私の対立_01

「何度言えば分かるんだ!他のやつならもっと仕事ができるぞ」
今日も上司に叱られる。こっちだって一生懸命やってるんだと心の中で悪態を吐きつつ、会社を出る。

肌寒い冬、真っ暗な駅ホームで自分の白い息をボーと眺める。

ブシューと大きな音をたてて、電車がやって来た。ライトがとても眩しく感じる。


「・・・俺、何やってんだろ?」


取り止めもない疑問を抱き、コートのポッケに手を突っ込みながら私は、電車に乗った。


帰宅ラッシュの時間だからか乗客は多い。つり革を手に持ち、電車に揺られながら、私はなぜか胸が苦しくなった。


家の近くの駅に到着した。たくさんのサラリーマンやolが電車からホームへ歩いていく。


すると目の前に階段を降りようと赤子を抱えながら歩く女性が目に入る。

彼女は、赤子の頭を片方の手で支えながら、もう一方の手でベビーカーを必死に畳もうとしている。その横を何もないかの様に通り過ぎる人々。


助けを求めりゃいいのに・・・。


そんなことを思いながら、私は女性の後ろ姿を見る。私も階段の近くまで来た。女性に声をかける。


「大丈夫ですか、手伝いましょうか?」


いきなり声を掛けたからか女性はびっくりしていたが、少し申し訳なさそうに応える。


「す、すいません。だ、大丈夫です。」
「そうですか」


私はそう言って、彼女の横を通り過ぎようとした。その時、私はふと思う。

すいません?一体何がすいませんなのか?

たかが一言。されど一言。私はその言葉が気になり彼女の方に体を向き直す。


彼女は相変わらずベビーカーを折り畳もうと必死になっていた。


ムカついた。なんだか分からないが、無性にムカついた。

なぜ謝る。この状況を見てなぜ無視できる。

心の底から湧き出る怒りの何かが口から出そうになる。

私は、彼女のところに再度近づいて言う。

「大丈夫ですか、手伝いましょうか?」

彼女は申し訳なさそうに応える。

「・・・お願いします。」

私は、彼女のベビーカー手に持ち階段を下る。駅の改札まで持って行き彼女にベビーカーを渡した。

「じゃ、私はこれで・・・」

そっけない言葉を言って、私はそのまま歩き始めた。すると女性は頭を下げながら言う。

「あの、・・・ありがとうございました。」

私はお辞儀をしてそれに応えた。

大きなお節介なのかも知れない。偽善なのかも知れない。

心の中でモヤモヤを残したまま私は寒い夜道を歩いた。


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