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ルーツ・ミュージックを求めて − チャーリー・ハンター&ルーシー・ウッドワード「ミュージック! ミュージック! ミュージック!」(MOCLD-1005) 2019年4月24日発売!

ルーシー・ウッドワードをシンガーに迎えた、チャーリー・ハンター作品史上初の全編ヴォーカルアルバム

「インストゥルメンタル・ミュージックを演奏するというのは、犬を3匹連れてニューヨークでアパートを探すようなものだ。十中八九ただちにダメだしをされる」チャーリー・ハンターは冗談めかして言う「今、シンガーを得た途端に、待っていましたとばかりに迎えられることになった」。インストゥルメンタルにはその良さがあると思うが、このオフィシャル映像を観れば、誰もがエキサイティングするに決まっているだろう。

チャーリーとルーシーの意外なコンビ結成の発端は、2018年初めにチャーリーがメキシコ人シンガーソングライターのシルヴァーナ・エストラーダと西海岸ツアーの予定にトラブルが生じたことだ。それについて、ルーシーが説明してくれた。「彼女のビザがアメリカから下りなくて、ツアーができなくなったのよ。それで私に連絡が来たというわけ」ルーシーとチャーリーはスナーキーパピーのマイケル・リーグが設立したレーベル「グラウンド・アップ」のレーベルメイトで面識があった。「ツアーの4日前で、そのツアーでは彼女の曲をやる予定だったから、私は単に代役というわけにはいかなかった。チャーリーが「私はブルースがルーツだし、君もブルースがルーツだ。ブルースから始めよう」と言い出して、そうすることに決めたら私にブラインド・ウィリー・ジョンソンとベッシー・スミスのリンクを送ってきた。1920年代のブルースね。チャーリーからどんな曲が好きかも聞かれたので、私たちは30くらいのアイディアを出して当日2時間リハーサルして本番を迎えたのよ」

「音楽的にも文化という面でも、私たちは相性が良かった」とチャーリーは言う。「ルーシーは優れたシンガーで、素晴らしい人であり、今回の冒険に積極的だった」全8公演の間に彼らの演奏はリフ、間の取り方など更にフィットしていくことになった。彼らは会場に向かう車の中でアイディアを生みだして行ったという。ルーシーはその時のことを述懐する「すべてがオーガニックで、驚きの連続だったわね。オーディエンスはそこで起きている事を楽しんでくれている様子だった。4日目になった頃、チャーリーが言ったの「アルバムをつくろう!」って」

録音は2018年11月にノースカロライナ州ハイポイントにあるスティーヴン・リー・プライスのスタジオでおこなわれた。ドラマーにはチャーリーの長年の相方であるデレク・フィリップス。「デレクは2000年から私のレコーディングに参加してもらったり、ツアーに一緒にでている。懐が深くて何でも演奏できる。ハンク・ウィリアムズJrからグレッグ・オズビーまで一緒にプレイしているのは彼くらいだと思うよ」。

そして今作「ミュージック! ミュージック! ミュージック!」が完成した。

日本盤CDのみのボーナストラックとしてハウリン・ウルフの「スプーンフル」ライヴ・ヴァージョンも収録される。この曲に限りドラムは小川慶太、やはりスナーキーパピーが取り持った縁だ。この映像の音がそのままマスタリングされて収録されている。


ルーツ・ミュージックを求めて

古いブルースから始まったこのプロジェクトは、レパートリーに拡がりを見せて、アメリカン・ミュージックを回顧しながら新たな装いで現在に提示する内容になった。

チャーリーが最初に送った曲。ブラインド・ウィリー・ジョンソンの「ソウル・オブ・ア・マン」


ベッシー・スミスの「ユーヴ・ビーン・ア・グッド・オール・ワゴン」

ニーナ・シモンはルーシーのお気に入りのシンガーということで、「プレーン・ゴールド・リング」「プリーズ・ドント・レット・ミー・ビー・ミスアンダーストゥッド(悲しき願い)」「ビー・マイ・ハズバンド」の3曲を収録。「ニーナは声がとてもいいシンガーというわけではないのに、ひとたび歌い始めると、曲は独特の魅力を放ってくる。私にはそれがずっと不思議で彼女に惹き付けられてきた」とルーシーは言う。「悲しき願い」はアニマルズで知っている方も多いかと思う。

ジャズ・スタンダードも採り上げている。ルーシーのリスペクトしているエラ・フィッツジェラルドの歌う「エンジェル・アイズ」、テレサ・ブリューワーの歌う「ミュージック! ミュージック! ミュージック!」をここではセレクト。

ブルーグラス/カントリーからは1973年のヘイゼル・ディケンズ&アリス・ジェラルド「ザ・ワン・アイ・ラヴ・イズ・ゴーン」、1996年のルシンダ・ウィリアムス「キャント・レット・ゴー」


