声弐郎の旅備忘 2023夏 その1
Xに載せていた分のまとめ版です。
春からのバタバタも少しは落ち着いて、職場と自宅を往復する。たまには遠くまで足を伸ばしたいなぁ。
「すみません、この日とこの日有休にさせてください」
なんとか金曜日に先回り分の仕事も終わらせて、後輩に引継ぎも済ませて、溜まった洗濯や掃除も土曜に終わらせて迎えた日曜日。
慌ててリュックにカメラと着替えも入れていざ出発。
まずは宇都宮線で小山まで。真夏のピーク…はどうやら去っていないような暑さ。関東平野を北へ疾走する近郊電車。小山駅、人通りは決して多くない旧南口(東口)のだだ広い乗換通路から水戸線へ乗り換える。
水戸線のワンマンカー(5両)に揺られて20分ほど。電車は下館へ。1番線には真岡鐵道のワンマンカー(1両)。Suicaは使えないので切符購入と軽食調達がてら改札外へ。駅前を歩く人はおろか車すら少ないのは休日の朝だからだろうか。 けれどもスイカ色のDCにはいつのまにか座席半分ほどの先客が座っていた。 自分もその列車に乗り込む。
折本でSLもおか号の送り込みと離合。この列車の発車直前、下館の1番線に列ができていた。きっとSL整理券を求める人だったのだろうか。 この列車内は普段使いの人らしき人もいればいわゆる「同業者」も何人か。約70キロで軽快に、夏雲の下の平野をひた走る。広大な田圃と畑、ときどき住宅。厚い雲と湿度の高い空気もあり、遠景となるはずの山々の姿すら見えない。たまに田圃の奥側にポツリと車や人影が見える。SL撮影だろうか。今日の雲行きだとどんな写真が撮れるだろう。
住宅が増えはじめ、緩い左カーブを抜け真岡駅にアプローチ。街や構内も立派で線内主要駅のはずだが、車内精算を告げるアナウンス。少し意外に感じたが、この日は乗車ゼロ、降車数名。この駅でも車内精算が妥当となる理由が分かる気がした。乗務員交代を終え再びエンジンが唸り出す。夏の終わりの雲は見るたびに形を変える。いつ雨が降り始めるかもわからない。10人ちょっとの乗客とともに列車は進んでいく。時折自動音声のアナウンスが聞こえる。西田井にて上り列車と離合。対向の車内には4人ほど。小貝川橋梁を通過し益子に到着する。広大な平野にいたはずがいつのまにか山が迫っていた。途中駅で唯一の駅精算、係員にお渡しくださいのアナウンスが少し新鮮に感じる。
気づくと窓ガラスには雨粒が。振り始めた雨に車輪から金属のこすれるような音、滑走の音だ。そしていざ加速すると空転。唸るエンジン。しかし運転士は加減速を難なく操り、車両はそれに応え定時運行を続ける。ドアが開くとディーゼルのアイドリング音とミンミンゼミの喧騒。ドアが閉まり走り始めれば見える風景がまた変わっていく。緑混じりの黄金色した田圃から少し上って里山へ、下って再び水田、しばらくしたら小集落。遠くには少しの青空といびつな形の積乱雲が見える。
市塙では「同業者」らしき人が何人か下車。おそらく発想は一緒なのだろうが、私はもう少し先に進むことにする。丘陵の中、濡れたレール、上下する慌ただしいエンジン音。途中で見えた牛舎では、何頭かの白黒模様が尻尾を揺らしながらのんびりと餌を食んでいた。列車は坂を下り、道の駅の裏手から茂木駅へと向かう。車内に残ったのは10人足らず。ATSの警告音とともにゆっくりと進入する。この駅も数少ない車外での精算だ。 きっぷを駅員さんに手渡して外へ。 雨の合間の夏の空気を吸い、折り返し時間も短いのですぐにきっぷを買って折り返す。
折り返しの真岡行に乗車。車内は折り返し組がほとんど。車窓にはバイパス道路の立派な構造物。コンクリートの直線的な外形は山と対照的なはずなのに、溶け込んでいるようにすら見える。一体どれほどの費用がかかったのだろうか、などと考えるうちに列車は市塙に到着する。いつの間にか空は再び明るくなっていた。
市塙駅からはバスでの移動。決して広くはない道路に大型の車体が停車する。乗り込んだのは5人ほど、いずれも真岡線からの乗り継ぎだった。冷房が火照った身体を急速に冷やして心地よい。列車とはまた違ったエンジン音を響かせゆっくりと新規路線のクルマは走り出す。雨上がり、外はむせ返るような蒸し暑さの空気。遠くには白と鈍色のコントラストで雲が輝く。途中街を通ったり、田んぼの中を突っ切ったり。決して多いとは言えない客を乗せ、軽やかにバスは走っていく。
