細かすぎて伝わらない革靴の話(1)「靴が"べヴェってる"ってどういうこと?」
職人から聞いた、革靴の細かい話を書いていきます。靴を作る人は靴のどこを見ているのか、あるいはどういう箇所に手間がかかっているのか等を素人なりに紹介していきたいと思います。
早速ですが、下の写真の靴をご覧ください。
黒のローファーです。
この靴は GATTO(ガット)というイタリアのビスポークブランドの靴です。
GATTO は 3 足からしかオーダーできず、さらに 1 足が 20 〜 40 万円していたという超富裕層向けのブランドです。
今はもうなくなってるらしいんですが...
さて、次にこちらの靴をご覧ください。
履き口にゴムがついているレイジーマンと呼ばれるタイプの靴。
先ほどの黒のローファーと比べて、なんだかシュッとした印象がありませんか?
よく見ると足の土踏まずのあたりがキュッと細くなっていて、そのおかげでシルエット全体にメリハリができているように思います。
このシュッとした印象の秘密。
それは「ベヴェルドウェスト」と呼ばれる作りにあります。
先ほどの 2 足を別の角度から見比べてみましょう。
ソールの土踏まずあたりに注目してみると、黒いローファーのほうは縫い目があるのに対して、レイジーマンのほうには縫い目がありません。
縫い目がないということは、縫い代(ぬいしろ)をなくせるということでもあります。
縫い代がなくせるということは、その分スリムアップできるということです。
反対側からもみてみます。
こちらが黒のローファーで
こちらがレイジーマン
土踏まずの反対側あたりを見てみると、レイジーマンの方にはやはり縫い目がありません。
黒のローファーとだいぶ印象が違いますよね。
土踏まずからその反対側にかけて足を一周する線は「ウェスト」と呼ばれ、足のなかでもっともくびれた部分になります。
ウェストをスリムに見せられると、全体の印象もシュッとして見えるようになる。
そのために縫い目をなくし、縫い代もなくす。
これがベヴェルドウェストと呼ばれる作りです。
ちなみに、靴好きの人達のあいだではベヴェルドウェストの靴のことを「ベヴェってる」なんて言うとか言わないとか。
・・・
さて、このベヴェルドウェストなんですが、実はハンドメイドの靴でしか作れないそうです。
下の写真はレイジーマンの製作途中のものです。
ウェストにあたる部分を外側からクローズアップした写真ですが、ウェスト部分にも糸が通っているのがわかります。
実はベヴェルドウェストは、外側から縫い目は見えませんが、ちゃんと糸で縫い合わされています。
縫い合わされた後、ソールの形がハンマーで整えられ、縫い目が隠されます。
そしていろいろな工程を経て、完成するとこんな感じになります。
これがなぜハンドメイドじゃないとできないのか。
ハンドメイドだと、ハンマーで叩いたら縫い目が隠れるくらい内側ギリギリに糸を通すことができます。
これが機械を使うとなると、内側ギリギリに針を入れるのが難しく、もうすこし縫い代が必要になるそうです。
つまり、ハンマーで叩いてソールの形を整えたとしても、縫い代が大きくて縫い目も隠せない。
ベヴェルドウェストは、内側ギリギリを縫うことができて、縫い代が小さくできるハンドメイドだからこその作りなんですね。
・・・
今回はベヴェルドウェストについて書いてみました。
私はこの話を知ってから、街中で他の人の靴の土踏まずあたりを見てしまうようになりました。
みなさんも街中でべヴェってる靴の人を探してみてください。
べヴェってる靴の人がいたら、その人はお金持ちかもしれません笑(ただの靴好きという可能性もあります)
サポートいただいたお金は、全額職人に渡させていただきます。試作のための材料費や、靴磨きイベント等への参加費の足しとして使ってもらいます。