません。

①~③の栄養指導は順番が入れ替わったり、他の疾患(妊娠糖尿病、がん栄養、低栄養など)の栄養指導もあります。

また、「④が完全に終わってから⑤、⑤が完全に終わってから⑥…」というふうに一つ一つ段階を登る感じではなく、それぞれがグラデーションを持ちながら徐々に進んで行くものだと思います。

例えば④、⑤、⑥では、静脈栄養や経管栄養の知識が場面場面で必要になりますし、同じ④の段階でも担当の診療科によってそれらに関わる頻度は全然違います。

NSTが院内になかったり訪問栄養指導をやってない病院であれば⑤や⑦はありませんし、慢性期病院であれば⑥はありません。

①~⑦は全て臨床業務ですが、給食業務が直営や部分委託の病院であれば、給食業務ができるようになってから①へ、あるいは給食業務と並行しながら①をやる、ということもあるかもしれません。



というふうに、、、繰り返しになりますが、各病院で事情や体制は様々なので一概には言えませんが、だいたい①→⑦の順にキャリアアップしていくものだと思います。




でもこれって、なんでなんでしょう?



【目次】
■栄養指導はハードルが低い?
■新人とベテランの栄養指導の違いは?
■入院患者の栄養管理
■NST
■ICU、HCU
■訪問栄養指導
■やっぱり難易度の違いはあるけど…



■栄養指導はハードルが低い?

なぜ、栄養指導→病棟栄養管理→NST→在宅と進んで行くのか?の個人的な見解ですが、、、


まず一般的に生活習慣病系の栄養指導はやりやすいから最初、という認識があるからだと思います。


栄養指導はもちろん個人に合わせた指導をするのがベストですが、ガイドラインに従って行えば間違ったことは言っていないわけで、それだけで"合格ライン"には到達するのです。

言い換えれば、間違ったことを言わなければ"最低限"の栄養指導は成立する。


シンプルな例で言うと、糖尿病患者さんで明らかに主食量が多い人がいたとします。肉や魚(表3)や野菜(表6)のおかずはおおむね適量とします。

「主食が多いこと」が問題点であることは、食事内容を聞き取れば栄養士であればすぐに分かるでしょう。

ガイドラインや交換表に従って

「このくらいがあなたにとっての適量で、今あなたはこれの○倍ぐらい食べてるから減らさないといけないです。」

と言えば間違えてはいない訳で、"最低合格ライン"には到達していると思います。




■新人とベテランの栄養指導の違いは?

上記の例で言うと、「どうやって主食を適量にしてもらうか?」を考える訳ですが、このやり方が管理栄養士の個性になってくるのです。


管理栄養士の個性とは、その栄養士の「性格×知識量×経験」だとぼくは考えます。


性格とは、その人のもともとの性格です。笑

優しい性格の栄養士もいれば厳しいスパルタの栄養士もいますよね。明らかに性格が違う栄養士では、栄養指導のやり方、伝え方も当然異なるでしょう。

知識量と経験は、多ければ多いほど栄養指導の引き出しも増えてきます。ベテランに比べて新人はここが圧倒的に不足していて、経験は一朝一夕で増えるものではないので、まずは知識を増やすことが先決ですし、知識を増やすことである程度の自信にもなるでしょう。


余談になりますが、知識の種類にも「病態」「栄養素」「食品」「調理」など多岐に渡ります。中にはスーパーやコンビニ、外食で売っているものの知識も必要です。


ぼくたちの仕事は「実践科学(実践栄養学)」なので、教科書に書いてあることを伝えるだけではなく、それらを「どう生活に落とし込むか?」の知識(というよりもアイデア)が貴重であり存在価値なわけです。

