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栄養士のぼくが肺がんについて語る

管理栄養士のせいです。

日々患者さんと向き合っていますが、なかなか臨床に活かすための勉強ができていない今日この頃です。

今回は、そんななかで最近勉強したことをアウトプットします。

ぼくが担当している病棟の主な診療科の一つである「呼吸器外科」、そしてその中でも最も多い「肺がん」に焦点を当てたいと思います。

【目次】
■肺がんとは
■肺がんの疫学
■肺がんの原因
■肺がんと食事
■肺がんの予後予測
■参考文献
■おまけ

※おまけのみ有料にしています。おまけでは、文献を読んでの感想や、日々ぼくが経験している肺がん患者さんへの栄養管理について書いています。興味のある方は購入して読んでいただければ幸いです。

■肺がんとは

言葉そのままですが、肺がんとは「肺(気管や気管支、肺胞など)から発生したがん(悪性腫瘍)の総称」です。

肺の部位の名称が出てきたので、下の図で部位の確認をおねがいします。

気管は鼻や口から繋がる軟骨と筋肉からなる空気の通り道です。声帯から10cmくらいまでが気管です。肺は左右にあるので気管は二つに分かれます。そうやって気管が分かれたものが気管支です。気管が23回分岐すると肺胞になります。

管理栄養士として大事なのは気管支の角度です。左右で気管支の角度が違います(下図)。

右の気管支の方が角度が小さいので、誤嚥した食べ物は右の方に落ちやすくなります。したがって、レントゲン写真で右の方が白くなっていると、誤嚥性肺炎の疑いが強くなります。

こちらのブログでも解説されています。

■肺がんの疫学

下のグラフは「主な部位別がん罹患数の年次推移(男女合計、全年齢)」です。黄色が肺がんですが、第3位となっています。

次のグラフは「主な部位別がん死亡数の年次推移(男女合計、全年齢)」です。黄色の肺がんは、圧倒的第1位ですね。

次のグラフは「主な部位別がん死亡数の年次推移(男女別、全年齢)」です。普通の線が男性で破線が女性です。男性では圧倒的第1位、女性では第2位となっています。

罹患数では3位なのに、死亡数はなぜ1位(男女別だと男性1位・女性2位)なの?

という疑問があるかもしれませんが、これは、肺がんは比較的早期の段階で見つかりにくいからだと言われています。

続いては「肺がんの進行度別5年相対生存率」です。限局、領域、遠隔の言葉の意味は図に書いてあるとおりなので読んでいただければ分かると思うのですが、限局→領域→遠隔の順にがんが進行している状態です。

一番最新のデータが2006年~2008年と古いのですが、限局だと80%の人は5年は生存できる、ということですね。領域や遠隔になるとガクッと5年生存率は落ちます。

グラフで見てきたように、肺がんに罹る人はそこそこ(第3位)ですが、肺がんで亡くなる人は圧倒的1位、だということが分かります。したがって、肺がんを早期発見すること、もしくは肺がんにならないような生活習慣をするのが重要です。

■肺がんの原因

肺がんは、肺の正常な細胞のDNAが損傷することで発生します。これは肺がんに限らず、全てのがんに当てはまりますね。

皆さんご存知のとおり、肺がんの原因として最も影響が大きいのは喫煙です。非喫煙者に比べて喫煙者が肺がんに罹るリスクは、男性で4.39倍、女性で2.79倍となります [1]。

その他に下記が原因と言われています。

〇環境、職業要因
→アスベスト、ヒ素、クロム、ニッケル、大気汚染など
〇呼吸器疾患の既往
→COPD、肺結核など
〇家族歴、年齢

■肺がんと食事

肺がんは他の主要ながん、特に胃や大腸と比べると、食事との関連はかなり薄いです。考えてみれば当然かなと思うのですが、胃や大腸と言った消化管は食物の消化、吸収を行う部位なわけなのでそれだけ影響を受けるのだと思います。

肺がんとの関連でエビデンスがあるのは果物です。

世界がん研究基金とアメリカがん研究協会の調査によると、果物やカロテノイドを含む食品摂取により「ほぼ確実」に発症リスクは低下し、1日当たり果物を80g摂取すると発症リスクを6%低下させる、と言われています [2]。

日本の研究では、「果物摂取により肺がん発症のリスクが低下する可能性がある」とがん予防研究班により結論づけられています [3,4]。

下図は文献4から抜粋したものです。1日当たり70~100gの果物を摂取すると肺がん発症リスクが8%低下する、という結果です。

一方「野菜はどうなんだ?」ということですが、野菜に関しては肺がんの発症リスクを低下させる、という明確なエビデンスは無いようです。

先ほども出た、世界がん研究基金とアメリカがん研究協会の調査では、野菜摂取により抗酸化物質などによる発症リスクの低下が期待されるが、非でんぷん質野菜の効果は「限定的・示唆的」とされています 。