バスは市貝町から芳賀町へ。祖母井のバス停には折り返し場にトイレ、駐輪場もあり、これまで鉄道がなかった芳賀町の中心「駅」としての役割を感じる。ここからも乗車あり。その後道の駅と入浴施設も通過。乗降はなかったものの駐車場は埋まっており人気は高そうだ。そしてこの辺りまで来るとバスの本数は結構増えてくるよう。小さな街はいつの間に抜けて、再び実りつつある稲穂の絨毯、その真ん中を突っ切っていく。「芳賀〜」というバス停がしばしば出てくる。町名であり地域名でもあるけれど、ここまで多いのは少し不思議な感覚。 現道とバイパスとがしばらく並んだのちに交差。少し丘を上ってさっきまでの田園地帯からいつの間に工業団地の中へ入っていた。少し工場・倉庫の間を抜けたあと、大通りとの交差点に目新しい線路と電停が見える。ライトライン開業直後。新しい電車に乗ろうとする沢山の人が見える中、バスは2回ほど右折しバスターミナルへと進入する。かくいう私もその新しい路面電車に乗ってみようとしていたのだ。
到着したバスターミナル。待合室やトイレもあり乗り継ぎ場所としての準備は整っていた。電停は交差点の向かい側。2回横断歩道(+信号待ち)渡る必要があるので早めに渡っておいたほうがよさそうだ。と思っていたら乗るつもりの下り便が到着済。次を待とう。新車の磁励音が雨上がりの交差点に響く。
https://twitter.com/i/status/1710298724881101057
こっちでも先刻まで雨が降っていたようだ。線路は一部水に浸かり軌道敷には雲が描かれる。
宇都宮駅行きのホームでは沢山の人が初乗車を今か今かと待っている。向かい側で電車を待つ。観察してみると電停に整理券発行機があり、詰まる要素を少しでもなくそうとしているのがわかる。一方発車票に表示される時刻はすでに過去。ダイヤは乱れているようだ。私も今か今かと待とう。ゆっくりと鮮やかな黄色の電車が迫ってきた。芳賀・高根沢方面に乗車。走るのは工業地帯を結ぶ郊外の広幅員道路。車社会エリアらしさを感じる風景を路面電車で滑るように走る。不思議な感じである。末端区間のため流石に乗っているのは鉄道好きばかり…かと思ったら地元の人のお試し乗車も多く車内はいっぱいいっぱい。数分で芳賀・高根沢工業団地に到着。自動車メーカーの拠点すぐ側にあり、普段は通勤者がほとんどであろうが今日はたくさんの人で賑わう。写真を撮ったり、折り返しの電車を待ったり。
折り返して今度は宇都宮方面へ。引き続き電車は大盛況。開業直後の記念乗車する鉄道ファンはもちろん、近所の親子連れ、地元の高齢者含め客層は様々。郊外の工業団地を抜けたらロードサイド店と住宅が交わる街並みを進み、少し視界が開けたと思ったら大きな鬼怒川の渡河。市街地では旧来から存在していた陸橋を渡ったりと景色は目まぐるしく変わっていく。
途中の商業施設からの客も多く満員電車の様相で宇都宮駅東口に到着。ICカード精算で混雑の割にはすんなりとホームに出られた。エスカレーターですぐJR駅の通路にも出られ、広場には新しい施設もある。便利な新路線、開業直後の賑わいだけでなく今後も賑わいそうと感じた。
一方の西口。東口とは打って変わっていつも通りの夏の昼下がりといった印象。各方面へのバスが昼でも頻繁に出ていく。元からの繁華街であるところの西口側、数年後にはLRTが延伸するとのことでその暁にはまた様相が変わってくるのであろう。楽しみである。
宇都宮を彩る列車の数々を見ながらちょいと急いで引き返す。また来ようと思う。新しい電車がどう街を彩って溶け込んでいくのかを見に。あとは応援しているバスケチームの試合と餃子を目的に。
引き返す前に一息。餃子は混んでいたのと充電がてらチェーンのカフェで休憩。日替わりでエチオピアモカの日を引き当てて少しテンションが上がる。
さて新幹線に乗って引き返そうか…。 (つづく)
余談
ライトラインの利用実績は平日はおおむね予測通り、土休日は予測を大幅に上回るといった状態とのこと。昨今の地方都市における公共交通としては異例と言っていいだろう。
一方、中心部から離れて立地する大規模工業団地が複数存在しており、一定の通勤客があらかじめ見込まれていた点や沿線に既存の大規模商業施設が存在している点、道路整備が進んでおり広幅員の道路がルートとして選定できた点など、宇都宮という都市の事情を踏まえて整備されているからこその実績でもある。そもそも宇都宮市で50万人、都市圏ベースで100万人と都市として決して小さいとは言えないということも忘れてはならない(都市圏では前橋・高崎も同様に100万人規模のはずであるが、双子都市の様相を示す前橋・高崎と宇都宮とでは事情が大きく違う気がする)。一鉄道オタクとしては他都市での新設路面電車も見てみたい気もするが、それは相当ハードルが高いものだと考えざるを得ない。
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