新人とベテランの栄養指導の違いの一つはそこにあるでしょう。


その他の違いでは、患者さんをいかにやる気にさせるかのスキルが大きいと思います。

やる気がある患者さんや食事療法に興味がある患者さんに栄養指導するのと、それらに興味がない患者さんに栄養指導するのとでは、やりやすさが雲泥の差です。

やる気がない人をやる気にさせるのは、もはや栄養学というよりも心理学の分野になると思います。ここはぼくもまだまだ苦手意識があるので、精進しなければならなぁというところです。



ここまで見てきたように、新人とベテランの栄養指導の質は確かに違うでしょう。

でも、新人でも最低合格点が取りやすい、という側面も確かにあり、そのために「まずは栄養指導から」となるのだと思います。




■入院患者の栄養管理

栄養指導は主に外来を想定して述べてきました。では、入院患者の栄養管理のハードルはどうでしょう?

ここもまたぼくのイメージですが、やっぱり入院患者の栄養管理は、外来の栄養指導よりも"少しだけ"ハードルは高いと思います。

その理由を以下に書いていきますね。


①入院患者は外来患者よりも重症

入院患者は外来患者よりも基本的には重症です。入院して治療しなければならないので、当たり前っちゃ当たり前ですね。

なので、症例によってはわずかな栄養素の違いで容体が急変する可能性もあります(例:高K血症による心不全)。


②見る項目が多い

入院患者では外来患者よりも見る項目が多いです。

バイタル、血液検査値、食事摂取量、輸液内容、In・Outのバランス、介護度や自宅での生活状況、同居人・家族関係、治療・リハビリ状況などなど…

外来では特に気を配らなくても良い項目もありますが、入院患者ではほぼ毎日これらの状況を把握していきます。


③他職種と関わる機会が多い

外来・入院問わず栄養指導は、基本的に患者さんと一対一です。なので、栄養指導業務については他職種と関わることはほとんどありません。

ただ入院患者の栄養管理では、必ず他職種と関わる必要があります。

食事内容について医師や看護師に相談・報告したり、輸液内容や内服について薬剤師に相談したり、リハビリ状況についてPTやOTに相談したり、嚥下状態や食事形態をSTと一緒に確認したり…

患者さんのことを一番把握しているのは看護師さんなので、朝や夕の食事状況、家族の事情など、いろんなことを看護師さんから情報収集したりします。逆に他職種から栄養や食事について尋ねられることもあります。

他職種と関わるうえではいろんな専門用語が飛び交いますし、もちろんコミュニケーション能力も必要になります。

そういった意味では、やはりハードルは高いでしょう。




■NST

NSTの運用方法や病院内での立ち位置は病院ごとに異なるので一概には言えませんが、やはりハードルは少し高いと思います。しかし、入院患者の栄養管理の延長線上にあるとも考えられるので、そんなに身構える必要もないのかなと思います。

NSTは栄養状態が悪い患者さんに介入するので、より綿密な栄養アセスメントや栄養処方が必要になるでしょう。

検査値を見てしっかりアセスメントする能力や静脈・経腸栄養の知識、疾患の知識など、要求されるレベルは高いイメージです。

しかし、普段の入院患者のアセスメントができていれば自然と上記の能力は身についていくと思います。

ハードルが高いもうひとつのポイントは、プレゼンテーション能力が要求される、ということです。病院ごとでカンファレンスの進め方は異なるとは思いますが、管理栄養士が医師をはじめ他職種に症例のプレゼンをすることが多いのではないでしょうか?

となれば、端的に分かりやすくプレゼンする能力が必要で、そういう意味でのハードルも高いと思います。




■ICU、HCU

ぼくはICUやHCUを担当したことがないので想像になってしまうのですが、やはりハードルは高いと思います。

急性期の栄養管理ではより早期(48時間以内)に経腸栄養を開始することが推奨されていますが、経腸栄養を開始するに当たって検討する項目が様々あります。

入院前に絶食期間はあったのか、臓器不全や全身状態の把握、循環動態、輸液内容、基礎疾患など…(これも想像で書いているので間違っているかもしれませんし他に検討項目はたくさんあるのかもしれません)