50年代のR&Bからルース・ブラウン「アイ・ドント・ノウ」をセレクト。この曲はルーシーのお気に入りで、キャリアのなかで度々採り上げている。

テレンス・トレント・ダービーもまたルーシーのお気に入りの一人だ。「チャーリーは、ほら、ポップスとか知らないでしょう? 原曲を聴かせたら気に入ってくれて、すぐにアレンジしてくれて上手く行ったの。候補曲にはジョージ・マイケル「フェイス」もあったのよ」そちらも聞いてみたい。ライヴでは聞けるのではないか。


ルーシー・ウッドワードの経歴

ルーシー・ウッドワードは、イギリス生まれ。指揮者の父と歌手の母の下に生まれ、これまでに4枚のリーダー作を発表している。

リーダー作の他に、セリーヌ・ディオン、ロッド・スチュワート、バーブラ・ストライザンド、チャカ・カーン、キャロル・キング、ジョー・コッカーなどの録音にコーラスとして参加している。ルーシーにとってチャーリーの伴奏で歌うことは新たな体験だったようだ。「ビッグバンドやカルテットよりも少ない編成で歌ったことはなかったから。チャーリーは間の取り方についてたくさん教えてくれた。それは単にこのヴァースを歌って、次のヴァースに移って、コーラスというようなものではなかった。彼の世界では「間」はプレイと同じくらい重要なものになっている。それは私にとってチャレンジングだった」という。


チャーリー・ハンターの経歴

今作のような全編ヴォーカルアルバムは、チャーリーにとっても初めてのことである。「楽しかったよ。これまでたくさんのアルバムを作ってきた。ジャズ、ヒップホップの人たちと、ボビー・プレヴィット等とのアバンギャルドなもの、でも、シンガーとパートナーシップを持ってアルバム一枚に臨んだのは今回が初めてだ。自分にプレッシャーが全部降りかかってこないのもあって純粋に楽しめた。グルーヴに身を任せて音楽をドライヴさせるという、自分がやりたいことに集中できている」

グルーヴィなギターを弾く男として、チャーリーはジャズ以外のフィールドでも注目を集め続けてきた。チャーリーが言っている「ヒップホップの人たち」の一人はディアンジェロで、不朽の名作「ヴードゥー」収録「スパニッシュ・ジョイント」を共作している。

ロックのアルバムにも参加していて、ジョン・メイヤーの名作「コンティニューム」収録の「イン・リペア」を共作している。メイキング映像の中でジョンはチャーリーの長年の大ファンであることを語り、「エフェクターにサインをもらったことがあるけど、覚えてる?」とチャーリーに聞いているシーンがある。

彼みたいな人は他にいない。本当にソウルフルで、表現力に富んでいる。
ジョン・メイヤー

チャーリー・ハンターは1967年、ロードアイランド州生まれ。カリフォルニア州バークレーの高校に在学中の頃、ジョー・サトリアーニからギターレッスンを受けている。デビューは1993年。1995年にブルーノート・レーベルと契約してメジャーデビュー。8弦ギターを操る驚異の新人として当時話題になった。

この時期の活動では、セロニアス・モンク、ジェームズ・ブラウン、ローランド・カークの曲しか演奏しないT.J.カークや、スケーリック、スタントン・ムーアとのガラージュ・ア・トロワなどがある。スケーリックやスタントンとは今も仲が良く、たまに一緒に演奏している。


歌モノが過去になかったわけではなく、デビュー前のノラ・ジョーンズをフィーチャーしてニック・ドレイク「デイ・イズ・ダン」をカバーした「ソングス・フロム・アナログ・プレイグラウンド」(2001)が今になって思い出される。ノラが「ドント・ノウ・ホワイ」で注目される前年のことだ。このアルバムには今回ボーナストラックの「スプーンフル」も採り上げられている。

ジョン・エリスとデレク・フィリップスの3人の時代は、三者のバランスがとても良く、この頃のチャーリーの音楽は完成度が高かった。このトリオで六本木/スーパーデラックスでライヴをおこなっている。

ブルーノート→ローパドープ→自分のレーベルと渡り歩き、最近ではグラウンド・アップに所属して前作"Everybody Has A Plan Until They Get Punched In The Mouth"を2016年にリリース。

ギターは10年ほど前から7弦にしている。弦はEADADGBで、ベース低音からEAD+ギター弦から低いEと高いEを除いたセッティング。


Music! Music! Music! 4/24発売!

チャーリーのグルーヴの切れ味と粒立ちは過去作品のどれにも増して優れている。ルーシーは自分のルーツに立ち返ると同時にシンガーとしての新たな領域に踏み込んでいる。今作は二人のどちらにとっても“良いところ取り”となった魅力的なプロジェクトであり、聞く我々にとってもグルーヴィでキャッチーな心躍る体験となっている。


読んで頂いてありがとうございます!