その理由としては、研究によって野菜の分類方法が様々であり(非でんぷん質野菜、アブラナ科以外の葉が緑の野菜、にんじんなど)、かつそれぞれの分類における研究が少ないため、とされています。

ちなみにですが・・・

上ででてきた抗酸化物質の一つにβカロテンがあります。βカロテンの摂取によりがんが予防できるのではないか?という仮説のもと、βカロテンのサプリメントを摂ることでがんを予防できるかを検証する研究が行われました。

しかし、多くの研究の結果、βカロテンのがん予防効果は否定されました。むしろその逆です。

喫煙者がβカロテンのサプリメントを摂取すると、肺がんのリスクが10~20%増加した、というメタアナリシスの結果があります。

■肺がんの予後予測

栄養指標を含めた予後の予測因子を検討した文献をいくつか紹介します。

1.手術を受けたステージⅠBの非小細胞肺がん患者における、術前の血小板-リンパ球比とリンパ球-単球比を組み合わせた指標の予後予測の有用性 [5]

〇対象:非小細胞癌(ⅠB)の肺がん患者577名(1999/1~2009/12)
〇年齢:60歳(中央値)
〇観察期間:93.8ヶ月(中央値)
〇アウトカム:生死

用いた指標はLMR(リンパ球/単球)、PLR(血小板/リンパ球)、NLR(好中球/リンパ球)、小野寺らのPNI(=10×Alb(g/dL)+0.005×TLC(/mm3))です。

LMR、PLR、NLRは主に炎症反応を反映するので、栄養状態というよりも腫瘍の状態を表すとされています(この辺は知識不足でぼくも詳しいメカニズムはわかりません汗)。

小野寺らのPNIは見たことがある方も多いかもしれません。アルブミンと総リンパ球数から算出され、栄養・免疫指標として使用されます。元は、外科手術の可否を判断するために開発され、40未満だと外科手術禁忌とされています。

詳しい背景は元論文を参照していただきたいのですが、ざっくり言うと「LMR、PLR、NLR、PNIの予後予測の有用性は他のがんでは示されていたけど、非小細胞肺がんのステージⅠBでは言われてないから検討したよ」って感じです。

また、同様の理由で、LMRとPLRを組み合わせた指標(LMR-PLR)も検討しました。

こういった血液データで予後予測するのは簡便であり安価である、というメリットがあります。

さて結果ですが、まずはROC曲線により予後予測するための最適なカットオフ値を算出しました。ROC曲線については、こちらのサイトが分かりやすいです。

ROC曲線により算出されたカットオフ値は下記のようになります。また、LMRとPLRの値に基づいてLMR-PLR scoreも算出しました。

NLR: 3.13  PLR: 81.07
LMR: 3.16  PNI: 49.55
【LMR-PLR score】
LMR>3.16 and PLR≦81.07 → 2
LMR>3.16   or   PLR≦81.07 → 1
LMR≦3.16 and PLR>81.07 → 0

たくさん指標があって分かりづらいですが、
LMR、PNI、LMR-PLR score → 大きい方が良い
PLR、NLR → 小さいほうが良い

となります。

それぞれの指標で分類して生存曲線を書いたのが下図です。

※小さくて見えづらいですが、図Cの凡例がLMRとなっていますが、正しくはPNIです。論文でもこういうミスが残っているものもあります。

生存曲線では、LMR、PLR、PNI、LMR-PLR scoreが生存の予測に有用であり、中でもLMR-PLR scoreが最も有用、という結果でした。

2.栄養状態が肺がんの術後合併症に与える影響 [6]

〇対象:根治的切除術を受けた患者52名(1995/1~1997/5)
〇年齢:64.4歳(平均値)
〇StageはⅠ:Ⅱ:Ⅲ:Ⅳ=35:8:6:3
〇アウトカム:術後合併症

簡単な背景を説明します。

さまざまな部位の手術で、術後の栄養状態の低下が術後合併症や感染症などに関連することがわかっています。アルブミンのような栄養指標が術後合併症の発生を予測する、という研究もあります。

しかし著者らは、肺がん患者では、術後にあまり栄養状態が低下しないことを先行研究で示しました。術後のわずかな栄養状態の低下が術後合併症や死亡に関連するかは明らかではありません。