これら項目を、新卒栄養士がいきなり把握して栄養管理をするのはなかなか厳しいでしょう。




■訪問栄養指導

こちらも経験がないため想像になります(1度見学したことはあります)。

在宅では病院や施設と違って医療機器がほぼゼロです。また、基本自分の身ひとつで行くので誰にも頼ることができません。

病院や施設であれば周りに職員(他職種や上司、先輩)がたくさんいるので、困ったときにすぐに相談できますが、在宅ではそれができないということです。

想像するだけで怖いですよね。笑




■やっぱり難易度の違いはあるけど…

はい、やっとここからが本当に言いたいことです。


ここまで見てきたように、やはり「栄養指導→入院患者の栄養管理→NST→ICU・HCU→訪問栄養指導」の順に難易度は上がっていくようです。


もちろんグラデーションはありますし、それぞれにおいて難しいポイントがありそれらは直接比較することが難しいため、「栄養指導よりもNSTの方が高等な技術が求められ、NSTをしている人の方が偉い」ということはないと思います。

むしろあなたの上司(もしくはあなた自身)がこのような考え方だとしたら、それは視野の狭い、考えが偏った管理栄養士だと思いますし、病院管理栄養士の仕事についての理解が甘いです(新卒1年目がなに偉そうなこと言っとんねん、って感じですね笑)。


また、難易度の違いがあるからと言って「栄養指導から始めなければならない」理由はあるのでしょうか?ぼくは「新卒は栄養指導から」というのも視野が狭く考え方が偏っていると思います。

むしろ、新卒こそNSTやICU・HUCといったハードルが高い業務を早く経験させることが大切だと考えています(もちろん先輩の見守りやアシスト付きで)。

いきなりレベルの高い環境や業務を経験できれば、それ以降の業務のハードルは一気に下がります。例えば、いきなりICUを経験すれば、入院患者の栄養管理やNSTに対する取っ付きにくさなどはなくなると思います。特にいきなり輸液管理や早期経腸栄養管理、循環動態の管理など、多くの人が難しいと感じる(と思われる)ことをこなすので、自信にもなるでしょう。

また、いろいろなキャリアパスを用意することで個性ある管理栄養士が育つと考えます。例えば、いきなり訪問栄養指導を経験すれば、その後の外来や入院の個人栄養指導を行う際の視点や指導内容も違ってくるはずです。

普段は訪問栄養指導をしている上司が入院患者さんに栄養指導をした際、「どうしても在宅目線でアドバイスしてしまうな~」と言っていました。入院患者さんに栄養指導をする場合、「その患者さんが退院して家に帰ったあと」のことを話すので、必然的に在宅目線が必要になるのです。

独居なのか同居なのか?調理担当者は誰なのか?調理環境はどうなのか?買い物は誰が行くのか?入院前後でADLの変化はあるのか?デイサーピスや訪問リハなどのサービス利用はあるのか(あればそれに準じた栄養摂取が必要)?など…

もし訪問栄養指導の経験があれば、その経験を活かしたアドバイスやこれまでの症例の蓄積から「こういう人にはこういうリスクがある」といった予測もできるわけで、より有効な栄養指導ができると思います。

初めに訪問栄養指導を経験した栄養士は、外来や入院の栄養指導の評判が良くなるのかもしれません。



最後にもう一つ。業務の難易度と管理栄養士個人のレベルを見て担当を決めるのではなく、「やりたい人がやる」のが一番良いです!!!

働く側としては「やりたいことができる」ことの方が精神衛生的に重要ですしそのほうが上達も早いと思います。


新卒で「在宅やりたいです!」っていう人がいたら「なんだ生意気なやつ」と思うんじゃなくて「良いじゃんやってみろよ!失敗しても助けてやるからさ!」って言ってくれる上司に巡り合いたいですね。



もしこれを読んでいる教育担当の栄養士の方がいれば、ぜひご検討を。笑

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