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人間中心設計を進めるために必要な「交渉」について

昨年の今頃はHCD専門家の認定受験のため、コンピタンスマップを読みながらあれこれ頭を捻らせていたことを思い出す。
HCD専門家として認定されるにあたって判断されるのは、過去に取り組んできた実務が専門家としてのコンピタンスを満たしているかによってとなるわけだが、この専門家としてのコンピタンスというのが割と曲者だと思っている。

自分の場合はたまたま実例として挙げられる内容があったのでまとめることができたわけだが、正直なところ人間中心的なコアコンピタンス以上に周辺スキルとしてのプロジェクト推進経験がなかったとしたら、危うかったのではと思わなくもない。
そしてこのプロジェクト推進経験というものに付きまとうのが、今回あえて取り上げてみた「交渉」となる。

プロジェクトマネジメントにおける「交渉」

自社プロダクトを開発するにしても受託でプロジェクト推進をするにしても、プロジェクトマネージャとして活動するのに欠かせないのは「調整」である。
調整ごとは当たり前のように、様々なシーンで発生する。例えばプロジェクト立ち上げ時一つとっても、いくらでも想像がつく。

  • ステークホルダーを決定するとき

  • プロジェクトのゴールを設定するとき

  • プロジェクトにおけるスコープ外を決定するとき

  • スケジュールを引くとき

  • 予算と人員を確保するとき

  • 撤退条件を定めるとき

  • プロジェクトのリスクを洗い出すとき

これら全てにおいて合意形成が必要となり、その都度合意を得るための調整というものが発生する。その調整をやるにあたって実際に行っているのが「交渉」となる。

交渉の作法、または事前準備

少し脱線するが、元々感情的になりやすく交渉というのがとても苦手だったことから、プロジェクトマネジメントをやり始めた頃は本当にきつかったことを思い出す。
一方でその頃勘違いしていたのは、交渉は勝ち負けを決めるアクションだと思いこんでいたことで。もちろん勝ち負けになることもあるが、そうじゃないこともある。特に人間中心設計を推進するための交渉は、根本的にWin-Winを目指すものであるはずだ。

交渉相手は達成すべきゴールと置かれた状況に合わせ当然色々なパターンの人物があり得るわけだが、少なくとも交渉をコントロールするためにいくつか定型化しておくことができる内容がある。
それは、交渉の事前準備だ。

1.目的とゴールを明確にする

交渉における目的とゴールを事前に明確にするのが、まず何よりも重要なポイントだ。
例えば「プロダクト開発のためのリソース確保」をしたいと思った場合、まずは人事権を持つステークホルダーにあたる上席を説得する必要がある。その時に大事なのは少なくとも以下の内容だろう。

  • プロダクトの目的

  • 期待される貢献(大体の場合は売上)

最低限これがないことには、そのプロダクトにリソースを配分すべきかの判断がステークホルダーとしてもそもそもしようがない。

事前に明確化した内容に関する補足としての「何故」や「リスク」、「前提条件」と「制約条件」もしっかりあるに越したことはない。全ては目的とゴールを補強する内容となる。

2.交渉相手のゴールを想像する

合わせて大事なのは、交渉相手にとってのゴールを想像しておくことだろう。
上記の例えの場合、ステークホルダーとして考えるべきは限られたリソースを有効活用することで、効果を最大化することとなる。交渉の結果としてプロダクト開発がステークホルダーにとってのWinになることを明確にしておくと、リソースを適切に配分してもらえる可能性も高まるだろう。

また、ステークホルダーにとってのリスクも想像しておく必要がある。
例えば経営的な判断でプロダクト開発に適したリソースを投資をすることが考えられているとき、そのリソースを付け替えるのは想定以上のリスクがあり得る。
もちろん組織の中では情報量に傾斜があるのは当たり前なので、あらゆるリスクを想定することは難しいかもしれない。一方でそうした情報を得ようとする準備が、何よりも大事だ。

3.双方のゴールを見比べて「勝利条件」を導きだす

Win-Winの状況を作りたい一方で譲れない状況が生じた場合、次善策を用意しておくのも大事なことと言える。
目的やゴールがひとつしかないというケースもなくはないが、目的を達成するためのゴールには大抵バッファがあるものだ。例えば販売単価の交渉であれば、最低金額のラインさえ設定しておけば、それより上の金額はすべてバッファになり得るだろう。
勝利条件が明確でさえあれば、駆け引きにおける譲歩はひとつのツールでしかない。

例えば、優先事項が生じていて直近でのリソース確保が難しいのであれば、スケジュールを後ろに倒し調整をしてもらうというのも一つの勝利条件だろう。
一方でこれ以上スケジュールが後ろに倒せないという場合でも、プロダクトが貢献すべきゴールについて共通認識を持てさえすれば、実現のための手段を講じることができる。

※避けるべきこと 事前準備のない交渉

交渉はテーブルを挟んで行われる両者間のゴールのすり合わせ。互いの勝ち筋を主張しつつ自身にとって不利な内容(負け条件)を飲まないようにしていくことで、双方にとってより良い落とし所を探る行為だ。
そうした場合に大事なのは、相手にこちら側のリスクを突かれないことだ。

例に挙げていたプロダクト開発の場合に考えられるリスクとしては、費用対効果が合わないことだろう。それらに関する質問はステークホルダーとしては当然するべき内容である一方で、事前準備がなく返答ができなかったとしたら、当然ながらリソース確保など夢のまた夢だろう。
もっと言うと、そうした準備のできない人員にプロジェクトマネジメントを任せようとは思わないだろう。

あとはHCDのプロセスを用いたプロジェクトにおいてはあまりない(と思いたい)が、相手方のスタンスとして相手の勝利か交渉決裂かの二者択一に落とし込むような交渉スタイルも十分にあり得る。
こうしたケースに対応する場合でも、事前準備として相手の勝利条件を吟味することができていたとしたら、次善策としての勝利条件を提示しつつ交渉を進めることも可能だろう。

なんだかんだで場数大事

人生は振り返ってみると交渉の連続だったなと思ったりするが、適切に「交渉」だと認識して実務に取り組んだかどうかと言う、その回数が割と大事だったりする。

勝利条件を定め、対話を重ね、結果を出す。

これを意識しながら負け続けるしかないなというのが、正直なところだったりする。

あとはそれを腹くくって進めるため、お守りのようなものがあると多少はましになったりする。
お守り代わりに読んだ、また同じく交渉ごとが苦手という当時の部下にあげた本はこれだった。結構活用できてたようだ。

まとめ

人間中心な考え方を導入することはとても大切だと思う一方で、その考えを適切に浸透させなければプロジェクトはうまくいかない。
そうした意味でも、交渉力というのはあるに越したことはないものなのだと思う。
一方でどうしても場数を踏まないことには、この辺の勘所をつかむのは難しいとも思う。

とはいえ前述の通り人生は交渉だらけなので、交渉に関する自分のスタイルを見つけるというのは割と体の良い投資だと思ってる。
あの頃から比べるとさて、自分は交渉できるようになっているんだろうか。

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