そこで本研究の目的は、患者背景・手術関連項目・術前栄養状態から、肺がんの術後アウトカムを予測する因子を同定することとしました。

術後合併症の定義は下の表のようになります。

上記のように術後合併症を定義しましたが、この研究では死亡再換気(気管挿管)に注目しています。下の表が、それぞれと患者背景・手術関連項目・術前栄養状態の関連を見た結果です。有意だった項目のp値を赤で囲みました。

英語ですし、元論文を見ないとよくわからない項目もあると思うので、表をまとめたら下記のようになります。

さて、死亡群と気管挿管群で上記のような特徴があることがわかったところで、多変量ロジスティックス回帰分析により、術後アウトカム(=死亡 or 気管挿管)を予測する因子を同定しました。その結果が下の表です。

統計的なことなど細かいことは省きますね。結論、以下になります。

死亡を予測するなら・・・
①術式(全摘or部分)+最大呼吸気圧(MEP%)+呼吸機能(TLCO%)
②除脂肪体重(FFMI)+術式(全摘or部分)

気管挿管を予測するなら・・・
BMI+術式(全摘or部分)

結局、術式や術前の呼吸機能の影響が大きいということですかね~。除脂肪体重やBMIは栄養指標と言えますが。

3.肺がん術後合併症を予測するためのPNIのリスク層別化 [7]

〇対象:非小細胞肺がん患者515名(2005/1~2015/12)
〇年齢:71歳(中央値)
〇StageはⅠ:Ⅱ:Ⅲ:Ⅳ=382:76:48:9
〇アウトカム:術後合併症(Clavien–Dindo分類)

論文の背景としては前の2つの論文と似たようなもので、PNIはいろいろながんの予後予測に有用と示されてきましたが、肺がんではPNIが術後合併症と関連するか分かっていないので検討してみました、という感じです。

対象者の術前PNIは51.4 [48.3-54.3]でした。オリジナルでは40.0がカットオフ値なので栄養状態が比較的良好な集団だったようですね。

術後合併症は「Clavien–Dindo分類でGradeⅡ以上」と定義しました。

術前PNIや患者背景、術前呼吸機能、手術関連項目と術後合併症の関連をロジスティックス回帰分析で検討した結果が下表です。

単変量解析ではPNIの他に、性別や喫煙歴、VC(肺活量)、ヘモグロビン、手術時間、術中の出血量が術後合併症に関連していましたが、多変量解析ではPNIと手術時間が有意に関連していました。

題名のとおり、PNIの層別化によって術後合併症のリスクを予測するために、

50≦PNI   →栄養状態良好
45≦PNI<50 →中等度栄養不良
PNI<45   →重度栄養不良

として、術後合併症やイベントの発生を比較しました。その結果が下表です。

術前PNIが低値ほど、GradeⅡ以上の合併症、エアリーク、肺炎、肺外感染症 (手術部位感染、尿路感染、菌血症)のリスクが増加しました。

■参考文献
[1] Wakai K, Inoue M, Mizoue T, et al. Tobacco smoking and lung cancer risk: an evaluation based on a systematic review of epidemiological evidence among the Japanese population. Jpn J Clin Oncol. 2006; 36(5): 309-24.
[2] World Cancer Research Fund/ American Institute for cancer Research. Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer: a Global Perspective. 2007.
[3] Wakai K, Sugawara Y, Tsuji I, et al. Risk of lung cancer and consumption of vegetables and fruit in Japanese: A pooled analysis of cohort studies in Japan. Cancer Sci. 2015; 106(8): 1057-65.
[4] Wakai K, Matsuo K, Nagata C, et al. Lung cancer risk and consumption of vegetables and fruit: an evaluation based on a systematic review of epidemiological evidence from Japan. Jpn J Clin Oncol. 2011; 41(5): 693-708.
[5] Yongqiang C, Weidong W, Xuewen Z, et al. Prognostic significance of combined preoperative platelet-to-lymphocyte ratio and lymphocyte-to-monocyte ratio in patients undergoing surgery with stage IB non-small-cell lung cancer. Cancer Manag Res. 2018; 10: 5411-22.
[6] R. Thomas Jagoe, Timothy H. J. Goodship, G. John Gibson. The Influence of Nutritional Status on Complications After Operations for Lung Cancer. Ann Thorac Surg. 2001; 71: 936–43.
[7] Okada S, Shimada J, Teramukai S, et al. Risk Stratification According to the Prognostic Nutritional Index for Predicting Postoperative Complications After Lung Cancer Surgery. Ann Surg Oncol. 2018; 25: 1254-61.

以下、おまけです。文献を読んでのぼくの意見や感想、日々肺がん患者さんに接する際に感じることをちょこっと書いています。有料ゾーンになりますので、興味のある方だけどうぞ!

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