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細かすぎて伝わらない革靴の話(2)「日本発のベヴェルドウェストとは」

職人から聞いた、革靴の細かい話を書いていきます。靴を作る人は靴のどこを見ているのか、あるいはどういう箇所に手間がかかっているのか等を素人なりに紹介していきたいと思います。

前回はベヴェルドウェストについて書きました。

ベヴェルドウェストが靴全体のシルエットをきれいに見せるための技術であること。

そして、それが "ハンドメイドならでは" の技術であること等をお話しました。

・・・

今回はなんの話をするかというと、なんとベヴェルドウェストの話です笑

実はベヴェルドウェストには、前回登場した "普通の" ベヴェルドウェスト以外にも種類があります。

今回は、そのうちのいくつかをご紹介したいと思います。

包み式ベヴェルドウェスト

まずは包み(くるみ)式のベヴェルドウェスト。

下の写真の靴は、包み式で作られたものです。

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一見すると普通のベヴェルドウェストに見えます。

ですが、よぉーく見ると普通のベヴェルドウェストとは作りが違います。

ウェストの部分をクローズアップしてみます。

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ウェスト部分の縫い目が見えなくなっているのは、普通のベヴェルドウェストと変わりませんね。

どこに注目してほしいかということココ

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丸で囲んだところにうっすら縦に境目があるのがわかるでしょうか(めっちゃわかりづらいですけど)

普通のベヴェルドウェストと比べてみると違いがわかるかもしれません。

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左が前回登場した普通のベヴェルドウェストで、右が包み式のベヴェルドウェスト。

包み式のほうは、こことかこことかに境目や段差ができているのがわかります。

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なぜこのようになるかといいますと、包み式では、縫い目をソールの底面から "くるむ" ようにして隠しているから。

簡単にイメージ図にしてみるとこんな感じです。

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ソールの形を作る際にウェストの部分だけ大きめに作っておき、底面に薄く切り込みを入れてその部分で縫い目を隠す、という流れで作ります。

そのため、横から見たときにその部分だけ他のところと質感が微妙に違ってきます。

普通のベヴェルドウェストもいいですが、包み式はそういうちょっとした表情の違いがみられてなんか素敵なんですよね。

手作り感があるというかなんというか。

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ちなみにこれ、普通のベヴェルドウェストに比べてめちゃくちゃ手間がかかるみたいです...

そしておそらく日本でしかやってないんじゃないかとのこと。

日本発、包み式ベヴェルドウェストについてでした。

(包み式という呼び方は僕が勝手にしてるだけで、他では通じないのでご注意を)

木釘式ベヴェルドウェスト

次は木釘(きくぎ)式のベヴェルドウェスト。

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これも一見普通のベヴェルドウェストに見えます。

ですが、裏を見てみるとこうなっています。

じゃん!

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ウェストの部分になんかブツブツしたものが見えます笑

これ、木製の釘が打ってあります。

普通のベヴェルドウェストは、ウェスト部分の縫い目を「隠す」のに対し、こちらはそもそも縫っていない。

縫う代わりに木釘でとめるというパターンです。

この木釘式は、Saint Crispin's(サンクリスピン)というオーストリアのブランドが得意な作りで、イギリスのブランド等でやっているところはないみたいです。

「東ヨーロッパの技術なんちゃうかな」とのこと。

包み式ベヴェルドウェストよりも手間はかからないそうですが、こちらも手作り感があって素敵です。

ベヴェルドウェスト風グッドイヤー・ウェルト

最後は、ベヴェルドウェスト風グッドイヤー・ウェルトです。

前回、ベヴェルドウェストは機械では作れない、ハンドメイドでしか作れないという話をしました。

ベヴェルドウェスト風グッドイヤー・ウェルトについては、機械を使いながら、できるだけベヴェルドウェストのシルエットに近づくように作るという方法です。

例えば、下のような靴。

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こちらの靴は「グッドイヤー・ウェルト製法」という機械式の製法で作られています。

本物のベヴェルドウェストほどではありませんが、それでもかなりウェスト部分が絞られていてベヴェルドウェストに近いシルエットになっています。

ハンドメイドの靴だとどうしても値段的なハードルができてしまうので、「機械縫いでいいからカッコいい靴がほしい!」という方にはいいかもしれません。

ちなみに、ベヴェルドウェスト風なので、よく見るとウェスト部分にも縫い目が見えます。

こちらは、イギリスの高級ブランド、Anthony Cleverley(アンソニークレバリー)Gaziano & Girling(ガジアーノガーリング)などの靴によく見られる作りだそうです。

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以上、3 種類のベヴェルドウェストをご紹介しました。

他にも、

・土踏まず側だけベヴェルドウェストになっているもの(フランス製の靴によくみられるそう)
・グッドイヤー・ウェルト製法で作りながら、ウェストの部分だけ靴の内側に針を通すようにして外側から縫い目が見えないように作られたもの(グッドイヤー・マッケイ)

などのバリエーションがあるようです。

以上、だいぶ細かい話になってしまいましたが、お付き合いくださりありがとうございました。


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